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農医連携教育研究センター 研究ブランディング事業

58号

情報:農と環境と医療58号

2010/11/1
医学部学生の「第4回八雲牧場体験演習」が終わる
恒例の医学部学生の「八雲牧場体験演習」が、平成22年8月23~26日の4日間にわたって開催された。これは医学原論?医学原論演習における演習授業として、博狗体育在线_狗博体育直播【官方授权网站】@獣医学部の附属施設フィールドサイエンスセンター(FSC)牧場で、実習及び体験学習を通じて、本学の教育目標のひとつである「農医連携」について学ぶ体験学習である。今年は、男性20名および女性10名の計30名の医学部学生が参加した。演習中に牛の分娩を見学する貴重な機会を得た。演習内容は次の通りである。

★八雲牧場の牛と人と自然の共生を体感する。
★全行程徒歩で移動する。
★雨天の場合は幌付き家畜車およびハイエースで移動する。
★エコロジカル牧場の体験学習(野外で実施)。
★放牧牛の行動を観察し、動物福祉と牛自らが生きる力を学ぶ。
★森と草原を歩き、木を集め、薪割りを体験する。
★牧場内の草原や森や小川を巡りながら、人も自然の一部であり、一人では生きていけないこと、健康の源は命の循環にあることを学び、仲間との交流を深める。


★地産地消?医食同源?身土不二を体験する。薪運びから火起こし、ハンバーグ(ソーセージ)?天然酵母パン実習まで全てを体験し、仲間に食べて貰う。
★バーベキューハウスで北里八雲牛の焼き肉、ハンバーグ(ソーセージ)、石窯料理を賞味しながら親睦を深める。
★次の実習をより実り多くするため、意見を交換する。
★酪農家が経営するショップ「エルフィン」(北里八雲牛肉?加工品の販売店)でアイスクリーム試食、八雲牧場と地元の交流を学ぶ。


なお平成19年からの内容は、「情報:農と環境と医療」のホームページで見ることができる。
/jp/noui/spread/newsletter/no31-40/noui_no32.html#p01
/jp/noui/spread/newsletter/no41-50/noui_no45.html#p04
/jp/noui/spread/newsletter/no51-60/noui_no54.html#p02

第23回「バイオサイエンスフォーラム」研究会:盛会に終わる
学校法人北里研究所?博狗体育在线_狗博体育直播【官方授权网站】@の第23回「バイオサイエンスフォーラム」研究会が、平成22年8月5~6日、博狗体育在线_狗博体育直播【官方授权网站】@十和田キャンパスで盛会のうちに終了した。二日間にわたり67課題の講演が行われた。その内訳は、薬学部(10)、獣医学部(18)、医学部(1)、海洋生命科学部(5)、理学部(3)、医療衛生学部(4)、医療系研究科(13)、北里生命科学研究所(2)、感染制御科学府(11)であった。学生、教職員を含めて141名が参加した。平成19年からの内容は、「情報:農と環境と医療」のホームページで見ることができる。

/jp/noui/spread/newsletter/no31-40/noui_no31.html
/jp/noui/spread/newsletter/no41-50/noui_no42.html#p02
/jp/noui/spread/newsletter/no51-60/noui_no52.html#p03

Agromedicine を訪ねる(17):Journal of Agromedicine
以下のことは、「情報:農と環境と医療10号」ですでに書いた。「農医連携」という言葉は、生命科学全般を指向する博狗体育在线_狗博体育直播【官方授权网站】@で新しく使用しはじめたものだ。それに相当する英語に、例えば Agromedicine がある。1988年に設立された The North American Agromedicine Consortium(NAAC)は、Journal of Agromedecine という雑誌(http://www.tandf.co.uk/journals/WAGR)と博狗体育在线_狗博体育直播【官方授权网站】@レターを刊行している。
この雑誌の話題には、農業者の保健と安全性、人獣共通感染症と緊急病気、食料の安全性、衛生教育、公衆衛生などが含まれる。Journal of Agromedecineの目次は、これまでもこの情報で創刊号から紹介している。今回は、2009年の第14巻の1~4号の目次を紹介する。

第14巻1号
  • Journal of Agromedicine "Leader in the Field" 2009: Kelley J. Donham
  • Agricultural Safety and Health: A Profession?: Kelley J. Donham
  • Work Exposures, Injuries, and Musculoskeletal Discomfort Among Children and Adolescents in Dairy Farming: Larry J. Chapman et al.
  • Chronic Back Pain and Associated Work and Non-Work Variables Among Farmworkers from Starr County, Texas: Eva M. Shipp et al.
  • Investigation of Select Ergonomic Interventions for Farm Youth. Part 1: Shovels Susan E. Kotowski et al.
  • Investigation of Select Ergonomic Interventions for Farm Youth. Part 2: Wheelbarrows Susan E. Kotowski et al.
  • Growth of the Spanish-Speaking Workforce in the Northeast Dairy Industry: Paul L. Jenkins et al.
  • Diplopia in Green Tobacco Sickness: Leszek Satora et al.
  • The Changing Face of Agricultural Health and Safety ? Alternative Agriculture: Kelley J. Donham et al.

第14巻2号
  • Sixth International Symposium: Another Milestone in Agricultural-Rural Health and Safety: John R. Gordon
  • Child Safety Driver Assistant System and its Acceptance Elisabeth Quendler: Christian Diskus et al.
  • Planning Without Facts: Ontario's Aboriginal Health Information Challenge: Bruce Minore et al.
  • Youths Operating All-Terrain Vehicles? Implications for Safety Education: Shari K. Burgus et al.
  • Collaboration on Contentious Issues: Research Partnerships for Gender Equity in Nicaragua's Fair Trade Coffee Cooperatives: Lori Hanson et al.
  • ○'Train the Trainer'Model: Implications for Health Professionals and Farm Family Health in Australia: Susan Brumby et al.
  • Canadian Home Care Policy and Practice in Rural and Remote Settings: Challenges and Solutions: Dorothy A. Forbes et al.
  • Epidemiologic Studies in Agricultural Populations: Observations and Future Directions:Aaron Blair et al.
  • Demographics, Employment, Income, and Networks: Differential Characteristics of Rural Populations: Ray D. Bollman et al.
  • Challenges of Conducting a Large Rural Prospective Population-Based Cohort Study: The Keokuk County Rural Health Study: Ann M. Stromquist et al.
  • Simple Solutions for Reduced Fish Farm Hazards: Melvin L. Myers et al.
  • Disability on Irish Farms? A Real Concern: Shane Whelan et al.
  • Epidemiology, Surveillance, and Prevention of Farm Tractor Overturn Fatalities: Henry P. Cole et al.
  • Occupational Injury and Treatment Patterns of Migrant and Seasonal Farmworkers: Melissa A. Brower et al.
  • National Consultation Leads to Agrivita Research to Practice Plan for Canada: Johanne Asselin et al.
  • Cancer in Migrant and Seasonal Hired Farm Workers: Paul K. Mills et al.
  • Children's Exposures to Farm Worksite Hazards on Management-Intensive Grazing Operations: Regina M. Fisher et al.
  • Tractor-Related Injuries: An Analysis of Workers'Compensation Data: David I. Douphrate et al.

第14巻3号
  • Interdisciplinary Approach Required to Address Broad Spectrum of Animal-Related Injuries and Zoonoses: Steven R. Kirkhorn
  • Swine Production Impact on Residential Ambient Air Quality: Stephane Godbout et al.
  • Lack of Evidence of Avian Adenovirus Infection Among Turkey Workers: Ghazi Kayali et al.
  • Zoonoses and the Physicians'Role in Educating Farming Patients: Ann L. Kersting et al.
  • Cost Effectiveness of Wearing Head Protection on All-Terrain Vehicles: Melvin L. et al.
  • The Use and Value of Information Systems as Evaluated by Dairy and Specialty Crop Farm Managers: Larry J. Chapman et al.
  • Learning and Recall of Worker Protection Standard (WPS) Training in Vineyard Workers: W. Kent Anger et al.
  • Intervening to Improve Health Indicators Among Australian Farm Families: Justin B Lackburn et al.
  • Bull-Related Incidents: Their Prevalence and Nature: Kristi J. Sheldon et al.
  • Zoonotic Infections of Equines to Consider after Exposure Through the Bite or the Oral/Nasal Secretions: Ricky Langley et al.
  • Disulfiram-Like Syndrome After Hydrogen Cyanamide Professional Skin Exposure: Two Case Reports in France: Luc de Haro

第14巻4号
  • Journal Stays on Leading Edge with New Paths Conference Proceedings: Steven R. Kirkhorn
  • New Paths for Occupational Health and Safety in Sustainable Agricultural Systems: Richard A. Fenske
  • A Summary Report of a Panel Session Entitled "Engaging Populations at Risk": Jeffrey L. Levin; Eva I. Doyle; Karen H. Gilmore; Amanda J. Wickman; Matthew W. Nonnenmann; Sharon D. Huff
  • A Report on a Panel Presentation and Round Table Discussion: Matthew Keifer
  • Migrant Farmworker Field and Camp Safety and Sanitation in Eastern North Carolina: Lara E. Whalley et al.
  • Farming-Related Caustic Ingestion by a 2-Year-Old: Innocent Play with Costly Results: Ghiath Al-Kassar, Mary Jo Knobloch


本の紹介 46:葬られた「第二のマクガバン報告」、中巻「あらゆる生活習慣病を改善する『人間と食の原則』」、T?コリン?キャンベル、トーマス?M?キャンベル著、松田麻美子訳、グスコー社(2010)
ヒポクラテスの言葉

  • 基本的に二つのことがある。すなわち知ることと、自分が知っていることを信じることの二つだ。知ることは科学である。一方、自分が知っていることを信じることは無知である。
  • 食べ物(=土壌:筆者挿入)について知らない人が、どうして人の病気について理解できようか。

「マクガバン報告」とは、米国人の「食習慣と心臓病」に関する1977年の政府報告書である。この報告書は、「食習慣と病気」に関しての公開討論を引き起こしたが、脂肪摂取量の討論に弾みをつけたのは、1982年の全米アカデミーの報告書(NASレポート)の「食物?栄養とガン」である。これは「食事脂肪とガンとの関係」について審議した最初の専門委員会報告でもある。

この本の著者であるキャンベル博士もこの専門委員会の一員であった。実は、キャンベル博士らが米国政府の依頼を受けて1982年に作成した「食習慣と健康に関する研究レポート」(NASレポート「食物?栄養とガン」)は、動物性食品の過剰摂取がガンの強力な要因となっていることをすでに明らかにしている。

このレポートは「マクガバン報告」の第二弾といえるもので、「食習慣とガン」に関する研究レポートであった。しかし、この研究レポートで明確になった結論は、政府の国民に対する食事摂取指針には全く生かされず、そのまま闇に葬られてしまった。ここに、本書のタイトルの意味合いが潜んでいる。葬られたのである。

それはなぜか。長期にわたり政府の栄養政策組織の委員を務め、内部事情に精通しているキャンベル博士は、これが政府と食品?製薬?医学業界の間にある暗くドロドロした関係のためであることを、本書で明らかにする。前回の「情報:農と環境と医療 57号」で紹介した「第二のマクガバン報告」は上巻で、副題は「『動物タンパク神話』とチャイナ?プロジェクト」であった。今回は続いて中巻「第2部:あらゆる生活習慣病を改善する『人間と食の原則』」を紹介する。下巻についても、追って紹介する予定でいる。なお、原本のタイトルは「The China Study -The Most Comprehensive Study of Nutrition Ever Conducted-, Benbella, 2006」で、一冊にまとまった本である。訳者はこれを三冊に分けて出版している。

中巻である本書は次の要約に始まり、第5章から第10章および補項からなる。「驚くかもしれないが、『ガンのための特別な食事』だとか、『特別なメニュー』などというものはない。同様に、『心臓病のための特別食』などというものはないのだ。ガン予防に役立つものと同じ食事が心臓病の予防にも役立ち、同様に、肥満、糖尿病、白内障、黄斑変性症、アルツハイマー病、知的機能障害、多発性硬化症、骨粗鬆症、そのほかの病気の予防にも良いことを、今や世界中の研究者によって集められた証拠が物語っている」。「『プラントベースでホールフードの食事』がこのような多種多様の病気にとって役立つのが、想像できるだろうか」。

第5章 傷ついた心臓が甦る
アメリカでの心臓病は、100年変わらぬ死因第1位(日本では第2位)の病である。女性の心臓病による死亡率は、乳ガンの8倍も高い(日本人女性の場合は8.2倍)。心臓発作は「ブラーク」の堆積から起こる。ブラークとは、動脈壁の内側に堆積するタンパク質や脂肪(コレステロール含)、免疫細胞、そのほかの成分などで構成される「ベタベタした層」のことである。

心臓病は食べ物が原因による死亡事件である。飽和脂肪、動物性タンパク質、食事コレステロールの摂取とともに、血中コレステロールが上昇する食習慣が原因と考えられている。人びとが飽和脂肪とコレステロール(動物性食品)を摂取すればするほど、心臓病になるリスクが増すという事実が明らかになっている。

心臓病になったら、どうしたらいいのか。脂肪を加えず、あらゆる「動物性食品」をほとんど含まない「食生活」は、病気が起こらないばかりか、症状の改善される結果が得られている。「プラントベースの食習慣」を実践し始めると、患者に病気が起こらなくなったり、症状が改善していった。この食習慣で心臓病の予防と治療が可能となった。

第6章 肥満の行き着く先
肥満に関しては、まず自分の体格指数(BMI=現在の体重Kg÷伸長mの二乗)を知ることが必要である。アメリカではBMI30以上が肥満。日本では25以上が肥満。アメリカでは増え続ける子供の肥満が大きな問題である。肥満を助長している社会システムが、肥満の大きな問題点でもある。

減量のための最善の方策は、「プラントベースでホールフードの食事」と「適度な運動」に尽きる。この食習慣は、体重を減らすのに役立ち、しかも速く実現できる。しかし、やせられないのにはわけがある。一つは、食事に精製炭水化物食品が多く含まれていてはならない。お菓子やペストリー、パスタでは減量できない。二番目は運動していない場合。三番目は家系的に肥満体になる人である。肥満の原因は、私たちのフォークや箸の先にあると、著者は強調する。

第7章 糖尿病追放への道
ここでは、糖尿病とは何か。なぜ、この病気に気をつけなければならないのか。そして、この病気が生じないようにするには、どうしたらよいのかが解説される。この病気は、グルコース(ブドウ糖)代謝の機能不全と共に始まる。

グルコースは血液に入る(血液中の糖を血糖という)。これを全身へ輸送?分配するために、インスリンが膵臓によって作られる。血糖を細胞に運ぶ役割を果たすインスリンが、機能を失うために起こる病気が糖尿病である。糖尿病は、インスリンが血糖を細胞内に取り込むよう命令し始めても、細胞が言うことを聞かなくなる病である。そのため、インスリンの効き目がなくなり、血糖は正しく代謝されなくなる。

グルコース代謝の混乱によってもたらされる疾患には、心臓病?脳卒中?高血圧症?失明?腎臓病?神経系疾患?歯の疾病?手足の切断?妊娠合併症などがある。

糖尿病は、食生活次第で治癒できるという研究が数多くある。著者は、「高炭水化物で低脂肪の食生活、すなわちプラントベースの食事」が糖尿病を予防するのに役立っているかもしれないという。多くの研究結果が、「同一集団においても、また異集団においても、食物繊維の多い、丸ごとの(未精製?未加工)の植物性食品は糖尿病を予防し、高脂肪?高タンパクの動物性食品は糖尿病を助長する」という考え方を支持している。

第8章 ガン対策はどのように改善されるべきか
この章では、乳がん?大腸ガン?前立腺ガンが語られる。過剰な量のエストロゲンやプロゲステロンを含む女性ホルモンにさらされていることが、乳ガンのリスクの増加につながる。エストロゲンや関連ホルモンのレベルが高いのは、「高脂質?高動物タンパク?低食物繊維の典型的な欧米食」を続けている結果である。

既存の乳ガン対策(遺伝子?乳ガン検診?予防薬と切除手術?環境化学物質ホルモン補充療法『HRT』)に対する考え方が再検証される。現状の乳ガン治療に対する結論は、あらゆるものの中で「プラントベースの食事」こそベストのものであり、その効果はどんな薬でも及ぶことがないだろうと、結論づけられる。

大腸ガン罹患率の地域格差が調査された結果、結腸ガンと肉摂取の関係が明らかにされた。食べ物や栄養が大腸ガンに関与していることが明らかになった。しかし、大腸ガンを止める方法に対する確かな解答には至っていない。

しかし著者は主張する。繊維を多く含む植物性食品(野菜?果物?未精製の穀物や豆類)を摂取することは明らかに有益である。「プラントベースでホールフードの食事」は、劇的に大腸ガンの罹患率を低下させることができる。精製された白米、白い小麦粉で作られたパスタや白いパン、砂糖をまぶしたシリアル、キャンデー、そして砂糖を加えた清涼飲料などはできる限り避けるべきである。ヨーロッパや北米のような、カルシウムを最も多く摂取している地域では、大腸ガンの罹患率が高い。運動は結腸ガンを予防するという研究もある。

膨大な数の調査が、「動物性食品は前立腺ガンと関係している」ことを証明している。乳製品の場合、カルシウムとリンの摂取量の増加が原因の一端となっている可能性がある。肉(魚介類も含む)や乳製品のような動物性食品を摂取すると、ガンの予測因子である「IGF-1」がより多く製造される。血液中のIGF-1のレベルが正常値より高い男性は、進行した前立腺ガンのリスクが5.1倍高い。

動物性タンパク質は「活性型ビタミンD」の生産を妨げてしまう傾向があり、このビタミンの血中レベルを低下させる。この低レベルが続くと前立腺ガンが生じる。また、カルシウムをとりすぎていると「活性型ビタミンD」の働きが低下する環境ができる。動物性タンパク質と大量のカルシウムを含む食べ物とは、牛乳や乳製品である。ちなみにビタミンDは、一日おきに15分か20分日光に当たるだけで、必要な量はすべて作られている。最後に、著者は「乳製品や肉を摂取することは前立腺ガンの重大な危機因子となる」という結論を導く。

第9章 自己免疫疾患根絶のために
自己免疫疾患とは、体が自らの細胞や組織を攻撃する病である。この病気で一般的に知られているものは、バセドウ病?関節リウマチ?甲状腺炎?白斑?悪性貧血?糸球体腎炎?多発性硬化症?1型糖尿病?全身性エリテマトーデス?シェーグレン症候群?重症筋無力症?多発筋炎?アジソン病?強皮症?原発性胆汁性肝硬変?ぶどう膜炎?慢性活動性肝炎。この病気の中で、9番目の全身性エリテマトーデスまでが症例全体の97%を占める。

自己免疫疾患すべてに共通することは、1) それぞれの病気には免疫システムが関与しており、このシステムが異質タンパクと同じに見える自らのタンパク質を攻撃してしまう形でうまく機能しなくなるという特徴を持つ。2) 太陽が当たることの少ない緯度の高い地域で多く見られる。3) 同じ人が発病する傾向がある。4) 動物性食品、とくに牛乳の摂取がリスクの増加と関連している。5) ウイルスが、病気発生の一因となる可能性がある。6) 発生のしくみに共通点が多い、という証拠がある。

「発生のしくみ」とは「どのように病気が形成されるか」ということである。「発生のしくみ」の共通点は、「日光との関係」「牛乳の摂取量」がある。このふたつは、同様なメカニズムを通して作用するため、多発性硬化症およびほかの自己免疫疾患に同じ影響を及ぼす可能性がある。

第10章 食が改善する「骨、腎臓、目、脳の病気」
この章では、食生活とは一見すると無関係と思われる五つの病気(骨粗鬆症?腎臓結石?失明?認知機能障害?アルツハイマー病)が、食習慣の視点から解説される。

骨粗鬆症の罹患率が特に高い地域は、アメリカ以上に牛乳の摂取量が多いオーストラリアとニュージーランドである。動物性タンパク質は植物性タンパク質と異なり、体にもたらされる酸の量を増やしてしまう。酸の量が増加すると、血液や組織の酸性度が増す。体は酸性の環境を嫌う。そこでこれを抑え中和するためにカルシウムを使う。結局は骨からカルシウムを調達する。動物性タンパク質が骨の健康を低下させる所以である。骨粗鬆症予防のためのアドバイスが紹介される。1) いつも体をよく動かすこと。2) いろいろな未加工?未精製の「植物性食品」を食べ、乳製品を含む「動物性食品」を避けること。3) 塩の摂取量を最小限に保つこと。

腎臓結石を患う人は次のような症状を起こす。吐き気?嘔吐?落ち着きのなさ?腰や腹部の鈍痛?切迫感?頻尿?痛みを伴う血尿?発熱?急性腎疝痛(せんつう)。「高動物性タンパク質の摂取」が腎臓結石の主たる元凶としての証拠を示している。腎臓結石の形成は、フリーラジカルの活動によって開始される可能性があり、抗酸化物質を含む植物性食品の摂取によって防ぐことができる

眼疾患には黄斑変性症と白内障がある。前者の予防の切り札は、濃い緑黄色野菜(ブロッコリー?ニンジン?ホウレンソウ?コラードグリーン『アブラナ科』?冬カボチャ?サツマイモ?キャベツ類)の摂取である。抗酸化物質を含む食べ物、特にカロチノイド類を含むものが予防によい。後者は手術で回復するが、手術を回避するためには、ルテインを含む野菜(ホウレンソウ)がよい。いずれの病気も、「動物性食品の摂取量の増加」と「植物性食品の摂取量の低下」によって生じる「過剰のフリーラジカル」が原因である可能性が高い。

植物に含まれる抗酸化物質によって、認知症アルツハイマー病も改善される。危険因子の一つは高血圧、次は高い血中コレステロール値、三つ目の因子は、脳機能を混乱させるフリーラジカルである。多くの研究が、これらの問題を解決するのに植物中の栄養を摂取することでリスクを低下させることができるという結果を得ている。

『補項』「ビタミンDの働き」について/引用資料一覧/索引

本の紹介 47:大気を変える錬金術‐ハーバー、ボッシュと化学の世紀‐、トーマス?ヘイガー著、渡会圭子訳、白川英樹解説、みすず書房(2010)
本書を紹介する前に、表題の「大気」と「錬金術」について簡単に復習する。次に、自然界に存在する「窒素」の性質や挙動について解説する。続いて、大気にある78%の窒素を化学的に固定してアンモニア化した窒素による農産物の増産という「光」の部分について紹介する。さらに、固定した窒素の「影」の部分について考える。最後に、大気の窒素を固定した「ハーバーとボッシュ」を紹介する。補遺として、窒素について世界の科学者が思考している現状(INI: International Nitrogen Initiative:国際窒素会議)について紹介する。これらの内容から、日夜、化学工場で行われている窒素固定が、人類と地球環境に及ぼす影響を再認識する。したがって今回の「本の紹介」は、これまでの紹介の形式を逸脱することを事前に了解いただきたい。

解説は次の項目にしたがう。大気と錬金術/窒素の挙動/窒素と農業生産(光)/窒素と肥満?爆薬(影)/窒素と温暖化?オゾン層破壊(影)/ハーバーとボッシュ/

大気と錬金術
大気とは地球をとりまく気体の層で、窒素(78%)と酸素(21%)を主成分とし、アルゴン(0.934%)、二酸化炭素(380ppm)、メタン(1.8ppm)、亜酸化窒素(315ppb)、オゾン、水素などを少量含む。大気は、太陽からの有害な紫外線を遮る層と、地球から宇宙への熱の放散を防ぎ、さまざまな気象現象をもたらす層からなる。前者を成層圏と呼ぶ。気温はほぼ一定で高さ10~50kmの領域にあり、オゾン層を含む。後者を対流圏と呼ぶ。平均して約15kmの上空にあり、気象現象をもたらす大気の層で、われわれが呼吸に必要な酸素の95%を含む。

錬金術は、黄金を中心に金属をつくり出すことを追求した技術である。不老長寿の霊薬の調合技術と重なり、広く物質の化学変化を対象とする技術へと発展した。古代?中世における一種の自然学である。中国?インド?アラビア?西欧などで、それぞれ宗教や哲学と結びついて固有な内容を展開した。中世ヨーロッパでは、アラビアで体系化されたものが精緻化され、種々の金属の精製や蒸留、昇華法など化学的な知識を蓄積し、近代化学の前史的な役割を果たしてきた。

本書の原題「The Alchemy of Air」の Alchemy は、錬金術とも魔力とも訳すことができるだろうが、訳者は原題を「大気を変える錬金術」としている。いずれにしろ、この書はハーバーとボッシュが78%もある大気の窒素を化学的に固定した結果、何が起こったかを物語る。この発見によって、パンドラの箱は空けられてしまったのである。そこには、固定窒素の「光と影」が様々な形で紹介される。

窒素の挙動
徳富健次郎こと徳富蘆花は、「みみずのたはごと」で次のように述べている。「土の上に生まれ、土の生むものを食うて生き、而して死んで土になる。我等は畢竟(ひっきょう)土の化物である」。私たちは土壌で生産された作物を食したり、植物を食した動物を食す。私たちの体の元素は、基本的には土壌に由来する。筆者のように土壌学を学んだ者は、この言葉に諸手を挙げて賛同する。土壌学を学んだから賛同するのでなく、ことの本質だからである。

本書の著者は、このことを土壌でなく大気に代替する。「私たちの体をつくっているもの、皮膚、骨、血液、脳などをつくる原子は、基本的に大気に由来する。直接的、あるいは間接的に。????人の体は、空気でできた個体と言えるかもしれない」。

大気由来であろうと土壌由来であろうと、私たちは窒素なしには生きられない。なぜなら、私たちの体は炭素、酸素、水素、窒素などからできあがっている。窒素はDNAの遺伝子に閉じ込められていて、タンパク質をつくるときそこに組み込まれる。十分な窒素がなければ植物も動物も、もちろん私たち人間も死んでしまう。

ところで、地球の大気には78%の窒素(N2)があることは既に述べた。私たちは、日夜この窒素の海の中で呼吸をしている。しかし、この無量大数と言えるほどのN2では、植物も動物も育たない。このN2は、不活性でなんの役にも立たないのである。植物や動物が必要とする窒素は、N2とは形態が異なる。固定された形態の窒素でなければならない。

その窒素はどこから来るか。自然界には、大気からN2を固定して植物や動物に取り入れる方法が二つある。それは嵐のときに生じる稲妻と、豆科を中心とした植物に付着するバクテリア、すなわち窒素固定細菌である。

神社の注連縄(しめなわ)には、束にして縒った藁に稲妻状に切った紙垂(しで)が下がっている。イネに稲妻があたっている状況を模し、豊作を祈念したものである。では、なぜ稲妻なのか? 雷に伴う雨を表現するとともに、稲妻によって大気中のN2がNH3として土壌に固定され、植物に取り込まれる。形態を変えた窒素、固定窒素がイネの生息を助けることを人々は昔から知っていた。だから稲の妻、すなわち稲妻と書かれている。雷の多い年は、イネの収穫が良いということを昔の人は知っていた。「雷と稲妻は稲をよく育てる」「立春から60日後に雷鳴あれば豊作」「夏の雷は豊作のしるし」「稲光が田んぼに落ちると、稲が育つ」などの諺がある。

豆科植物と共生して、根粒をつくる細菌を根粒菌と呼ぶ。空気中のN2が根粒菌の生育する根粒中に固定され、植物の養分になる。豆科のほかに、ソテツ、ハンノキ、アゾラなどがあり、窒素の循環に重要な役割を果たしている。自然界では、このようにしてごくゆっくりと少量の窒素が固定されている。そのため植物が利用できる窒素は、つねに不足している状態にある。

窒素と農業生産(光)
人口が増えるにしたがって、食糧が不足する。自然界での窒素固定だけでは、増加する人口を養いきれない。輪作というシステムを確立しても、堆肥を土壌に還元しても、土壌の農業生産力は徐々に失われていく。人類を飢餓から救うには、大量の肥料の生産が不可欠である。植物に必要な三元素は、窒素?リン?カリウムである。この三元素のなかで、土壌ではとくに窒素が欠乏する。

そこで肥料として、南米産の鳥糞石(グアノ)が利用された。グアノが採れなくなると、ボリビア、ペルー、チリの硝石が狙われた。そのうち、チリの硝石の時代にピリオドが打たれた。窒素の欠乏ではなく、過剰に生産され始めた窒素のためであった。

実はその頃、ドイツではひとりの科学者、フリッツ?ハーバーがある機械を完成させていた。無限にある大気のN2を、アンモニアに固定する機械が発明されたのである。空気をパンに変える機械と噂されていた。後に、カール?ボッシュがこれを大型の装置に改良した。したがって、この窒素を固定する方法がハーバー?ボッシュ法と呼ばれるようになった。

この驚くべき発明によって、世界は飢餓から脱出することができた。二人はこれによってノーベル賞を獲得している。20世紀初頭の世界人口は、約10億であった。現在はハーバー?ボッシュ法による窒素固定により約69億の人口が養われている。

経済学者トマス?マルサスや細菌学者パウル?エールリッヒのはるか昔の予測によれば、1800年代の最高の農業技術を駆使し、耕作可能地すべてに作物を育てれば、40億人を養うことができるという。しかし、今なお70億人にちかい人間に食料を提供できているのは、ハーバー?ボッシュ法による窒素固定の発見のためであることに間違いはない。

窒素と肥満?爆薬(影)
ハーバー?ボッシュ法が発明されて、ほぼ百年が経過した。人間の食生活はバラエティーに富み、カロリーは十分満たされるようになった。ハーバー?ボッシュ法による窒素固定のため、食料は豊富で十分にあり、比較的安価に入手できる。これは固定窒素の光の部分である。

ハーバー?ボッシュ法により固定された窒素肥料は、植物を育て動物を育む。これらからつくられる油脂、糖、肉、穀物が私たちを太らせる。私たちは肥満の蔓延という問題に直面している。一方、肥料と爆薬の化学構造は類似している。固定窒素は火薬やTNT(トリニトロトルエン:爆弾)に変わる。つまり世界の人びとを養うことができる発見が、世界の破壊にも通じるということである。固定窒素がなければ、ヒットラーの脅威はさほどでなかっただろう。ヒットラーは固定窒素を戦争に活用したのである。

窒素と温暖化?オゾン層破壊(影)
窒素、「ものみなめぐる」ということの大切さと、「万物流転」の法則をこれほどよく教えてくれる元素は、他にないであろう。人間はプラスチック、クロロフルオロカーボンおよびダイオキシンなど、短期間では「めぐる」ことのできないものをたくさん作りだした。それらは、「めぐる」ことのできないままに、使い捨てられ、たまりつづけ、われわれの住む地球生命圏を窮地に追い込む。「めぐらない」から抜け出して、窒素のもつ「めぐる」に帰依しないと、地上はいずれ取り返しのつかない世界となる。

しかし、それも過去のことである。すでにわれわれはこの窒素のもつ「めぐる」にも重大な変調をもたらした。その中でも環境にとって最も重要なことは、固定窒素が主として農業生産のための化学肥料として使われ、大気圏における亜酸化窒素(一酸化二窒素:N2O)濃度の上昇と、河川、湖沼および地下水の硝酸(NO3-)濃度の増大を促したのである。

前者のN2O濃度の上昇は成層圏のオゾン層を破壊し、対流圏の温暖化に大きな影響を及ぼすため、地球規模の問題として取り扱われている。後者のNO3-濃度の上昇は、飲料水の水質悪化および地下水?湖沼?河川?海洋の富栄養化に代表される生態系への変調に大きく関わっている。窒素循環の変調によって、地下水から成層圏に至る生命圏すべての領域が脅威にさらされているのである。

温室効果気体であると同時にオゾン層破壊の原因物質であるN2Oは、現在最も注目されている気体の一つであることはすでに触れた。N2Oは大気圏での滞留時間が約150年もあるきわめて安定した気体であるため、対流圏から成層圏に流れ込む。成層圏に移動したN2Oは、一部は原子酸素(O)との反応によりNOに変わる。NOはまずオゾンから酸素原子を一個奪って、みずからはNO2になる。ついで、周囲にある酸素原子がこのNO2と反応して、NOと酸素分子を形成する。つまり、NOがNO2を経てリサイクルする間にオゾンが失われることになる。

N2Oの発生量については、約半分が海洋、森林、サバンナといった自然発生源から、残りの約半分が農耕地、畜産廃棄物、バイオマス燃焼、その他の産業活動といった人為発生源である。これら人為発生源のそれぞれが、大気N2Oの濃度増加に関わっていると考えられるが、最も重要な発生源は農業セクターである。特に、第二次大戦後以降における世界的な水田耕作面積の拡大、窒素肥料使用量の増加、および家畜飼養頭数の増加など、農業活動の拡大が、これらの気体の大気中濃度の増加と地球温暖化に大きく影響してきたことは明らかである。

2007年に公表されたIPCC第4次評価報告書(AR4)によれば、2004年について計算された地球温暖化への寄与率は、CO2が全体の約77%と最大であるが、CH4とN2Oもそれぞれ全体の約14%および8%を占めている。

全球での年間発生量は、14.7(10-17) TgNと推定されている。1959年以降、大気のN2O濃度が急激に増加しているところから、人為起源に由来する発生源にはとくに注目する必要がある。オゾン層の破壊は他の環境、すなわち太陽からの紫外線日射量の増加のみならず、地球の気候変動や水循環にも影響が及ぶ恐れがある。

世界各地で観測された最近の実測値から、現在の大気のN2O濃度は約315ppbvで、この20年間の年増加率は0.2から0.3%の割合である。1950年代の濃度が約295ppbvであるから、急激な上昇をつづけていることになる。

世界の窒素肥料の生産量は増加し続けている。窒素肥料の使用量の増加や、耕地面積の増大なくして、食料の世界的な需要は満たされないから、世界の窒素肥料の生産量は今後も増大しつづけるであろう。また、農地の開発にともなって起こるバイオマス燃焼も増加しているところから、農業生態系のもつ環境への潜在的な負の効果がさらに懸念されつづけるであろう。とくに、窒素肥料の施用による土壌からの発生は今後もきわめて重要な問題となるであろう。

最近の報告によると、モントリオールの議定書の採択によりクロロフルオロカーボンの使用が禁止されたため、成層圏オゾン層破壊のN2O寄与率が増加しているという。今後、ますます窒素肥料から発生するN2Oが温暖化やオゾン層破壊に関連するガスとして注目されることはまちがいない。

この本には、上述したような亜酸化窒素が温暖化とオゾン層破壊へ及ぼす影響についての記述がきわめて希薄である。著者はこの分野の専門家ではないから、詳述は無理としても、この視点こそが表題の「大気を変える錬金術」の本質であろう。しかし、化学の力を得た窒素の物語の終章は、はたしてどうなるのであろうか。

ハーバーとボッシュ
大気の窒素を化学的に固定する技術を開発した二人は、偉大な科学者であった。空気をパンに変える機械を開発して、科学者としての評価はあがったが、二人はさらに異なる大きなものを目指した。世界市場を支配しようという野望である。彼らは近代化学産業の生みの親ともいえる存在になった。その近代科学が何をもたらしたかをこの本は詳しく語る。人間の幸せを目指す科学が、政治、権力、プライド、金銭を巻き込んだとき世界はどうなるのか、という話しがこの本で詳しく紹介される。

窒素を利用する画期的な方法を開発した二人のドイツ科学者の情熱と苦闘を描いた本書は、文明史に深くかかわる窒素という元素の物語である。現実的な科学の世界とは何かが分かる書でもある。本書では、空中窒素の固定法を案出し、第一次世界大戦を毒ガス戦とした張本人のハーバーよりも、その固定法を工業化するのに成功したボッシュの生涯を描くことに主眼が置かれている。本書はハーバーとボッシュが体現した近代科学の明と暗を描いた労作と言える。

本書は、この「歴史上最も重要な発見」のその後を克明に追う。科学者の栄光と悲劇、科学がもたらす光と影、その落差には慄然とさせられる。ユダヤ人であったハーバーは、毒ガスの開発を指揮し結局はナチスに追われる。化学企業のトップに上り詰めたボッシュは、その装置がドイツの戦争継続を助けたのではと苦しみ抜く。ともに失意のうちに世を去った。本書の目次は次の通りである。

はじめに:空気の産物
第1部 地球の終焉
  • 1.危機の予測 2.硝石の価値 3.グアノの島 4.硝石戦争 5.チリ硝石の時代
第2部 賢者の石
  • 6.ユダヤ人、フリッツ?ハーバー 7.BASFの賭け 8.ターニングポイント 9.促進剤 10.ボッシュの解決法 11.アンモニアの奔流 12.戦争のための固定窒素
第3部 SYN
  • 13.ハーバーの毒ガス戦 14.敗戦の屈辱 15.新たな錬金術を求めて 16.不確実性の門 17.合成ガソリン 18.ファ ルベンとロイナ工場の夢 19.大恐慌のなかで 20.ハーバー、ボッシュとヒトラー 21.悪魔との契約 22.窒素サイクルの改変
エピローグ/謝辞/解説(白川英樹)/参考文献/出典について/索引

補遺:INI(International Nitrogen Initiative:国際窒素会議)
対流圏に大量に存在する78%の窒素が、ハーバー?ボッシュ法により固定され始めて100年の歳月が経過した。100年前には地球上に固定される窒素は、自然界での窒素固定や稲妻などであったため、年間約90~140Tg(T=1012)であった。今では年間およそ270Tgもの窒素が、自然界の窒素固定のほかに、肥料製造、石油の燃焼などを通して地球上に固定されている。この値は年々増加の一途をたどっている。

窒素元素はプラス5からマイナス3までの荷電を有するから、自然界でさまざまな形態変化をする。その結果、窒素は土壌、大気、水、作物、食料を経由して地球上のいたる所で循環している。そのため、過剰な窒素は地下水を硝酸で汚染し、酸性雨の原因になり、湖沼などの富栄養化現象を起こす。さらに大気中では、オゾン層破壊の一因になったり、温室効果ガスとして作用する。

この窒素循環は地球規模で変動している。そのため、過剰窒素は環境汚染や地球規模の変動のみならず人間の健康にも影響を及ぼし始めた。大気や水が運ぶ過剰な窒素は、呼吸の病気、心臓病、および各種の癌に関係している。過剰な窒素は、アレルギーを引き起こす花粉を増産させている。また、肥満の蔓延という問題にも直面している。さらに、西ナイルウイルス、マラリアおよびコレラなどの各種の病原菌媒介病の活動に影響を及ぼす可能性がある

この地球規模および人間環境での窒素負荷に対し、窒素の適正な管理をめざし、3年に一度国際会議が開催されている。1998年の第1回(オランダ)、2001年の第2回(米国)、2004年の第3回(中国)、2007年の第4回(ブラジル)に引き続いて、今年はインドで第5回が開催される。詳細はホームページを参照されたい。

第5回のテーマは「持続的発展に向けた活性窒素の管理‐科学?技術?政策‐」で、次の6つのセッションにわたり、オープニング講演?研究発表?討論?総合討論が12月3日から7日にかけて行われる。「食料保障」「エネルギー安全保障」「健康と環境破壊」「生態系保全と生物多様性」「気候変動」「統合知」。

なお、第3回の会議の最終日には、窒素負荷軽減と食料?エネルギー生産向上を両立させるための行動計画である「窒素管理のための南京宣言」が採択され、国連環境計画(UNEP)に手渡された。今回の会議でも、このような宣言や提言が期待される。今回の会議の情報は、http://n2010.org/から、この会議の母胎である「国際窒素イニシアティブ(INI)」の情報は、http://www.initrogen.org/から見ることができる。

筆者は、第3回INIの副会長で「窒素管理のための南京宣言」の採択と、この宣言を国連環境計画(UNEP)に提出する行動に携わった。また、第5回の「気候変動」セッションのオープニングで次のタイトルで講演する。参考までにその内容を紹介する。


Effect of Nitrous Oxide on Atmospheric Environmental Changes and
Strategies for Reducing Nitrous Oxide Emissions from Fertilized Soils
Katsu Minami
Kitasato University

Nothing else but nitrogen would better substantiate the law " ta pantarei" everything flows, proclaimed by the Greek philosopher HERACLITUS: B.C.540-475.

Nitrogen, better than any other element, illustrates the importance of the observation that "everything flows" and the principle that" all things are in flux". Humans have created many substances such as plastics, radioactive materials, and chlorofluorocarbons that cannot "flow". Instead, they are disposed of without being allowed to enter the "flow". They continue to accumulate, and are driving the Earth, where we live, to extremity. If we do not incorporate them into a "flowing system", as expressed by the true nature of nitrogen, the damage to the Earth will be irreparable some day.

However, we humans have also seriously interrupted the flow of nitrogen The biggest effects on the environment have come from rising atmospheric concentrations of nitrous oxide (N2O) related to global warming and the destruction of parts of the ozone layer.

For nitrogen, such changes originated with the artificial fixation of atmospheric nitrogen (78% N2) by Haber and Bosch, about one century ago, at a rate exceeding the rate of the natural cycle. In addition, this artificial nitrogen fixation at the Earth's surface has been done without any consideration for environmental factors such as the balance within ecological systems, the location and the timing of fixation, and atmospheric changes. These problems have already disrupted the nitrogen cycle.

One of the most important diversions of nitrogen flow by humans is the application of nitrogen fertilizers, which worldwide has more than doubled in the two decades from 1990 to 2010, for the purpose of supplying food to an increasing population. Since the global demand for food production cannot be met without increasing use of these fertilizers and further enlarging cultivated area, the output of nitrogen fertilizers in the world will most likely continue to grow larger in the years ahead. Nitrogen, in this way, is seen as a double-edged sword that could be used to enrich humanlife, while simultaneously being the cause of environmental destruction,

To understand the phenomena and problems surrounding N load and N2O, and its use as a fertilizer, this discourse first describes the history of discovery of nitrogen fixation and N2O emission through nitrification from fertilized soils. Then, the relationship between N2O emission and changes in the atmospheric environment are reported. Finally, mitigation strategies for reducing N2O emissions from agriculture, forestry and other land uses, especially fertilized soils, are proposed.

本の紹介 48:腰痛はアタマで治す、伊藤和磨著、集英社新書(2010)
著者は、筋金入りの腰痛に悩まされる家系に生まれたと語る。父も兄も、日常生活に支障が出るほどの腰痛に悩まされ続けた。本人は重度の腰痛症で、プロのサッカー選手を22歳で引退することになる。引退して2年間で10種類以上の仕事に就いたが、決まって腰痛が再発し、ひとつの職場に永く勤めることができなかった。

悶々とした生活が続く。スポーツクラブでインストラクターとして働いているとき、キネシオロジスト(矯正運動療法士)の資格をもつアメリカ人と運命的な出会いをする。彼から「腰痛症の90%以上は、筋肉や筋膜、靱帯などの関節周辺の軟部組織(身体の骨以外の組織)の機能低下が原因であって、関節や椎間板などの構造的な変形がもとになっているケースは10%にみたない。つまり、手術や薬物療法では解決できないケースがほとんど」という情報を得る。腰痛は1回の大きな負担によって起こるのではなく、長年の不良姿勢と不適切な屈み動作の繰り返しにより、腰部の組織に微細なダメージが蓄積した結果なのである。

その後、医学書を片っ端から読む猛勉強が始まる。その後、東京?代官山で腰痛症に特化したクリニックを開業する。延べ1万3000回を越えるセッションを実施し、腰痛を根絶する方法に気づく。除痛だけを目的とした小手先の治療に頼るよりは、患者自身が腰痛を管理し、制御する技術を体得することが有効だという結論に達する。本書のタイトルである「腰痛はアタマで治す」の「頭」は、腰痛を管理する知識と、頭の位置を制御することが腰痛を根治する鍵になることを意味する。

腰痛症は、生涯で3人に1人が経験するといわれる身近な症状である。この項を執筆している筆者も、ご多分に漏れず腰痛症になった。夏の暑い日、朝夕2時間ずつ二日間にわたり畑の草取りをやった。次の日、完全に腰痛の症状が現れた。その後の対処法は省略するが、本書の処方に素直に対応した。その効用はこの項の終わりで紹介する。本書の内容は次の通りである。

第1章:なぜ病院で腰痛が治らないのか
厚生統計協会が発行する「国民衛生の動向2009年版」によると、身体に何らかの不調な自覚症状があるとする人の中では、腰痛が第1位。男女別に見ると、男性では腰痛が第1位、女性では肩こりに次いで第2位。

このような状況の中で、腰痛の世界的権威たちによって標準化されている考え方と、著者の考えを紹介しながら、慢性的な腰痛患者が何故減らないのか、病院に通っても腰痛が根本的に改善されない理由は何故かについて解説する。

理由1:腰痛症のためのガイドラインが普及していない。理由2:腰痛診療の停滞。理由3:構造的診断(画像所見)の限界。理由4:保健に依存した診療。そのほか、手術は最後の手段であること、レベルアップしていないリハビリテーション、安静にしすぎない方が早く回復する、エクササイズは処方するもの、グローバル筋とローカル筋、医師が勧める腹筋運動のリスク、などの項目が解説される。

第2章:腰痛のしくみ
頸(くび)のこりや腰痛症を患う本質的な原因を、形態学とバイオメカニクス(生体力学)の観点から探る。そのため、人間の骨格は二本足歩行に向いていない/頭が前に出ている姿勢が問題の根源/心身症の引き金になる/人間の骨盤は長時間座るのに不向きである/背中を丸めた姿勢のリスク/猫背と脊柱起立筋のストレス/靱帯の引き伸ばし(クリープ)/椎間板ヘルニアと猫背/椎間板ヘルニアは腰をそらして予防/アナトミートレインを知れば歪む理由が分かる、などの項目が図解入りで解説される。

第3章:「トリガーポイント」と腰痛
痛みが出るまでのメカニズムと、痛みの震源地である「トリガーポイント:TP」の正体、TP特有の症状についての説明がある。多くの医療機関や治療院では、鎮痛剤や鍼で痛みを押さえ込もうとすることに異論を唱え、痛みを生じさせている機能的な問題を、患者のライフスタイルから割り出し、それを改善することの必要性を強調する。

なぜ痛みが存在するのか/痛みの種類で患部が分かる/痛みの語彙と部位を示した図表の一例/痛みを放置すると問題が広がっていく/痛みの震源地、TP/TPの種類と症状/TPができるまで/なぜ、いつも同じところが痛むのか/TPの関連痛エリア/仙骨周辺と臀部の外側に痛みが出る腰方形筋のTP/軸足と利き足の見分け方/腰椎の両脇あたりに痛みが出る腸腰筋のTP/臀部に痛みが広がる大殿筋のTP/太ももの外側から脛の外側に痺れが広がる中?小殿筋のTP/座骨神経痛のもとになる梨状筋のTP/動作を切り替える時に痛みが生じる多裂筋のTP/TPセルフケアのポイント、などの項目が図解入りで親切に紹介される。

第4章:正しい姿勢の人はいない
正しい姿勢の人はいなし、正しい姿勢を維持する必要はない。ときどき姿勢を正しい位置に戻せばいい。まめに自分の姿勢をチェックして、正しい姿勢をとるようにこころがけることを頭に置いて、次の項目が解説される。図解入りでわかりやすい。

姿勢を変化させることが大切/正しい姿勢の人はいない/姿勢のメカニズム/からだの正面から見た骨格の歪み/片足荷重を簡単に矯正する方法/医師が匙を投げる脊椎側弯症のしくみ/身体の側面から見た三大不良姿勢:1.スウェイバック/2.フラットバック/3.反り腰/正しい姿勢とセルフチェック/ズボンのサイドステッチで姿勢をチェック

第5章:崩れない腰のつくり方
自力で腰椎‐仙骨の連結部の支持?安定性を高める方法が紹介される。ポイントは、腰部にかかるストレスを最小限にする。次に、腰の「ニュートラルポジション」と、腰椎の安定性を高める「インナーコルセット」を知ることである。この内容については以下のそれぞれの項目で図解入りの説明がある。

崩れない腰はつくれる/腰のニュートラルポジション/ニュートラルポジションはパフォーマンスを向上させる/ニュートラルポジションを体で覚える準備/モビライゼーションのやり方/ニュートラルポジションにするための調整方法/椎間板ヘルニアを回避する疲労回復ストレッチ/座って行う疲労回復ストレッチ/立って行う腰部の疲労回復ストレッチ/腰椎の安全装置、インナーコルセット/インナーコルセットにかかわる筋肉/インナーコルセットを働かせるブレーシング(下腹の引き込み)/ブレーシングの実践/腹部のコンディションと腰痛/動作の前にブレーシングを。

第6章:腰痛防止‐体に優しい作業環境づくり
メンタルヘルスの実情は様々な問題点を含んでいる。ここでは、メンタルヘルスケアにも役に立つフィジカルヘルスケアが解説される。さらに、デスクワーカーとドライバーのための環境づくりが詳しく紹介される。

メンタルヘルスの実情/メンタルヘルスケアにも役立つフィジカルスケア/サラリーマンもアスリートと同じ/三日坊主の人のための提案/身体の一部、椅子を選び直す/背もたれと足台/足台の高さと設置位置/書見台を使う肘掛けを利用する/タオルで骨盤の傾きを矯正する/デスクワーカーのためのストレッチ、50分に1回必ずドライバーはフットレストを活用/ドライバーのための腰痛回避5原則/鞄を持ち換える。

第7章:腰を守る日常動作
この章では、腰痛の予防?改善に役立つ日常の動きが紹介される。日常の動作にも理想的なフォームがある/7つの基本動作「プライマルムーブメント」:押す?引く?捻る?組む?屈む?しゃがむ?歩く?踏み込む/最も腰に負担がかかる「屈む」動作/正しい屈み方の4か条/周囲の物に手を置いて屈む癖をつける/正しい屈み方を利用した、物の持ち上げ方/デッドリフトのやり方/スワットリフトのやり方/絶対にやってはいけない持ち上げ動作/腰痛予防の日常動作/理想的な睡眠姿勢/付記?ギックリ腰になったら。

補章:腰痛にならないためのゴルフ講座
ゴルフは安全なリクレーションではない/日常の姿勢がアドレスに影響する/理想的な体幹の前傾角度とは/舌を使って頸の障害を予防する/呼吸とスウィングスピードの関係/後足を使えないと腰を傷める/ボクシングのストレートをマスターするとよい/体幹の回転可能域を大きくするための魔法のストレッチ。

おわりに
腰痛の患者を治そうとする思いが、次のことがらに現れている。茶道や武道の所作や作法の普及が腰痛の改善に効果を上げる。治療では根本的解決はならず、日常的な姿勢や動作を矯正しなければならぬ。腰痛は自分で管理するものという自覚がいる。100人の腰痛患者には、100通りの物語がある。生体力学(バイオメカニクス)や矯正運動方法(キネシオロジー)の推奨する姿勢や作業フォームは、茶道や武道などの美しい所作と酷似する。心肺蘇生法(CRP)普及の教育が北欧から広まったように、腰痛症改善プログラムを日本から世界に向けて発信したい。

蛇足:冒頭の筆者の腰痛はどうなったか。本書の処方に従って、かなりいい加減ではあるが生体を補整した結果、幸いにも約30日程度で腰痛とおさらばできた。さて、効用はいつまで続くだろうか。本人の三日坊主か、弛まない管理に依存するだろう。それとも、これから茶道か武道を始めようか。これも三日坊主になること疑いないので止める。

言葉の散策 31:霜降月
語源を訪ねる 語意の真実を知る 語義の変化を認める
そして 言葉の豊かさを感じ これを守る

今は旧暦でいえば、十二月の半ばにあたる。田畑に霜が降る月だ。霜や雪を降らす女神を青女(せいじょ)という。淮南子の天文訓に「青女乃出以降霜雪」とある(日本国語大辞典)。寒い日に東の野にかぎろひが立つと、その光に溶けて、消えてしまう霜の花。火山灰土壌が分布している地域では、キラキラと光る霜に加えて、踏むとサクサクと鳴る霜柱の音も楽しめる。雪の結晶は六角だから六(む)つの花と呼ばれるのに対して、霜は三(み)つの花と呼ばれる。

十一月は、霜降月のほかにも、霜月、神楽月、雪待月、風寒、神帰月とも呼ばれる。神楽とか神帰とか、十月が神無月であったためかこの月は神様も忙しそうだ。

この月は残照に映える紅葉が美しい月でもある。「もみじ」は「揉み出(い)ず」が変化したものだそうだ。夜の冷え込みが厳しく、日中との寒暖の差が大きければ大きいほど紅葉は美しく、鮮やかさを増す。恋染紅葉などという美しい言葉が生まれる日本語はいいものだ。

この月は、ほかにも木守柿、枯尾花(すすき)、美草、真草、木枯らし、凩、山茶花、忘れ音(季節を過ぎて鳴く虫の音)など美しい日本語が満載されている月だ。このような言葉がいつまでも生き続ける日本の環境でありたい。

*本情報誌の無断転用はお断りします。
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情報:農と環境と医療58号
編集?発行 博狗体育在线_狗博体育直播【官方授权网站】@学長室
発行日 2010年11月1日