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農医連携教育研究センター 研究ブランディング事業

54号

情報:農と環境と医療54号

2010/3/1
医学部と獣医学部教職員の北海道八雲牧場合同視察?交流会が開催された
平成21年12月22~23日の二日間にわたり、北海道八雲牧場視察?交流会が開催された。参加者および視察?交流のあらましは以下の通りである。
農医連携担当
   陽 捷行副学長
医学部関係者
   相澤好治医学部長、農医連携推進委員長、衛生学?公衆衛生学教授
   岡本牧人医学科長、教育委員長、農医連携推進委員会委員、医学教育研究開発センター運営委員会委員、耳鼻咽喉科学教授
   松下 治学生指導委員会副委員長、教育委員会委員、農医連携推進委員会委員、微生物?寄生虫学教授
   岡安 勲病理学教授、医療系研究科長
   宮下俊之分子遺伝学教授
   守屋利佳教育委員会委員、医学教育研究開発センター運営委員会委員、医学教育研究部門長/准教授
   齋藤有紀子教育委員会委員、農医連携推進委員会委員、医学教育研究開発センター運営委員会委員、医学原論研究部門長/准教授
   中村和生教育委員会委員、一般教育部教授(欠席)
   村田 曻事務長
   岩本孝一学生?教務課長

獣医学部関係者
   伊藤伸彦
   向井孝夫動物資源科学科長、農医連携推進委員会委員、細胞分子機能学教授
   渡辺政茂事務長
   中山 聡総務課長
獣医学部付属フィールドサイエンスセンター八雲牧場
   萬田富治センター長、八雲牧場長、獣医学部教授
   畔柳 正センター環境保全型畜産研究部門准教授
   中井淳二事務室係長
   久保田博昭?山田拓司?小野 泰 八雲牧場技能主任
   庄司勝義?折目 愛?小笠原英毅?松本英典 八雲牧場技能職員
   松本真智子八雲実習所技能職員

合同会議次第 座長:萬田センター長
    1.歓迎挨拶:伊藤獣医学部長
2.訪問挨拶:相澤医学部長
3.農医連携担当挨拶:陽副学長
4.メンバー自己紹介
5.八雲牧場の到達点と医学部学生実習の経過:萬田センター長
夏の実習ビデオ供覧含
6.医学部1年生の現在カリキュラムの状況:守屋医学教育研究部門長
7.意見交換会
八雲牧場における医学部生教育?臨床研究(情操面、卒後も含め)の将来構想
守屋医学教育研究部門長より概要説明
8.まとめ:岡本教育委員長
会議の内容は「博狗体育在线_狗博体育直播【官方授权网站】@医学部八雲牧場視察?交流会報告?資料集:博狗体育在线_狗博体育直播【官方授权网站】@医学部附属研究開発センター、編集:守屋利佳?齋藤有紀子、2010年1月」にまとめられているが、そのなかの医学部教育委員長の感想と意見を以下に抜粋する。
  • 教育の学部間連携には困難な面もあるが、今回の動きはひとつのきっかけと感じる。
  • 医学部では、3/4年次に、1週間あるいは2週間、集中的に同じ授業を展開するブロック制を導入している。1年次にも2~3週間、そのような期間を設定できると、牧場実習が可能となる。
  • ブロック制導入の場合、相模原キャンパスに残った学生にも、少人数での病院見学など、これまで実施できなかったプログラムを組むことができる。
  • 全学、あるいは複数学部で同時期にブロック制を導入できれば、合同牧場実習はじめ、チーム医療教育など、さまざまな授業展開の可能性も生まれる。
  • 一方、医学部1年生全員が牧場実習必修の場合、参加意欲の低い学生への対応など、牧場の負担が増す点で、送り出す側の心配は残る。しかしながら、牧場実習を学生に受けさせたく、医学部としては、ぜひお願いしたい。
  • 医学部として、前向きに検討したいと思う。

この情報の提供を機会に、農医連携の視点から博狗体育在线_狗博体育直播【官方授权网站】@における八雲牧場の役割?位置づけなどについて、これまで「情報:農と環境と医療」に掲載した内容の概略を紹介しておく。

「情報:農と環境と医療3号」の「本の紹介4:日本とEUの有機畜産-ファームアニマルウェルフェア-、松永洋一?永松美希編著、農文協(2004):/jp/noui/spread/newsletter/no1-10/noui_no03.html#p11)」の「第2章:日本のチャレンジャー」では、11箇所の具体的で特徴的な有機畜産の事例が紹介される。そのひとつに、「自然?食?ヒトの健康を追求する地域資源循環型畜産の構築:北海道?博狗体育在线_狗博体育直播【官方授权网站】@八雲牧場」がある。

「情報:農と環境と医療21号」の「八雲牧場開設30周年記念式典が開催された:/jp/noui/spread/newsletter/no21-30/noui_no21.html#p05」に、八雲牧場の歴史を紹介した。その内容は次の通りである。平成18年10月17日午後、博狗体育在线_狗博体育直播【官方授权网站】@獣医畜産学部附属FSC(Field Science Center)八雲牧場で開設30周年記念式典が、参加者66名のもとに開催された。伊藤 良?記念事業実行委員長の開会の辞に始まり、高瀬勝晤獣医畜産学部長、柴 忠義学長、萬田富治センター長の挨拶の後、川代義夫八雲町長および嶋田 肇博狗体育在线_狗博体育直播【官方授权网站】@同窓会会長(岡田寛紀代理)の来賓祝辞があった。式典の後、八雲牛を食しながらの宴が催された。宴には地元の方々をはじめ、八雲牧場のかつての牧場長ほか多くの職員が参加し、往時を偲ぶ姿がいたるところで見られた。

川代八雲町長の祝辞では、離農が始まった30年前にできた牧場によって、少しでも離農現象が和らげられたこと、この牧場が地域密着型であること、将来も協力して町の発展とともにありたい旨などの思いが語られた。地域密着型である証として、公開講座の参加、町民の訪場、消費者重視、指導的立場、育成牧場へのアドバイスなどがあげられた。

また、農医連携の視点からは、式典の「お礼のことば」の次の文章が印象的であった。「これからは上八雲の気候風土の中で育つ牧草に適した肉用牛の増殖?改良を行い、消費者が安心して食べられる牛肉を提供するという取り組みを更に強化し、博狗体育在线_狗博体育直播【官方授权网站】@が掲げる農医連携を具現化した畜産物を生産する牧場として、更に発展させるべく努力する所存です。関係各位のご助言、ご支援を引き続き承りますことをお願い申し上げます。」

「情報:農と環境と医療23号」の「第2回博狗体育在线_狗博体育直播【官方授权网站】@農医連携シンポジウムの内容:(5)環境保全型畜産物の生産から病棟まで:/jp/noui/spread/newsletter/no21-30/noui_no23.html#p01」の「環境と調和した畜産物生産から病棟まで」では、次のことが強調される。

安全?安心な食べものに対する国民的関心は非常に高く、これに昨今の健康志向が拍車をかけている。これまで述べてきたことを背景に、北海道の道南に位置する博狗体育在线_狗博体育直播【官方授权网站】@八雲牧場は94年から輸入穀物飼料の使用を中止し、牧場産自給飼料100%(夏放牧?冬貯蔵飼料)のみで、牛肉生産に取り組んでいる。

その目標とする理念は「自然?食?人の健康を保全する循環型地域社会の構築」である。ここでは和牛の純粋種にこだわらず、寒地山岳丘陵地の厳しい風土でも健康に発育する交雑種を作出し、安全?安心な牛肉生産に取り組んでいる。当然、牛の肉は霜降り肉ではなく、脂肪交雑(サシ)の少ない赤肉となり、低価格で買い取られる。慣行の流通ルートではとても経営は維持できない。幸いにも首都圏生協がこの牛肉の購入に踏み切った。

この取り組みは次第に理解されるようになり、最近では学校給食の食材、地元の老舗温泉旅館の料理、レストランへの提供など、多方面にわたっている。博狗体育在线_狗博体育直播【官方授权网站】@病院の栄養科長が直接、牧場を視察された。有機物肥料が施用された牧場の土壌から、農薬を散布しない健全な牧草が生育する。これを牛がはみ、草食動物の大切な消化器官である第一胃の微生物の働きを介して安全で美味しい赤肉に転換される。この水、土、草、空気など地域資源を活用した無理のない生産方式および牛肉の安全性?健全性が確認され、患者さんの食事としての提供が昨秋から始まった。患者さんからは美味しいと評判もよい。

別の表現をすれば「農と環境と医療」の連携をここに見ることが出来る。そのうえ、博狗体育在线_狗博体育直播【官方授权网站】@の公開講座の受講生を受け入れ、大学の顧客としての市民にこのシステムを理解して貰っている。このような実践例はまだ少ないが、草食家畜の生理特性を十分に発揮させ、自然資源の持続的利用を可能にし、畜産本来の理念に基づいた畜産物生産の取り組みは消費者の期待を反映したものであると考えている。

この八雲牧場の生産方式は平成18年度から始まった国の委託研究課題として採択され、地元八雲町への試験普及を開始することになる。北の風土で開発された北里八雲牛の生産から食卓までの取り組みは「農と環境と医療」の実践版として、大学牧場から地域への展開が始まる。

「情報:農と環境と医療24号」の「From the Production of Conservation Livestock Products to the Hospital Ward:/jp/noui/spread/newsletter/no21-30/noui_no24.html#p07」の「From the Environment-Friendly Production of Livestock Products to the Hospital Ward」では、次のことが強調される。

The public has a very great interest in safe and worry-free food, and the recent orientation toward health is spurring that interest. Owing to the situation described above, the Kitasato University Field Science Center Yakumo Experimental Farm, locatedin southern Hokkaido, stopped using imported feed in 1994, and is producing beef using feed supplied entirely from the farm (grazing in summer, stored feed in winter).

The idea behind this goal is "building a cyclical community that conserves nature and food, and maintains human health."Here we are not bent on pure wagyu breeds. We have created cross-bred cattle that are healthy even in the severe natural conditions of our cold mountainous and hilly region, and endeavoring to produce safe, worry-free beef. Of course the beef is not marbled, but is red meat with little marbling that can be purchased at low prices.

This would certainly not be economically sustainable through the usual distribution channels. Fortunately the Greater Tokyo Area Consumer Cooperative took the leap and decided to purchase our beef. Understanding of our efforts has gradually increased, and now our beef is being used in many places including school lunches, the meals at local well-known hot spring inns, and restaurants.

The director of the Nutrition Department at the Kitasato University Hospital visited the farm himself. Healthy grass grows from pasture soil on which we apply organic fertilizer but no pesticides. When the cattle eat this grass, they change it into safe, delicious red meat through the action of microorganisms in the first stomach, an important digestive organ in herbivores. The hospital saw our unforced production system, which uses local resources such as water, soil, grass, and air, and noted the safety and soundness of our beef, and started using it in patient meals last autumn.The patients say it is delicious.

In other words, here we can see the partnering between "agriculture and the environment and medicine."Additionally, we host the students of Kitasato University extension lectures and give an understanding of our system to citizens as university customers. Although there are still few instances of practice like this, we believe that our efforts to fully manifest the physiological characteristics of herbivorous livestock and the ability to sustainably use natural resources to produce livestock products based on the original thinking behind livestock farming reflects consumers' expectations.

Our production system at Yakumo Experimental Farm has been chosen as a topic of research commissioned by the government starting in FY2006, which means that testing will be conducted throughout our local area, Yakumo Town. Our production-to-dinner table endeavor for Kitasato Yakumo cattle developed in this northern clime is about to expand from the university farm to the region as a practical version of "agriculture, environment, and medicine."

「情報:農と環境と医療25号」の「平成19年度から農医連携に関わる教育が開始される:/jp/noui/spread/newsletter/no21-30/noui_no25.html#p01」では、講義の概略の前に次のことを紹介した。

博狗体育在线_狗博体育直播【官方授权网站】@が2年前から発信し続けてきた「農医連携」なる言葉が、世間に広く定着しつつある。それは、社会が「農と環境と健康」の連携に多大な関心を抱いていることはもとより、博狗体育在线_狗博体育直播【官方授权网站】@学長室通信「農と環境と医療」が毎月発刊され広く社会に浸透しはじめたこと、博狗体育在线_狗博体育直播【官方授权网站】@農医連携シンポジウムが既に3回開催されたこと、さらにその成果を「現代社会における食?環境?健康(2006)」および「代替医療と代替農業の連携を求めて(2007)」と題した冊子で、養賢堂から出版してきたことにもよるであろう。

北里柴三郎は、学術を発展させるために門下生らと研鑽を積み、コミュニケーションを深めるため月1回の集会を開いたという。また、北里は参加できない同窓生たちからその記録の刊行を熱望されたという。さらに北里は情報発信の大切さを説き、これらを実行したという。博狗体育在线_狗博体育直播【官方授权网站】@は北里のこれらの思いを今に引き継ぎ、これまで上述した農医連携に関わる通信、シンポジウムおよび本の発刊に心がけてきた。

「農医連携」に関わる課題は、いま始まったばかりである。重要な課題に教育があることを忘れてはいない。博狗体育在线_狗博体育直播【官方授权网站】@では一年間この課題を検討し、次のような新たな教育を開始する。

平成19年4月から迎える新入生に「農医連携」に関わる講義を開始する。医学部の1年生を対象に行われる医学原論の一部、さらに新しい獣医学部の1年生を対象に行われる獣医学入門I、動物資源科学概論Iおよび生物環境科学概論の中の一部で行われる農医連携論は、概ね以下のような内容を含んでいる。

「情報:農と環境と医療32号」の「医学部学生の八雲牧場体験演習が終わる:/jp/noui/spread/newsletter/no31-40/noui_no32.html#p01」では、医学部学生の体験と感想などを以下のように紹介した。

医学部の1年生を対象に行われる「医学原論?医学原論演習」の一部、さらに獣医学部の1年生を対象に行われる「獣医学部入門I」、「動物資源科学概論1」および「生物環境科学概論I」の一部として行われた講義は、いずれも夏期休暇前に終了した。

さらに、医学部では夏期休暇を利用し「医学原論演習」の一環として、獣医学部附属フィールド?サイエンス?センター(FSC)八雲牧場で行う「八雲牧場訪問及び講義」の参加希望者を募集した。この演習には6人の学生(男女それぞれ3人)が参加し、8月20~22日の3日間の日程を終えた。内容は、牧場見学、講義、演習(牛追い?ベーコン作り?投薬?鼻紋取り)、懇親会などであった。

将来医師を目指す学生の、貴重な演習の体験感想を要約すると次のようである。

  • 人間は自然を支配するのではなく、自然の中にいきていくべきであると思います。これは家畜の飼育においても同じだと思います。なるべく手を加えず、本来の生命を最大限に発揮させるという八雲牧場の方針はすばらしいと思います。
  • この実習を是非、後輩にも体験してもらいたいし、自分達も八雲牧場の良さをたくさんの人に伝えられたらなと思う。博狗体育在线_狗博体育直播【官方授权网站】@にはこんなすばらしい牧場があり、北里の誇りであると思う。
  • 実習に来る前は、どんなことをするのかと思って心配していたが、実際に実習を行ってみると思ったよりも楽しく、また医学の心得やこれからの医療に関する話を聞くことができて、これからの大学生活に対する意識が高まったように思う。この実習を大学生活、医師になるうえで役立て、医師になっても思い出していけるようにしたい。
  • ここ数年、自然とかけ離れた生活を送っていたので、こんな大自然に囲まれて、様々なことを経験させていただき、本当に楽しくて興奮しました。
  • 正直、最初は牛も好きではなかったし、虫も多くていやだったけれども、だんだん実習をしていくうちに慣れてきて、やっぱり何事もチャレンジしてみるものだなと思った。まじめに指導していただいたので感動した。
  • 医学原論演習で「八雲牧場体験演習」を体験することができ、本当によかったです。初めにこの牧場の眺めを見たとき、感覚として「スイスに似ている!!」と感じました。お話を聞くと、スイスと同じようにたくさんの種類がいるということで、いろいろな種類がいた方がいいと思います。東京にいたら、もしかすると一生体験することのないたくさんのことを学ぶことができました。「食」は「医」にとても近い存在であること、人は動物に感謝しなければならないことを実感しました。

なお、この演習は、医学部の齋藤有紀子先生、岩本孝一氏、獣医学部の萬田富治先生をはじめ多くの教職員の協力によってなされた。ここに感謝の意を表したい。ありがとうございました。また、八雲牧場の中井淳二氏から次のような書状を頂いたので紹介する。

「八雲牧場として初めて獣医学部以外の実習を行うことが出来、職員全員がとてもリフレッシュできたと感じています。来年以降も継続していけますよう、ご支援よろしくお願い致します。また、この実習の後に医療衛生学部の女子学生7名が北海道旅行の途中で八雲に一泊しました。その時に医学部の話をしましたら、"こんなすばらしいところでならば、どの学部もやりたいと思います"とか"医療衛生学部はやらないのですか。やるなら是非参加したい"との声が挙がりました。私も、全学部学生による八雲牧場訪問が何時の日か実現できればと思います。ご協力宜しくお願いいたします」。

八雲の風
 「八雲の道」といえば「歌道」であるが、ここでは八雲牧場に因んで「八雲の風」を紹介する。北海道二海郡八雲町の小栗 隆氏が、平成19年度(第46回)農林水産祭天皇杯を受賞された。「飼料穀物多給型から放牧酪農へ!ゆとりある豊かな楽しい経営を実践」と題した、畜産部門での受賞である。

受賞の特色は、資源循環型の放牧酪農による生産コストの大幅削減?高所得、粗飼料自給率100%を支える資源循環型の草地管理技術と草地集積、放牧による省力管理でゆとりある生活の創出、地域社会に調和した活動の推進、などである。これらの技術と経営の在り方は、農業の国際化に対応し、全国の中山間地域や耕作放棄地を利用する酪農モデルにもなり、「次世代に継承できる持続可能な酪農経営」として、全国的な模範で普及できる可能性を秘めている。ところで、この農家は日頃から八雲農場と放牧技術を介して交流が続けられており、この技術を活用した農医連携のさらなる普及の深化が期待されるところである。

「情報:農と環境と医療40号」の「農医連携論が教養演習Bで始まる:/jp/noui/spread/newsletter/no31-40/noui_no40.html#p01」では、各学部の講師の協力で農医連携論が展開することを以下のように紹介した。

「農医連携」に関わる講義は、平成19年4月に迎えた学生から、医学部の1年生を対象に行われる「医学原論」の一部、獣医学部の1年生を対象に行われる「獣医学入門 I」、「動物資源科学概論1」および「生物環境科学概論 I」の一部で行われている。平成20年の4月から、一般教育部の教養演習Bで新たに「農医連携論」(1単位)が開講された。医学部、獣医学部、薬学部、生命科学研究所などの教授がこの講義を分担する。内容についてホームページを参照されたい。

「情報:農と環境と医療45号」の「医学部学生の第2回:八雲牧場体験演習が終わる:/jp/noui/spread/newsletter/no41-50/noui_no45.html#p04」では、次の内容を紹介した。

医学部では、夏期休暇を利用し「医学原論演習」の一環として、獣医学部附属フィールド?サイエンス?センター(FSC)八雲牧場で行う「八雲牧場訪問及び講義」の参加希望者を募集している。この演習には、昨年6人の学生が参加し、8月20~22日の3日間の日程を終えた。内容は、牧場見学、講義、演習(牛追い?ベーコン作り?投薬?鼻紋取り)、懇親会などであった。この様子は、参加学生の感想と共に「情報:農と環境と医療 32号」で紹介した。

昨年の医学原論演習が終了して、「食は医にとても近い存在であること、人は動物に感謝しなければならないことを実感しました」「大学生活に対する意識が高まった」「なるべく手を加えず、本来の生命を最大限に発揮させる八雲牧場の方針はすばらしい」「後輩にも体験してもらいたい」「本当に楽しくて興奮しました」などの感想が寄せられている。

さて、本年の「八雲牧場体験演習」が終わり、参加した8人の学生と職員の交流会が平成20年8月27日の午前9時から10時まで、八雲総合実習所の講義室で行われた。八雲牧場からその内容を入手したので、ここに紹介する。

センター長:この交流会は、来年度以降の「医学原論演習?八雲牧場訪問及び講義」の参考にするため開催する。まず、八雲牧場職員より一言ずつ発言して貰い、次に学生の皆さんから2日間の感想を話して貰う。最後に八雲牧場教員及び引率の教職員から、来年度以降の展望などについて発言して貰いたい。

八雲牧場職員

  • 八雲牧場で経験したこと、知ったことを糧に勉学に励んで、農と医を結ぶことの出来る医師になって貰いたい。また八雲牧場のことを、周りの皆さんに教えてあげてほしい。
  • 北里八雲牛の繁殖を担当する者として、生命の大切さを認識して貰いたい。発情-授精-子牛生産を6~8回繰り返す繁殖牛も、最後は産業動物として肉となり、食につながる。
  • 医学部の学生さんは医師の卵である前に、ごく普通の学生であることが昨年と今年を通じて感じられた。八雲牧場は国内では貴重な牧場であり、それを博狗体育在线_狗博体育直播【官方授权网站】@が有していることを、ここに来られた学生達の力で学内に広めて貰いたい。また医学部だけでなく、他学部の実習の場としても利用して貰いたい。
  • 安全な牛肉とは、牛が安全なエサを食べていることであると思う。食と医をつなげて考えられる医者になって貰いたい。
  • 一人一人、どのような医者になりたいのか聞かせて貰いたい。
  • 草地担当者として、無農薬、無化学肥料で牧草を栽培し、それを食べることにより牛の病気が減るよう努力している。医者として、病気を治すだけでなく病気をなくすようにしてほしい。
  • 実習所は出来て30年が経過しているが、宿泊者により良い環境を提供するために努力している。牧場の施設も、他大学に比べ見劣りするかもしれないが、お金を掛けて設備を充実させるよりも、牛にとって良い環境であれば最低限のものでよいと思う。

医学部1年次生

  • 生命の大切さのわかる医者になりたい。この実習は短いと思うので、3泊以上にした方が良 い。実習所の寝具は、布団のままでよいと思う。
  • 生命(牛)にふれあえたことが良かった。実習期間は3泊以上にした方が良い。牧場の景観を、 このまま維持して貰いたい。卒業後は、医師でなく環境系の仕事がしたいと思っている。
  • 医師は精神的につらい時もあると思うが、八雲牧場の自然を思い出して癒したいと思う。今 回は、色々な体験ができてとても良かったと思う。景観も素晴らしいし、2泊では短すぎた。
  • 牧場職員のそれぞれの仕事に対する姿勢が、とても良かった。実習所の宿泊室は、タタミの ままで良い。患者さんの立場に立てる医者になりたいと思う。
  • 患者さんの病状だけでなく、その背景まで見ることの出来る医師になりたい。八雲の自然を もっと楽しめる余裕のあるスケジュールがとれるよう、3泊4日にした方が良いと思う。
  • 2泊3日だと見るだけで終わってしまうので、もっと長くして色々な体験をしたい。懇親会や二次会、この交流会のように職員の人達ともっと話をする時間があっても良いと思う。病院にいても普段と同じように生活できる環境を作っていきたい。
  • 医師と患者さんとの間のカベを無くし、対等な関係で接することの出来る医者となりたい。牧場職員一人一人が誇りを持っていると思った。施設に対する不満は何もないが、期間を長くしてもっと体験したかった。
  • 患者さんに対し、食事も含めて気を配った医療をしていきたいと思う。実習所を含めて施設に不満はないし、逆にきれいだと思った。もう少し長く体験したかった。

八雲牧場教員

  •  八雲牧場の取り組みを理解して貰えたと思う。実習期間を延ばすことにより、内容を充実させ、より詳しい内容を他の人達に伝えてほしい。食の大切さや、安全な食について理解できる医者になって貰いたい。またこの演習も、農医連携の一貫として、継続して貰いたい。

引率教職員

  • 昨年参加した学生から、医学部生全員が八雲に来られれば良いのにといわれたことを思いだした。学生達の声を後押しして、来年以降の実習期間の延長を考えていきたい。八雲に来た学生達の、今後の成長が楽しみである。また、参加学生による同窓会も考えたい。
  • まず感想として、牧場職員のプロフェッショナルさに感銘した。また、カメラで記録するよりも、牛追いやピザ作りなどの体験のほうが楽しく、記憶に残ると思った。学生達が言っていたように、スケジュールが短いと思ったが、参加する学生への負担が軽減できるよう検討していきたい。

センター長:皆さんの発言を聞いていて、友人である医師が学生時代に酪農家へ実習に行き、農学出身である自分と今でも話し合える仲でいれることを思いだした。農と医の結びつきは、これからますます強くなると思う。この試みが、是非継続されていくことを願って

「情報:農と環境と医療54号」の「医学部学生の第3回八雲牧場体験演習が終わる」は、本号の以下の項で紹介する。

医学部学生の「第3回八雲牧場体験演習」が終わる
恒例の医学部学生の「第3回八雲牧場体験演習」が8月24~26日の3日間にわたって開催された。今年は、8名の医学部学生の他に2名の獣医学部の学生が参加した。第1、2回の詳細な内容については、「情報:農と環境と医療32号」の「医学部学生の八雲牧場体験演習が終わる」と「情報:農と環境と医療45号」の「医学部学生の第2回:八雲牧場体験演習が終わる」を参照されたい。ここでは、学生の感想のうち印象的な事象を紹介する。

八雲牧場教員

  • 私は出身地の関係で牧場見学を何回も行ってきており、様々な牧場を見たことがあります。その際に避けて通れなかったのが糞の臭いです。これは見学をする学生にとって一番つらいものであり、今まで牧場を訪れるたびに苦しめられてきました。私の中では牧場=臭いという定義が成り立っていました。しかし今回の八雲牧場でこの定義は覆されました。そもそも糞の色が今まで目にしていた茶色ではなく緑色をしており、あの嫌な臭いを感じることはありませんでした。
  • 「時流に流されるな」という萬田先生の言葉のすばらしさが形となったのがこの八雲牧場であるのかと私は思いました。
  • これまでの話をまとめているうちに今私が所属している東洋医学も同じような考えを持っているのだと気がつきました。東洋医学では体の中にある経絡(つぼ)を鍼で刺激してその人の免疫や代謝を促進して健康状態を保つようにします。他にも鍼だけでなく漢方では体の中にある気、血、水のバランスを整えて普段通りの状態に持っていこうという考えを基本として患者を診ていきます。これは八雲牧場で行っているのとかなり似ています。牛を育てるのではなく牛の育つ環境を整える、人の体を直接どうこうのするのではなくその人が持っている本来の力を高めて予防、治療すること。これらは私たちが学ぼうとしている西洋医学でもいえることです。
  • 将来医師になったときに患者の病気だけに固執しているなと感じてしまったときは、今回の八雲牧場での体験を思い出していきたいと思います。
  • 普段何気なく食卓に上がる肉、魚、野菜、そのたもろもろは尊い命だったものであり、大量生産、大量消費が推し進められる中でその尊い輝きの持つ意味はどんどん薄れていく。そのなかで自分ができることは何なのかということを考えた。そしていろいろ考えた結果、自分にできるのは最大の感謝をしておいしくいただくことだけだ。ということに気付いた。命に感謝するという当たり前で重要なことを忘れている現代人に、ぜひ八雲牧場に行ってほしい。
  • 農業全般に関して、いかに自分が全くもって「土壌」というものを考えてこなかったか、ということである。まず初めに「土壌の流出」という問題を知らされたのは、相模原キャンパスでの萬田先生の講義においてだったが、その問題を解決すべく、実際行っていることについて実際に現場で説明を受けることができたのは非常に有意義だったと思う。
  • ありきたりな表現に終始してしまうが、東京で生まれ育った自分にとって、あそこまでだだっ広く、自然に溢れた環境で短期間であるものの過ごしたことで、心が洗われるような気がした。
  • 牧草についても驚かされることがあった。マメ科とイネ科の比率、なぜマメ科とイネ科なのかといった話を聞いた。マメ科には根粒菌がつくという話は高校の理科で習っていたし、家でマメを育てたときも根粒菌を見ていたが、マメ単独でしか考えたことがなかった。しかし今回、その根粒菌によって牧場の土壌中に窒素が取り込まれ、イネ科植物に供給され、マメ科とイネ科の比率も自然とバランスがとれていると聞いて、根粒菌が周りの環境に影響を与えているというところを感じることができて嬉しかった。
  • 八雲牧場は携帯電話も圏外と聞いて行く前は少し心配だったが、3日程度なら自分も一緒にいる友達も圏外で外部から連絡が来たり連絡を要求されることのない環境が少し快適に感じたりもした。職員の方々もおおらかで優しく、夜は大きな空に星がきれいで、気候も過ごしやすく、食事も美味しく、実習内容も自然と大いに戯れることのできるものだったので、八雲牧場のテーマを選んで本当に良かったと思う。お世話になった先生方、職員の皆様に感謝したい。
  • ただ、そうやって職員の方々がそれぞれの経験や専門知識を出し合ってできた現在の八雲牧場の形は、牧場と言うよりもある意味自然の一部のように感じられました。なぜならば「臭い」がしないからです。野生動物や虫などが生活している自然の中とは違って、人間が動物を飼育しているところ(牧場や動物園など)は、「臭い」「汚い」というのが私自身の認識でした。しかし八雲牧場はそういったにおいが一切気にならず、むしろ自然の森や土のにおいのようなものがしました。自然の中で、牛がそれ自身の性質でもって自然体で生活しているためなのでしょうか。八雲の中では、職員のみなさんや職員のみなさんが牛のためにやっている作業一つですらも自然の中の一部のように感じられて、不自然さがなかったように感じました。注)臭いについて:学生は真夏に実習した。
  • 今まで見たどんな星よりきれいだと思いました。携帯電話も通じず、人通りもほとんどなくこのような場所で三日も暮らしていけるかなと思いました。
  • 人でも心理的な問題が病気に関係することがあるし、牛にストレスを与えないことがおいしくなるかもしれないと思った。一番印象的だったのは、夜の星でした。満点の空の下に今まで星座などみたことがなかったので驚きました。
  • 実家の隣家が乳牛を飼育しているので牛は見慣れていましたが、八雲の牛を見て一番はじめに感じたことは「牛が穏やかだ」ということでした。農医連携、医食同源など自分で改めて考え感じられました。ますます大動物の獣医になりたいと思いました。
  • 牛たちが自由に草を食み短いながらもその生涯を全うし肉牛として消費者のもとへ運ばれるというサイクルが実現していました。今回は獣医学部生が特別参加でしたが、何か違うのではないかと思います。可能ならば来年からは獣医学部生からも募集をかけていただきたいと思います。単位が頂けなくてもたくさんの応募があると思います。

農?環?医にかかわる国際情報:7.オランダ?ワーへニンゲン大学とワーへニンゲン食品科学センター
オランダにあるワーへニンゲン大学は、1998年にワーへニンゲン農業専門大学(Wageningen Agricultural University)とオランダ国立農業関連機関とを統合して、WUR(Wageningen University & Research Centre)に再編された。さらにWURは、Van Hall Larenstein応用科学大学と統合し教育?研究領域を拡大した。ワーゲニンゲン大学には植物科学(Plant Sciences)、動物科学(Animal Sciences)、環境科学(Environmental Sciences)、農工?食品科学(Agrotechnology & Food Sciences)、社会科学(Social Sciences)の5つの専門領域があり、Van Hall Larenstein応用科学大学には、農村環境管理(Rural and Environmental Management)、畜産管理 (Animal Husbandry and Management)、商業管理 (Business and Management)の3つの応用科学領域がある。またワーへニンゲン大学院(WGS)には以下の7つのコースがあり、それぞれが他大学や他研究所と連携して研究課題に取り組んでいる。

  • 実験植物科学(Experimental Plant Science):EPS
  • 栄養学?食品工学?農業生命工学?健康 (Nutrition, Food Technology、Agrobio- technology and Health):VLAG
  • 生産生態学?資源保全(Production Ecology and Resource Conservation):PE&RC
  • ワーへニンゲン動物科学研究所 (Wagenningen Institute of Animal Science):WIAS
  • マンソルト社会科学大学院(Mansholt Graduate School of Social Science):MG3S
  • 環境?気候研究(Environment and Climate Research):WIMEK/SENSE
  • 開発資源調研究所(Research School for Resource Studies for Development):CERES

その中のひとつVLAGは、オランダ語の「Voeding Levensmiddelentechnologie、Agrobiotech-nologie en Gezondheid」(Feeding Food Technology, Agrobiotechnology and the Health)の頭文字で、4つの大学と5つ調査機構で構成されている。2004年1月現在125人の上級研究員と40人の博士課程修了者と、300人以上の博士課程の学生が在籍する。VLAGの一員としてのワーへニンゲン大学院の食品と農業科学技術の研究内容は以下の通りである。将来に向けて食品工学の技術分野を革新するために、栄養学と健康という異分野の交流を促進させるための機関である。

生化学、生物物理学、食品とバイオプロセス技術、食品科学、食品物理学、栄養、菌の遺伝を含む微生物学、有機化学、物理化学と微粒子科学、製品設計と品質管理、システム制御、疫学。

また、マーストリヒト大学の栄養、毒物学と代謝のための栄養学科では、発癌性や免疫毒性の指標に焦点をあてて、毒性遺伝子の研究をおこなっており、メタボリック症候群(Metabolic syndrome), 腸-肝臓の恒常性(Gut-liver homeostasis)、慢性炎症疾患(Chronic inflammatory disease and wasting), 遺伝子と環境の相互作用(Gene-environment interactions)の4つの課題を取り組んでいる。遺伝子と環境の相互作用の研究では、主に食事を含む環境汚染の影響と慢性変性疾患における遺伝子的背景のつながりを調査研究している。

EPSは、Wageningen University (WU), Radboud University (RU), Vrije Universiteit Amsterdam (VU), Leiden University (LU), University of Amsterdam (UvA)および Utrecht University (UU)から構成され、動植物生産の質の改良に焦点をあて、動植物の機能を理解することで、新しい意味での持続可能な農業と持続可能な食物、飼料、グリーンエネルギーの確立と再生可能な天然資源の管理をめざしている。

一方、1997年に設立されたワーへニンゲン食品科学センター(Wageningen Center for Food Sciences) は、この10年間「食と栄養学の先端機関」であり続けている。その研究内容は、栄養学と健康(Nutrition & Health)、構造と機能性(Structure & Functionality)、微生物機能性と安全(Microbial Functionality & Safety)の3分野から構成されている。

栄養素と健康の分野では、血管合併症を含む肥満、メタボリック症候群と胃腸の関門機能や炎症との関係に焦点をあてた研究や、赤身肉と大腸癌の関係、発酵食品と消化されにくい炭水化物の保護機能の研究などに取り組んでいる。また、構造と機能性の分野では、必要な栄養素(低脂肪、低炭水化物、減塩、高タンパク)を備えた食べ物を開発するための研究、微生物機能性と安全の分野では、食品の安全性制御への新しいアプローチに焦点をあてた研究に取り組んでいる。

このようにワーヘニンゲン大学での研究?教育は、経済学、経営学から政治学、法学、社会学、開発学、消費行動学、教育学、倫理学など、そのすべてが農業?食料?環境に関連する。また、他の自然科学系、技術系の学生?院生が積極的に社会科学系のコースを履修することが奨励され、自然科学と社会科学をまたいで修士論文や博士論文に取り組む院生も少なくない。

最近は発展途上国の農業?農村開発にかかわる研究、食品のリスクアセスメント?リスクマネジメント?リスクコミュニケーションに関わる研究、食料の生産?流通?加工?消費の連鎖を総体として把握する研究など、本来横断的な問題領域での学際的プロジェクトに、ポスト?アカデミック教育や国際コンサルタントといった機能を含みながら活発に取り組んでいる。

このように、WURでは「理論と実践の結合(interactive)」や「自然科学と社会科学の統合(interdisciplinary)」が強く志向されている。これらを総称して、「ワーヘニンゲン?アプローチ」と呼んでいる。WURの2003~2006年の戦略計画では、次の4つの領域を軸に、さまざまな専門分野が縦横に協力していくことを目指している。

  1. 社会変化のプロセス:国際化と個別化、基準?価値?立場のダイナミクス、技術と社会、相互理解
  2. 持続可能な環境:空間の多角的利用、生物多様性、気候変動、水の管理
  3. 持続的食料生産と食料安全保障:持続的生産システム、食料安全保障、生産ネットワーク、企業の社会的責任
  4. 栄養学と健康:健康的な栄養、食品の安全性、バイオ医薬、消費者意識

オランダはいつの時代も進取の気性に富んでいる。今から45年前の1965年、ワーゲニンゲン大学のRobert Best 博士の監督のもとに9人の学生が、19ヶ月にわたる稲作農業を研究するために世界修学旅行を企てた。稲作農業の研究を始めるため、稲作が行われている国で稲作の勉強をするためであった。日本にも1965年の6月9日から7月13日までの34日間滞在している。これらの努力は、オランダをして農業技術研究の輸出国に仕立て上げた。

当時の学生たちの専門は、土壌科学、農業経済、かんがい工学、植物育種および植物生理学など多岐にわたった。訪れた国も当時稲作を行っていたポルトガル、スリナム、トリニダード、ジャマイカ、メキシコ、カリフォルニア、ハワイ、日本、台湾、フィリピン、タイ、インド、イラン、エジプト、ヨルダンおよびトルコであった。あたらしい学問を始めるに当たってのオランダ人あるいはワーヘニンゲン大学の心意気が知れる。

温暖化の問題を最初に実学に結びつけたのもオランダだ。温暖化が、土壌のガス代謝ときわめて密接に関係していることを、「Soils and the Greenhouse Effect: Wiley, 1990」の出版で世界に知らしめた。土壌の窒素や炭素が代謝される過程で、亜酸化窒素やメタンガスが生成?発生し、これらのガスが温暖化に影響を及ぼしているのである。この出版は、温暖化ガスの発生源の探索と対策技術の研究に世界を走らせた。

このようなオランダの新しい学問に対する改新的な情熱は、常に新しい事象を生む。今回のワーヘニンゲン大学の統合と再編は、将来を先取りした実学を生むに違いない。わが大学が志している「農と環境と医療」の連携も同じように、新たな教育と研究の潮流を生み出すことを切に期待したい。そのためには、「志を立ててもって万事の源となす書を読みてもって聖賢の訓(おしえ)をかんがふ(吉田松陰)」ことが必要なのである。

参考資料

  1. WUR HP:http://www.wur.nl/NL/
  2. 農学における学際的アプローチの実践例:イリューム、第33号、p18 (2005)
  3. 散策と思索:独立行政法人農業環境技術研究所、39-41 (2005)
  4. Soils and the Greenhouse Effect: Ed. Bouwman, A.F., John Wiley and Sons Ltd. pp.575 (1990)
  5. VLAG HP:http://www.vlaggraduateschool.nl/particip.htm
  6. ESP HP:http://www.graduateschool-eps.info/

なお本項は、2007年8月31日から9月6日にオランダおよびデンマークに出張し、ワーゲニンゲン大学で取得したデータとワーゲニンゲン大学ホームページを参照して掲載したものである。

農?環?医にかかわる国際情報:8.RIVM(国立公衆健康環境研究所)
RIVMはオランダ語の「Rijksinstituut voor Volksgezondheid en Milieu: National Institute for Public Health and the Environment」の頭文字の略で、公衆衛生と栄養と環境保全分野の専門的な知識を総合化する国立の研究所である。主にオランダ政府のための機関で、とくに福利厚生と運動、住居と空間計画と環境、農業と自然と食料品質管理の3つの省庁の指示で、政策と社会的関連の問題を取り扱っている世界の動向を認識したうえでの国家組織である。

健康リスクと環境問題は本来国境を越えたものであるから、健康と環境からの脅威が効果的に減少するのであれば、人種を超えた協調が必要である。RIVMは専門知識と調査結果を共有することで、公共医療と環境に関連する国際的取り組みに協力している。

RIVMの専門家と調査研究員は共同研究プロジェクトに従事し、アドバイザーや専門家として参加している。RIVMはWHO(世界保健機関)、FAO(国際連合食糧農業機関), UNEP(国連環境計画)、IAEA(国際原子力機関)のような国連の専門機関と親密な関係がある。もちろんその調査?監視?モデル化?危機評価の結果は、公共医療?食料の安全性?環境に関する政策を支えるために生かされている。約1500人以上が働いていて、大きく4つの部門に分けられる。

  • オランダ感染症制御センター(Centre for Infectious Disease Control Netherlands : CID)
  • 公共医療?医療サービス部門 (Public Health and Health Services Division)
  • 栄養?薬?消費者安全部門(Nutrition、Medicines and Consumer Safety Division)
  • 環境安全部門(Environment and Safety Division)

感染症に関するすべての活動は「感染症制御センター」で行われている。ここは、国内および海外の大学と協力することで既存の専門知識から科学?政策?普及のための架橋的な役割を果たしている。また市の保健サービス?王立オランダ結核予防会(KNCV)?オランダSTIエイズのような関連部署や国の組織と連動している。またEU?WHO?ECDC のような国際組織の連絡体でもある。

「公共医療?医療サービス部門」では新しい感染症の調査と警告をおこない、予防接種で感染症を防ぎ、毒物と放射線照射による危険を防止する。またオランダでもっとも多い死因を調査している。さらに次のような予防と介護を行っている。保健医療の測定、薬の品質の保持、肥満の原因、オランダ人の健康特性、および将来の公衆衛生の在り方などの扱い。

「栄養?薬?消費者安全部門」では、食物汚染による危険を最小にする情報、健康のための食事と運動の役割に関する情報を提供している。具体的には、オランダでの食事療法のプラス面とマイナス面の評価、飲み水の環境、会社による体によい生産物の証明、食中毒の原因の細菌は何か、ダイエット対策の方法などである。

「環境安全部門」では、オランダにおける大災害の可能性とその対策、大災害が継続したときの影響、公衆衛生への潜在的影響などに取り組んでいる。また、空気?水?土壌の質のみならず、騒音や放射線レベルのモニターなど公衆衛生への環境影響を調査している。

参考資料

  1. RIVMホームページ:http://www.rivm.nl/English
  2. RIVM紹介パンフレット

なお本項は、2007年8月31日から9月6日にオランダおよびデンマークに出張し、RIVMで取得したデータとRIVMホームページを参照して掲載したものである。

農?環?医にかかわる国際情報:9.コペンハーゲン大学
コペンハーゲン大学(Copenhagen University)は、デンマーク薬学大学、ロイヤル獣医?農業大学およびコペンハーゲン大学が2007年1月1日に統合され、北欧でもっとも大きい大学になった。研究の環境と科学的アプローチの多様性がこの大学の際だった特色であり、強みでもある。この大学には次の8学部がある。

健康科学部(Faculty of Health Science)、人文科学部(Faculty of Humanities) 、法学部(Faculty of Law)、生命科学部(Faculty of Life Science )、薬学部(Faculty of Pharmaceutical Sciences)、理学部(Faculty of Science)、社会科学部(Faculty of Social Science)、神学部(Faculty of Theology)。

「健康科学部」は、北欧で最も大きい動物研究所を所蔵している。この学部は、国内外の研究グループのすべての教育とサービスのために、以下のような中核となる機関や研究室を監督している。

遺伝子導入マウス?分子画像?実験動物の体全体へのX線照射?ガンマセル装置を含む実験医学科での実験的手術?行動障害?生物静力学?機能ゲノム研究のWilhelm Johannsenセンターでの生物情報工学?3D研究室?Rodent Metabolic Phenotypingセンター。

「生命科学部」には、長い伝統があり立派な研究が行われている。しかし、国際社会と歩調を合わせて新しい専門的な研究を探求する必要性を理解する分野でもある。ここでは、伝統的食物?農業?獣医科学分野が、ナノ技術?植物バイオ技術?再生産技術?生体臨床医学?化学療法学などの新しい分野や、生物情報学のような課題にまたがる分野や、さらには生命倫理?動物生態調査などの分野、とくに倫理的指向性のある分野と連動している。また以下に示す一連の研究科がある。

  • 動物生産?健康研究科(Research School of Animal Production and Health:RAPH)
  • 動物栄養?生理学研究科(Research School in Animal Nutrition and Physiology:RAN)
  • 動物育種学研究科(Scientific School in Animal Breeding:SAB)
  • 専門臨床診断?治療学研究科(Research School for Specialised Clinical Diagnostics and Therapeutics:KLINIK)
  • 水産養殖疾病持続制御(Sustainable Control of Fish Diseases in Aquaculture:SCOFDA)
  • 食物研究科(Research School-FOOD:FOOD)
  • 環境化学?微生物学?毒物学(Environmental Chemistry, Microbiology and Toxicology :RECETO)
  • 金属イオン生物システム学大学院(Graduate School on Metal Ions in Biological Systems:MIBS)
  • 有機農業?食物システム研究科(Research School for Organic Agriculture and Food Systems:SOAR)
  • Dinas 研究科(Dinas Research School)
  • 生命工学研究科(Research School for Biotechnology:FOBI)
  • 園芸科学研究科 (Research School of Horticultural Sciences:RSHS)
  • 森林景観計画研究科(Research School for Forest, Landscape and Planning:REFOLANA)
  • 実験農園生態学大学院(Graduate School on In Vivo Farmacologi)
  • 応用経済学博士大学院(PhD School for Applied Economics:AECON)
  • デンマーク生物特殊専門学院(Danish Bioresearch Academy)

参考資料

  1. コペンハーゲン大学ホームページ:http://research.ku.dk/

なお本項は、2007年8月31日から9月6日にオランダおよびデンマークに出張し、コペンハーゲン大学で取得したデータとコペンハーゲン大学ホームページを参照して掲載したものである。

本の紹介 42:カルテ拝見‐武将の死因、杉浦守邦著、東山書房(2000)
今月の「言葉の散策」では「30:死」を思索したので、死因に関する本を紹介する。この本は秋篠宮文仁親王殿下に紹介されたものである。殿下は「生き物文化誌学会」の常任理事で、筆者はこの学会の評議委員であることと、この「情報:農と環境と医療」を毎号殿下にお送りしていることが背景にある。

著者は、長年にわたって学生に「公衆衛生学」を教えてきた山形大学名誉教授である。講義は、主題として病気の予防を取り上げるのが普通であるが、その際日本人の死因として最大なものは何か、それを予防するにはどのように生活を整えるべきかなどが中心に行われてきたそうである。

現在、日本人の死因のトップは悪性新生物、すなわち癌である。立花 隆のテレビジョンでの解説によると、癌は生き物が還元状態から酸化状態に移行するときに獲得した形質だという。最終的には、人間二人に一人は癌になり、三人に一人は癌で死ぬという。このことは、統計からほぼ同じような結果が出ているという。

30年および60年前の死因のトップは、それぞれ脳卒中と結核であった。では、もっと昔はどうであったか。伝染病、餓死、戦争による外傷死など時代によって死因は大きく異なったであろう。そのことを知りたく著者は、26人の武将の死因をさまざまな古典から判読しようとする。

その結果は以下のようで、それぞれの死因を医心方(撰者:丹波康頼)?病名彙解(著者:蘆川桂州)?医学天正記(著者:曲直瀬道三)などの医学書や、平家物語?陰徳太平記?松隣夜話などの読本や、黒田家譜?甲陽軍艦?関八州古戦録などの戦記物などから探る。死因究明の背景には、かくも膨大な資料が読み込まれている。

平 重盛(胃癌)?平 清盛(腸チフス)?源 頼朝(破傷風)?北条泰時(赤痢)?北条時宗(肺結核)?足利尊氏(瘧)?毛利元就(胃癌)?武田信玄(胃癌)?上杉謙信(食道癌)?丹羽長秀(胃癌)?蒲生氏郷(肝硬変)?豊臣秀吉(尿毒症)?前田利家(胆嚢癌)?黒田如水(梅毒)?結城秀康(梅毒)?加藤清正(梅毒)?池田輝政(脳卒中)?浅野長政(脳卒中または心筋梗塞)?浅野幸長(梅毒)?片桐旦元(結核)?徳川家康(胃癌)?徳川秀忠(狭心症)?伊達政宗(胃癌)?徳川家光(胃癌)?徳川光圀(胃癌)?徳川吉宗(前立腺癌)。

環境を通した死因で興味を引かれる武人は、破傷風による源 頼朝、腸チフスによる平 清盛、および赤痢による北条泰時などであろうか。その様子の一部を以下に示す。

源 頼朝:このように頼朝の死病を破傷風と診断した理由は、彼が外傷を受けてから発病し、約二週間の経過で死の転帰をとったこと、経過中、意識が明瞭であったこと、飲水に関係があると考えられ、かつ何か異常な死に方と見えたらしいことからであるが、次のことも考えなくてはならない。一般に破傷風は落雷頻度の高い土地に多い。これは落雷に伴う急激な集中豪雨のため、川や溝が氾濫し、泥中に存在する破傷風菌が道にあふれて広く撒布されるためといわれる。又馬牧地に多いがこれは菌が馬糞中に多く存在するからである。頼朝が落雷の日、馬から落ちて頭部にけがをしたことから発病したことは、この条件にぴったりとあてはまる。

平 清盛:発病以来わずか七日間、高熱に苦しみ、急速に衰弱して、死亡したという描写から、彼の死が熱病であることは確かのようで、「百錬抄」にも閏二月四日の条に「日頃所脳あり、身熱火の如し」とあるし、??????高熱以外にさらに他の徴候がなかったか、「平家物語」の異本からさがすと、長門本に「入道は声いかめしき人なりけるが、声わななき息弱く、ことのほかに弱りて、身の膚(はだ)赤きこと、べにをさしたるに異ならず」と、皮膚の潮紅ないし発疹(腸チフス)のバラ疹のような)の症状をあげ、??????。

北条泰時:泰時の病状は去る十日殊によくなったので食事をすすめた。そしたら翌日再発し、十二日にも又発した。十五日未刻から重症となり「前後不覚、温気火の如し。人もって其傍に寄り付かず。亥刻辛苦悩乱、その後絶え了るという」と話された。????以上が「平戸記」の記事であるが、「温気火の如し」とあるから、かなりの高熱があったらしい。重症な赤痢だったと想像される。?????古来鎌倉は、良質の飲料水に恵まれない所であって、わずかに丘陵の突端に湧水するところがあり、鎌倉十井または五名水といって珍重された。星月夜の井戸が最も有名である。水質不良のため鎌倉時代には、頻繁に赤痢の流行をみた。泰時が死んで十四年後、康元元年(1256)十一月三日、孫の時頼も赤痢にかかって死線をさまよった。


資料の紹介 13:特集‐人獣共通感染症の制御のために‐農林水産技術研究ジャーナル、Vol.32、No.12
21世紀における環境を通した農医連携に関連するもっとも重要かつ緊急な課題は、「温暖化現象」と「人獣共通感染」であろう。これらの現象に適切に対応しなければ、人類の未来に陰りが見える。

この冊子は、社団法人農林水産技術情報協会の月刊誌「研究ジャーナル」の特集で、人獣共通感染の分野で活躍している大家が執筆した貴重な資料である。著者の中には、博狗体育在线_狗博体育直播【官方授权网站】@獣医学部の中村政幸教授も含まれている。

なお、これまで「情報:農と環境と医療」に掲載した「人獣共通感染」に関わる情報と、博狗体育在线_狗博体育直播【官方授权网站】@農医連携学術叢書第3号「鳥インフルエンザ-農と環境と医療の視点から-」を項末に紹介した。関心のある方は参照されたい。

目次は以下の通りである。

  •  視点:人獣共通感染症に対して求められる獣医学と医学の協力体制:山内一也
  •  家畜?家きんにおける人獣共通感染とパンデミックの制圧:谷口稔明
  •  高病原性鳥インフルエンザの予防対策:磯田典和?迫田義博
  •  鶏におけるサルモネラ症の診断と対策:中村政幸
  •  豚インフルエンザウイルスの遺伝子多様性獲得機構:西藤岳彦?竹前義洋
  •  抗酸菌の抗原および遺伝子解析と診断?予防への応用:森 康行
  •  腸管出血性大腸菌の分子疫学的解析法:楠本正博
  •  ウエストナイルウイルスの日本国内侵入時に想定される感染伝播:白藤浩明

「視点:人獣共通感染症に対して求められる獣医学と医学の協力体制」は、中国および東南アジアなど新しいウイルスが出現する危険な地域に近接しているわが国が、獣医学と医学の連携を強化し、人獣共通感染症に立ち向かうことの必要性を説いたもので、極めて説得力に富んだ資料である。地球的な視野からみた環境における農医連携の必要性が、この資料で再確認される。

森林開発に始まり急速な都市化が進んだ。このため、人と動植物と物の移動が始まった。現代社会がつくり出した動物由来のウイルスの出現である。ここでは、いま問題になっている豚インフルエンザの来歴、20世紀に起きた最大のパンデミックであるエイズの由来などが、わかりやすく解説される。

このようなパンデミックへ発展する事態に対して、人獣共通感染症への対策に獣医学と医学の連携の必要性が説かれる。この必要性については、すでに19世紀に病理学の父といわれるドイツのウイルヒョウ(Rudolf Virchow: 1821-1902)に指摘されていたのである。また1969年代には、獣医疫学創設者と言われるカリフォルニア大学のシュワーベ(Calvin W. Schwabe)も、このことを指摘し、one medicineという概念を提唱している。人も動物の一種であり、医学はひとつというわけである。農医連携と同じ概念であろう。

このone medicineという概念は、近年の鳥インフルエンザウイルスによるパンデミックの危険性の高まりとともに、one world、one health, one medicine という惹句のもと、獣医学と医学が連携して人獣共通感染症対策をはかる国際的ネットワークの活動につながってきた。

この潮流は、Veterinaria Italiana(イタリア獣医学雑誌)や国際雑誌のComparative Immunology, Microbiology and Infectious Diseases(比較免疫学?微生物学?感染症)に、one healthの特集や編集方針が顕在化しているという。その他、日本の医学界での現状、世界ウイルスイニシアチブ(Global Viral Forecasting Initiative: GVFI)の活動が紹介される。

最後に、日本が国際活動の状況を認識して、獣医学と医学の連携を強化し、人獣共通感染症に立ち向かう態勢を作り上げることを期待している。

「家畜?家きんにおける人獣共通感染とパンデミックの制圧」
家畜?家きんに大きな影響を及ぼす人獣共通感染症の制御に向けた研究開発の重要生と、過去の感染症の事例からパンデミックが発生する要因などが紹介される。また、農林水産省プロジェクト「牛海綿状能症(BSE)及び人獣共通感染症の制圧のための技術開発(平成15~20年)で得られている成果が紹介される。(キーワード:人獣共通感染症、制圧、パンデミック、発生要因)

「高病原性鳥インフルエンザの予防対策」
鳥インフルエンザ対策として、農場内にウイルスを持ち込ませないバイオセキュリティーの徹底が必要であるが、他の家畜重要疾病と同様に、不測の場合に備えた緊急ワクチンの備蓄が必要である。著者はインフルエンザウイルスライブラリーからワクチン株を選抜し、効果の高い鳥インフルエンザワクチンを開発した。ワクチンを継続的に使用している国々で流行しているウイルスの抗原性が急速に変化しているので、ワクチン株の変更も視野に入れて対抗していくことが必要である。(キーワード:鳥インフルエンザ、H5亜型、摘発淘汰、ワクチン、発症予防)

「鶏におけるサルモレラ症の診断と対策」
鶏のサルモネラ症では、鶏に損耗を与えない鶏パラチフスが食中毒として重要であり、これには Salmonella Enteritidis による鶏卵汚染と、Infants, Typhimurium, Saintpaul など多くの血清型による鶏肉汚染がある。診断はいずれも菌分離であり、通常法では日数がかかるため、検体数が多い場合などでは、簡易?迅速診断法への要望が強くなっている。Enteritidis による鶏卵汚染を原因とする食中毒は減少傾向にあるが、他の血清型による鶏肉汚染を原因とする食中毒は相対的に増加しているので注意が必要である。フードチェーン全体で取り組む必要がある。(キーワード:サルモネラ、簡易迅速診断法、鶏卵、鶏肉)

「豚インフルエンザウイルスの遺伝子多様性獲得機構」
A型インフルエンザウイルスは、その遺伝子が8つの遺伝子分節からなることから、複数の由来を異にしたウイルスがひとつの宿主に感染する際に、遺伝子再集合と呼ばれる機構によって新たな遺伝的背景をもったウイルスが生まれる。豚は異なった宿主に由来するA型インフルエンザウイルスに対する感受性をもっており、自然界における人型、豚型、鳥型インフルエンザウイルスの遺伝子再集合の場となっている。このような遺伝子再集合が自然界で豚インフルエンザウイルスの遺伝的多様性を生みだしている。(キーワード:インフルエンザ、パンデミック、豚)

「抗酸菌の抗原および遺伝子解析と診断?予防への応用」
ヒトあるいは牛型結核菌をはじめとして、病原性の抗酸菌は比較的宿主域が広く、重要な人獣共通感染症の病原体である。家畜?家禽の抗酸菌の対策は摘発?淘汰を基本として進められているが、そのためには感度と特異性が高い診断法が要求される。病原性抗酸菌の多くは発育速度が遅く、多くの共通抗原を保有していることから、抗酸菌の遺伝子解析や抗原解析が進められ、特異的遺伝子を利用した抗酸菌迅速検出法や遺伝子組換え抗原を利用した新たな免疫学的診断法が開発されている。さらに、ワクチンによる予防戦略として、次世代型結核ワクチンの開発も進められている。(キーワード:抗酸菌、結核菌、ヨーネ菌、診断)

「腸管出血性大腸菌の分子疫学的解析法」
血清型0157に代表される腸管出血性大腸菌は人獣共通感染症を引き起こすが、多くの家畜には病原性を示さず、特に本菌を保有する健康なウシを起点とする食品汚染が社会において深刻な問題となっている。その流行を防止するためには、病原菌ゲノムの多様性を利用した菌株の識別(分子疫学的解析)を行い、伝搬経路を特定さらには遮断することが重要である。最近の研究により、腸管出血性大腸菌は進化の過程で規模の異なる2種類のメカニズムにより多様性を獲得することが分かっており、これを利用した迅速で簡便な新しい分子疫学的解析法が開発されている。(キーワード:腸管出血性大腸菌、0157、分子疫学的解析、PFGE、IS-printing)

「ウエストナイルウイルスの日本国内侵入時に想定される感染伝播」
ウエストナイルウイルス(West Nile virus :WNV)は 、蚊の媒介によってヒトや様々な動物に感染し、熱性疾患および脳炎を引き起こす人獣共通感染症の病原体である。WNVは日本国内では見つかっていないが、世界に広く分布していることから、感染した渡り鳥の飛来などによるその侵入が懸念されている。近年、WNV対策として様々な研究およびサーベイランスが実施された結果、日本国内にWNVが侵入した場合に、国内に生息する蚊および野鳥の間で感染サイクルを形成する可能性が高いことが明らかとなった。このことから、今後もWNVの侵入に対する監視および検査体制を維持することが必要と考えられる。(キーワード:ウエストナイルウイルス熱、脳炎、蚊媒介性感染症、野鳥、ウマ)

参照:「情報:農と環境と医療」に掲載した「人獣畜共通感染」に関する項目
言葉の散策 30:死
語源を訪ねる 語意の真実を知る 語義の変化を認める
そして 言葉の豊かさを感じ これを守る

良い環境で安全な食べ物を食し、どんなに健康であっても、人はいつか死ぬ。最近では、病院に入り医者に診てもらえば、人は死なないと錯覚している人がいるのではないかと思うほど、病院での死に対して責任をとれなどという。

人は死ぬ。貴人も死ねば非人も死ぬ。だからという訳ではないが、人の死については、古来さまざまな呼び方がある。以下、「史記の風景」(宮城谷昌光、新潮文庫:2000)による。礼記(らいき:儒教の教典で五経のひとつ。他は易教?書教?詩教?春秋)によると、天使が死去することを「崩(ほう):山が崩れるようになくなる」、諸侯は「薨(こう):見えなくなる」、大夫(小領主)は「卒(しゅつ):年をおえた」、士は「不祿(ふろく):官から支給される手当を受けなくなる」、庶人は「死(し):骨の断片+人」という。遺体がまだ床の上にあるうちは「尸(し)」といい、棺におさめられて「柩(きゅう)」という。ちなみに遺体を墓地まではこぶ車を「柩車」という。さらに鳥類の死は「降(こう)」といい、獣の死は「漬(し)」という。

類義語に、あの世に行く「逝」、姿が見えなくなる「歿」、いなくなる「亡」がある。

「字通」によれば、歹(がつ)+人。歹は人の残骨の象。人はその残骨を拝し弔う人。死の字形からいえば、一度風化しのち、その残骨を収めて葬るのであろう。葬は草間に死を加えた字で、その残骨を収めて弔喪することを葬という。いわゆる複葬である。

「日本国語大事典」による字義は次の通り。1)しぬ、ア.人や動物が死ぬ、命が絶える、イ.草木が枯れる、2)し、しぬこと、3)しかばね、死体、4)必死の、命がけの、5)ころす、しなせる、6)つきる、なくなる、7)感覚を失う、麻痺する、8)生気がない、動かない、9)通じていない、通り抜けられない、10)はなはだしい、きわめて

ところで、次の万葉集の柿本人麻呂の歌に出てくる死者は、「崩」か「薨」か「卒」か「不祿」か「死」か。「崩」と「薨」でないことは確かだろう。万葉集の研究者に聞いてみたいところではある。

名ぐはし 狭岑(さみね)の島の 荒磯面(ありそも)に 廬(いほ)りて見れば
波の音の 繁き浜辺を しきたへの 枕になして 荒床に ころ伏す君が 家知らば
行きても告げむ 妻知らば 来も問うはましを 玉桙(たまほこ)の 道だに知らじ
おほほしく 待ちか恋ふらむ 愛(は)しき妻ら
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情報:農と環境と医療54号
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発行日 2010年3月1日