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農医連携教育研究センター 研究ブランディング事業

59号

情報:農と環境と医療59号

2011/1/1
新しい年を迎えて:平成23(2011)年元旦
大和には 群山あれど とりよろふ 天の香具山 登り立ち 国見をすれば
国原は 煙立ち立つ 海原は 鴎立ち立つ
美し国そ 蜻蛉島 大和の国は -万葉集:舒明天皇-

新(あらた)しき 年の初めの 初春の
今日降る雪の いや頻(し)け 吉事(よごと) -万葉集:大伴家持-

新年には、万葉集にある舒明天皇と大伴家持の歌が頭を過ぎります。大伴家持の「吉事」の一つに、わが日本人が守り続けてきた心があります。この心と舒明天皇の「美し国」が、いかなる海外からの荒波にも屈せず、時空を超えて在り続けることを祈願します。もう一つは、皆様ひとりひとりに現実としての事象である吉事が、この年にも訪れるであろうことを祈願し新年の挨拶といたします。以下にこの年への思いを表現します。

博狗体育在线_狗博体育直播【官方授权网站】@では「農医連携」なる概念を新たな学域として発信しています。博狗体育在线_狗博体育直播【官方授权网站】@学長室通信「情報:農と環境と医療」はこれに関わる情報で、平成17(2005)年5月から提供し続けています。今回で59号に達しました。そこで、継続について書いてみます。

ヨーロッパに派遣された支倉常長は、伊達政宗に帰朝報告をします。「ヨーロッパには科学というものがあります」「科学とは何であるか」「科学とは継承であります」「あいわかった」。賢者同士の会話とは、かくあるものかと感心した記憶があります。継続?継承という視点からかくありたいと願い、内容は稚拙ながら、この「情報:農と環境と医療」も5年と半年の歳月が経過しました。

これまで推進してきた農医連携にかかわる教育、研究および普及などについて振り返り、今年も新たな思いで、国際?学際?地際?業際の視点から学域を拡充させていかなければなりません。そこで原点に立ち返って、世の聖賢の教えを今一度紐解いて、今後の農医連携のあり方を考えてみることにします。

ノーベル生理学?医学賞を受賞した著名なフランスのアレキシス?カレルは今から百年近くも前の1912年に、「土壌が人間生活全般の基礎なのであるから私たちが近代的農業経済学のやり方によって崩壊させてきた土壌に再び調和もたらす以外に、健康な世界がやってくる見込みはない。生き物はすべて土の肥沃度(地力)に応じて健康か不健康になる」と、語っています。なぜならすべての食物は直接あるいは間接的に土壌から生まれてくるからです。

人智学の創始者で有名なオーストリアのルドルフ?シュタイナーは、さらに百年以上も前にもっと強烈なことを次のように指摘しています。「不健康な土壌からとれた食物を食べているかぎり、魂は自らを肉体の牢獄から解放するためのスタミナを欠いたままだろう」

古代ギリシャの医者、ヒポクラテスは次のように語っています。「食べ物について知らない人が、どうして人の病気について理解できようか」と。他にも多くの賢者が人の命と健康の基は食物と水にあることを語っています。健全な土壌、水、大気、植生すなわち健全な環境資源があってはじめて、人は健康を維持することができます。

このような聖賢の言葉を知ると、次のようにまとめてみたくなります。「食べ物は水と土壌と大気の成分からできあがる。水と土壌と大気を知らない人がどうして病気について理解できようか」

北里柴三郎が若き日に書いた医道論の中にも、健康の基は環境であることがはっきり示されています。すなわち、「医道の基本は未然に防ぐことである。健康な環境のもとで生産され、安全な製造過程を経た食品を食し、健康を保ち病気に陥らないことが必要である」と。

これらの言葉は、医食同源、身土不二、四里四方に病なし、地産地消などの言葉に表現されてもいます。

急激に発展した20世紀後半の科学技術と、その発展に付随した成長の魔力に取り憑かれたわれわれは、この世紀を全力で駆け抜けました。この間、考えられるあらゆるものを豊かに造り、内省や反省もなくその便利さを享受してきました。その結果、さまざまな環境問題と健康問題が続出したのです。

その様態は、カドミウムやヒ素に代表される重金属などによる点源の問題から、窒素?リン?有機水銀などによる河川や湖沼などの面源の問題を経て、二酸化炭素やメタンなどの温室効果ガスの増加による温暖化やオゾン層破壊に代表される空間の問題へと広がりました。環境問題とそれに伴う健康問題は、点から面を経て空間にまで至ったのです。

一方、われわれが生活を豊かにするために造り出した化学物質の中には、ダイオキシンに代表されるようなヒトの生殖能力に関連し、次世代の人びとにまで影響を及ぼす可能性のある物質があることも知りました。今や環境問題とこれに付随した健康問題の様態は、時空を超えてしまったのです。

科学技術の発展に伴って、地殻圏、土壌圏、生物圏、水圏、大気圏など地球に存在するあらゆる圏の炭素、窒素、リン、硫黄、重金属などの元素の自然循環は、人間圏の誕生によって、大幅な変調を余儀なくされるようになりました。そのうえ、人類が作り出した各種の化学物質が地球のあらゆる圏を循環し始めました。

さらに、永遠に不変であると考えられていた土壌、水、大気、オゾン層、生物相が変動し始めたのです。土壌は汚染?侵食され、水は汚染?枯渇し始め、大気は温暖化の一途をたどり、オゾン層は破壊され、生物種は減少し続けています。これらのことが地球規模における主な環境問題です。そのうえ、これらの環境問題が人の健康にも大きな影響を与えているのが現在なのです。環境問題の解決に努力しない限り、人の健康問題はますます深刻になります。

食料を生産する生業(なりわい)は、環境問題と密接に関係しています。人類が生きるための生業により、地球環境が変動します。例えば、水田面積の拡大や家畜数の増大に伴って、水田やウシなど反すう動物からのメタン発生量が増大し、地球温暖化が促進されます。

一方、地球環境の変動は農林水産物の生産にも影響を及ぼします。例えば、温暖化が促進すれば九州や東北のコメの品質が悪化し、青森のリンゴの品質が低下し、親潮の流れの変動により三陸沖のマイワシが不漁になるといった影響が生じます。これらの相互関係、すなわち農業活動が環境に及ぼす影響と環境変動が農業生産に及ぼす影響は、地下水汚染から成層圏のオゾン層破壊まで及ぶのです。

このような環境変動は、人間の健康にも影響を及ぼします。例えば、土壌侵食?劣化?汚染、過剰農薬?肥料による農産物の品質や安全性の低下、温暖化によるマラリアやデング熱媒介蚊の生息域の拡大、猛暑日や熱波の増加などによる健康への影響などがその例です。

このように環境を通して農と健康は、密接につながっていることが分かります。このなかでも、人類が直面しているもっとも脅威とする事象は「鳥インフルエンザ」と「地球温暖化」と「土壌侵食?汚染?塩類化」でしょう。

これらの事象はそれぞれ特徴を持っています。はじめの「鳥インフルエンザ」の場合、H5N1型のウイルスが人間に感染し、人と人の間の感染が流行ったと仮定しましょう。世界中の交通が便利なこの時代においては、またたくまに世界中が鳥インフルエンザウイルスに席巻され、人類は短期間のうちに大打撃を受けるでしょう。そこでは、スペイン風邪の再来とも言えるパンデミック現象がおき、多くの人が死んでいきます。

つづいて「地球温暖化」の問題です。いまでは、地球温暖化に伴う地球の悲鳴が天空から大地から海原から聞こえてきます。気象庁も昨年の頻繁な猛暑日の出現に、地球温暖化の影響を認めています。地球には緩衝作用があるから、地球温暖化は徐々に進むという考えがあります。しかしそれとは違って、閾値(いきち:ある値を境に動作や意味などが変わる値)によって、地球の温度がある時点から急激に上昇するという考え方もあります。いずれにしろ、地球温暖化は間接および直接的に人間の健康にさまざまな影響を及ぼすのです。

「土壌侵食?汚染?塩類化」はどうでしょう。冒頭に記したカレル、シュタイナーおよびヒポクラテスの言葉は、人間の食料の基である土壌が、人間の健康にとってきわめて重要であることを語っています。地球規模の視点からその土壌を眺めると、いたるところで侵食、重金属汚染、塩類化が進んでいます。この問題は前二者のように急激にわれらに襲いかかる問題ではありません。しかし、真綿で首を絞められるように、じわりじわりと人類の健康を脅かしているのです。

今年も「情報:農と環境と医療」を通してこれらの課題について考察していく所存です。また今年は、この情報にこれまで掲載してきた「本の紹介」から選定した「本の紹介50選」を刊行して、農医連携の教則本にしたいと考えております。

「農医連携」という家は、一朝一夕に建つものではありません。すでに紹介したことがありますが、「道:Tao」の創始者老子の古代中国の聖典「道徳経」の第十一章の次の文章が、農医連携のあるべき姿と思い以下に紹介し、新春の抱負とします。

「三十本の輻(や)が車輪の中心に集まる。その何もない空間から車輪のはたらきが生まれる。粘土をこねて容器ができる。その何もない空間から容器のはたらきが生まれる。ドアや窓は部屋をつくるために作られる。この何もない空間から部屋のはたらきが生まれる。これ故に、一つ一つのものとして、これらは有益な材料となる。何もないものとして作られることによって、それらは有用になるもののもとになる」

これは、多様性を統一させるための根本的な原理を示している思想だと思います。「農医連携の科学」の立場からこの文章を解釈すれば、「農と環境と医療」あるいは「食と土壌と健康」の連携のはたらきを生むには、情報、教育、研究、普及などを一つ一つの有益な材料となし、新たな部屋を構築する必要があるということでしょう。多くの分野の協力なくしては、「農医連携の科学」は成立しないのです。

本年も、忌憚のないご意見やご感想をいただければ幸いです。

博狗体育在线_狗博体育直播【官方授权网站】@国際化推進方策検討委員会が発足
博狗体育在线_狗博体育直播【官方授权网站】@国際化推進方策検討委員会が、平成22年9月16日に設置された。これまでは、学部単位で国際化問題に対応してきたが、全学的な立場での検討委員会を立ち上げることになった。今後、農医連携に関わる国際化を推進する必要が生じるので、国際化推進方策検討委員会の趣旨、目的などを紹介する。

趣 旨

近年、大学の国際的な通用性、信頼性を問う動きが急速に高まっている。国境を越えた高等教育で先導的な位置に立つ北米、EU、豪州の大学は、国際的水準に沿った教育拠点をアジア各地に設けるなど国際展開に力を入れている。国際的な大学教育の質保証では、 UNESCO?OECD「国境を越えて推進される高等教育の質保証に関するガイドライン」2005、OECD「AHELO(高等教育における学習成果の評価)の実現可能性についての調査」2005などがあいついでまとめられ、我が国もこれへの積極的な参加を表明している。

生命科学分野の優れた研究者?高度専門職業人の育成を目的とする博狗体育在线_狗博体育直播【官方授权网站】@は、国内のみならず国際舞台で活躍する人材の輩出を視野にいれた教育?研究を展開しているが、そうした人材を育成するためには、「大学教育の国際的水準への引き上げ」を始め「留学生の積極的な派遣?受入れ」「国際共同研究の推進」「海外留学生の生活?住環境?経済支援」など教育?研究のすべての面で意識的な国際化の取組が欠かせない。

そのために、本学の国際化推進の基本方針、国際化推進拠点?推進体制の在り方、国際化教育の在り方、学術交流の活発化方策、海外留学生の受け入れ体制の整備方策などを明らかにする委員会を設置し、国際化推進を実行に移す具体的な提言を期待したい。これにより、国際的水準に沿った教育?研究を行う大学としての基盤整備を果たし、次代に向けた発展の礎としたい。

目 的

委員会は、本学の国際化推進の基本方針、国際化推進拠点?推進体制の在り方、国際化教育の在り方、学術交流の活発化方策、海外留学生の受け入れ体制の整備方策などを明らかにし、国際化推進の具体的な提言のとりまとめを目的とする。

協議事項

  1. 国際化推進の基本方針に関すること
  2. 国際化推進拠点?推進体制に関すること
  3. 国際化教育プログラムの基本方針に関すること
  4. 留学生の派遣?受け入れ体制の整備に関すること
  5. 研究者?研修生の派遣?受け入れ体制の整備に関すること
  6. 国際共同研究の推進方策に関すること
  7. 海外留学生の日本語教育及び生活環境?経済支援等の基盤整備に関すること
  8. その他国際化推進に関する重要事項

構 成

  1. 各学部?一般教育部から推薦された者 各1名
  2. 大学院医療系研究科、北里生命科学研究所(感染制御科学府を含む)から推薦された者各1名
  3. 博狗体育在线_狗博体育直播【官方授权网站】@病院、博狗体育在线_狗博体育直播【官方授权网站】@東病院、北里研究所病院、北里研究所メディカルセンター病院から推薦された者 各1名
  4. 本学教職員及び学識経験者の中から学長が指名した者 若干名

事務局

学長室(主管)?教学センター?入学センター?研究支援センター?就職センター

第8回博狗体育在线_狗博体育直播【官方授权网站】@農医連携シンポジウムの開催‐農医連携の現場:アメリカ?タイ?日本の例‐
開催日時:平成23年4月20日(水)10:00~17:30
開催場所:博狗体育在线_狗博体育直播【官方授权网站】@白金キャンパス 薬学部コンベンションホール

開催趣旨

21世紀の予防医学が掲げる課題には、リスク評価?管理?コミュニケーション、疾病の発生予防、健康の質の増進などがある。これらの医学分野における今日的な課題に対して、農学分野が積極的に取り組むことは、社会の健全な発展にとって極めて重要なことである。「農医連携」の科学の確立と教育と普及が期待されている。

20世紀の技術知が生んだ成果のなかには、われわれが生きていく21世紀の世界に、農医連携の教育や研究や普及が不可欠であることを示唆するものがいくつかある。病気の予防、健康の増進、食品の安全、環境を保全する農業、癒しの農などは、その代表的な事象であろう。そこでは、農と医の知の統合が必要とされている。医食同源とか身土不二などの言葉があるにもかかわらず、これまで農医連携の教育?研究?普及についてはそれほど強調されてこなかった。

医と農はかつて同根で、現在でもなお類似した道を歩いている。医学には代替医療が、農学には代替農業がある。前者は西洋医学を中心とした近代医学に対して、それを代替?補完する医療である。後者は化学肥料や農薬を中心とした集約的農業生産に対して、これを代替?補完する農法である。いずれも、生命の探求を基盤にした科学がなすわざであろう。21世紀に入り医学はヒトゲノム、農学はイネゲノムの塩基配列を解読する全作業を完了した。これも農と医がともに生命科学の探求を志しているからである。

このような視点から、博狗体育在线_狗博体育直播【官方授权网站】@では2005年から農医連携という新しい言葉を発信し、社会にさまざまな情報を提供してきた。なかでも博狗体育在线_狗博体育直播【官方授权网站】@農医連携シンポジウムでは、これまで「農?環境?医療の連携を求めて」「代替医療と代替農業の連携を求めて」「鳥インフルエンザ-農と環境と医療の視点から-」「農と環境と健康に及ぼすカドミウムとヒ素の影響」「地球温暖化-農と環境と健康に及ぼす影響評価とその対策?適応技術-」「食の安全と予防医学」「動物と人が共存する健康な社会」をテーマに、農医連携の必要性を強調してきた。さらに、農医連携の考え方を世界に発信するため、「Agriculture-Environment-Medicine」と題した英文の冊子を養賢堂から出版した。

学祖北里柴三郎の「医道論」には、医の基本は予防にあるという信念が掲げられ、学問の成果は広く国民のために活用されて初めて学問たりうることが強調されている。ここでは、叡智を実践に移すことの必要性が説かれている。このことを念頭において、今回は「農医連携の現場―アメリカ?タイ?日本の例―」と題したシンポジウムを開催し、農医連携の科学が現場でどのように普及されつつあるかを紹介させていただく。


The 8th Agromedicine Symposium in Kitasato University
Agromedicine: Examples from the USA, Thailand and Japan


The goals of preventive medicine in the 21st century include the management, assessment, and communication of risk, prevention of disease, and improvement of health. To address the expectations of society today, it is vital to investigate and establish common ground between these medical issues and agriculture issues.

The outcomes of 20th century scientific and technological advances in the 20th century suggest very strongly that research, education and extension in agromedicine will be absolutely vital to human society in the 21st century to prevent disease, promote health, ensure food safety, practice environmentally friendly agriculture, and benefit from the therapeutic value of agriculture in order to ensure human well-being. If the statement, "We are what we eat," is true, then we feel we have not paid enough attention to agromedical research, education and extension.

A major problem in modern society is disjunction in various forms. These disjunctions can be roughly divided into three categories: disjunction between knowledge from knowledge, between knowledge and action, between knowledge and feelings, and between past and present knowledge. An all-embracing, multidisciplinary approach is needed to overcome the disjunctions in agricultural and medical research and education.

With this goal in mind, Kitasato University held symposiums on agromedicine as follows: "Agriculture, Environment and Healthcare,""Alternative Medicine and Alternative Agriculture,""A look at Avian Influenza from the Perspective of Agriculture, Environment and Medicine,""Effect of Cadmium and Arsenic on Agriculture, the Environment and Health,""Global Warming: Assessing the Impacts on Agriculture, the Environment , and Human Health, and Techniques for Responding and Adapting," "Safety Food and Preventive Medicine" and "Health and the Coexistence of Humans with Animals."

During this 8th symposium we will introduce practical examples from the USA, Thailand and Japan. We hope the symposium will help identify productive directions for future research, extension and education in agromedicine.

講演プログラム

◆開催にあたって                           
柴 忠義<博狗体育在线_狗博体育直播【官方授权网站】@学長>            
Opening
Tadayoshi Shiba <President、Kitasato University>

◆農医連携の科学:世界の動向        
陽 捷行<博狗体育在线_狗博体育直播【官方授权网站】@>                    
Agromedicine: The Worldwide Trend
Katsu Minami <Kitasato University>

◆博狗体育在线_狗博体育直播【官方授权网站】@における農医連携教育     
向井孝夫?松下 治<博狗体育在线_狗博体育直播【官方授权网站】@>      
Education of Agromedicine in Kitasato University
Takao Mukai and Osamu Matsusita

◆親子二代で取り組んだ有機野菜栽培     
須賀利治 <農業生産法人 有限会社豆太郎 代表>
The Actions to Achieve Organic Farming through  Second Generation
Toshiharu Suga
<MAMETARO Co., Ltd. (agricultural production corporation)>

◆カリフォルニアにおける健康食品の生産と利用
トム?ウィリー<T&Dウィリーファームズ>
Production and Sale of Health Food in California
Tom Willey <T&D Willey Farms>

◆現代医療からみた農医連携の必要性
佐久間哲也<エムオーエー奥熱海クリニック院長>
The Necessity of Agromedicine from the View Point of Modern Medicine
Tetsuya Sakuma <MOA Okuatami Clinic>

◆タイにおけるハーブの医療活用
スラット?レクタイ<ダムナンサドアック病院長>
The Medical Treatment of Herb in Thailand
Surat Lekutai <Damnoen Saduak Hospital Ratchaburi>

◆タイ国衛生省における農医連携の取り組み
プラポッチ?ペトラカッド
<タイ国衛生省伝統?代替医療局顧問>
Agromedicine Plan in Ministry of Public Health, Thailand
 Prapoj Petrakard
<Senior Medical Expert,
Department Development of Thai Traditional and Alternative Medicine>

◆カリフォルニアにおける健康医療の実践
デビッド?ワン
<カリフォルニア健康統合センター長>
The Practice of Health Care in California
David Wong
<California Health Integration Center>

◆総合討論
佐久間哲也?陽 捷行
Discussion
T. Sakuma and K. Minami

Agromedicine を訪ねる(18):Journal of Agromedicine
以下のことは、「情報:農と環境と医療10号」ですでに書いた。「農医連携」という言葉は生命科学全般を指向する博狗体育在线_狗博体育直播【官方授权网站】@で新しく使用しはじめたものだ。それに相当する英語に、例えば Agromedicine がある。1988年に設立された The North American Agromedicine Consortium(NAAC)は、Journal of Agromedecine という雑誌(http://www.tandf.co.uk/journals/WAGR)と博狗体育在线_狗博体育直播【官方授权网站】@レターを刊行している。

この雑誌の話題には、農業者の保健と安全性、人獣共通感染症と緊急病気、食料の安全性、生教育、公衆衛生などが含まれる。Journal of Agromedecineの目次は、これまでもこの情報創刊号から紹介している。今回は、2010年の第15巻の1~4号の目次を紹介する。

第15巻1号
  • Editor's Comments: Gender Health and Safety Issues May Increase in Importance as More Women Work in Agriculture: Steven R. Kirkhorn
  • Journal of Agromedicine "Leader in the Field" 2010: Cheryl Tevis and Scott Heiberger
  • Status of Women in Agriculture According to the 2007 Census of Agriculture: Ginger D. Fenton, Kathryn J. Brasier and George F. Henning
  • Occupational Health Characteristics of Women on Dairy Farms in Pennsylvania: Ginger D. Fenton, Kathryn J. Brasier, George F. Henning, Rama B. Radhakrishna and Bhushan M. Jayarao
  • Occupational Health Behaviors and Habits of Women on Dairy Farms in Pennsylvania: Ginger D. Fenton, Kathryn J. Brasier, George F. Henning, Rama B. Radhakrishna and Bhushan M. Jayarao
  • Community Exposure Following a Drip-Application of Chloropicrin: Terrell Barry, Michel Oriel, MaryLou Verder-Carlos, Louise Mehler, Susan Edmiston and Michael O'Malley
  • Farmers and Retirement: A Longitudinal Cohort Study: Anders Thelin, Sara Holmberg
  • Farming with a Disability: Literature from a Canadian Perspective: Margaret Friesen, Olga Krassikouva-Enns, Laurie Ringaert and Harpa Isfeld
  • Who Pays for Agricultural Injury Care?: Julia Costich
  • International Nursing Student Exchange: Rural and Remote Clinical Experiences in Australia: Arlene Kent-Wilkinson, Linda Starr, Sandra Dumanski, Jennifer Fleck, Annette LeFebvre and Amanda Child
  • The 2008 Saskatoon Declaration for the Health, Safety, and Living Conditions of Migrant Workers in Agriculture Proposed at the Sixth International Symposium: Public Health and the Agricultural-Rural Ecosystem, Saskatoon, Canada, October 22,2008 : Peter Lundqvist and Lesley Day

第15巻2号
  • Editor's Comments: Health, Safety and the Farm Community; Steven R. Kirkhorn
  • The Agrarian Imperative: Michael R. Rosmann
  • Is There an Agrarian Imperative? Henry P. Cole
  • Planting the Seed: The 2009 Midwest Rural Agricultural Safety and Health Forum (MRASH); Kelley J. Donham
  • Towards More Effective Interventions to Improve Health: The Importance of the Community as an Empowered Partner: S. Leonard Syme
  • Farm Equipment-Motor Vehicle Crash Prevention Conference (FEMVCPC): Robert E. Petrea and Murray D. Madsen
  • Involving Farmers in Preventing Work-Related Injuries and Illnesses: The Niosh Research-to-Practice Initiative: Janice Huy
  • An Overview of Livestock-Associated MRSA in Agriculture: Abby L. Harper; Dwight D. Ferguson, Kerry R. Leedom Larson, Blake M. Hanson, Michael J. Male, Kelley J Donham and Tara C. Smith
  • Sorption of Agrochemical Model Compounds by Sorbent Materials Containing β-cyclo dextrin: Lee D. Wilson, Mohamed H. Mohamed, Rui Guo, Dawn Y. Pratt, Jae Hyuck Kwon and Sarker T. Mahmud
  • Incorporating Occupational Health Interventions in a Community-Based Participatory Preventive Health Program for Farm Families; A Qualitative Study: Lisa F. Schiller, Kelley Donham, Thomas Anderson, Dawn M. Dingledein and Rhonda R. Strebel
  • Maternal Pesticide Use and Birth Weight in the Agricultural Health Study: Sheela Sathyanarayana, Olga Basso, Catherine J. Karr, Paula Lozano, Michael Alavanja, Dale P. Sandler and Jane A. Hoppin
  • Prevalence of Roll-Over Protective Structure (ROPS)-Equipped Tractors on Hispanic- Operated Farms in the United States: John R. Myers
  • ObstructiveEditor's Comments
  • Excess Longitudinal Decline in Lung Function in Grain Farmers: Ambikaipakan Senthilselvan, Liliane Chenard, Vaneeta Grover, Shelley P. Kirychuk, Louise Hagel, Kendra Ulmer, Thomas S. Hurst and James A. Dosman
  • Community Support Systems for Farmers Who Live With Disability: Margaret N. Friesen, Olga Krassikouva-Enns, Laurie Ringaert and Harpa Isfeld

第15巻3号
  • Editor's Comments: Job Well Done; Journal Proud to Disseminate Results of Groundbreaking Agricultural Safety and Health Conference; Steven R. Kirkhorn
  • A Long Run for a High Jump: Dan M. Hair
  • Bridging Gaps in Agricultural Safety and Health: George A. Conway
  • The Global View: Issues Affecting US Production Agriculture: Peter Goldsmith
  • Agricultural Health and Safety: Incorporating the Worker Perspective; Amy K. Liebman and Wilson Augustave
  • Preventing Heat-Related Illness Among Agricultural Workers: Larry L. Jackson and Howard R. Rosenberg
  • Respiratory Issues in Beef and Pork Production: Recommendations From an Expert Panel: Susanna Von Essen, Gordon Moore, Shawn Gibbs and Kerry Leedom Larson
  • Livestock Handling Minimizing Worker Injuries: Ricky L. Langley and W.E. Morga Morrow
  • Overcoming Language and Literacy Barriers in Safety and Health Training of Agricultural Workers: Thomas A. Arcury, Jorge M. Estrada and Sara A. Quandt
  • Tractors and Rollover Protection in the United States: Dennis J. Murphy, John Myers, E. A. McKenzie Jr., Richard Cavaletto, John May and Julie Sorensen
  • Pesticides and Other Chemicals: Minimizing Worker Exposures; Matthew Keifer, Frank Gasperini and Mark Robson
  • Preharvest Food Safety: What Do the Past and the Present Tell Us About the Future?: David R. Smith, Kryijztoff Novotnaj and Glenn Smith
  • Ergonomic Risks and Musculoskeletal Disorders in Production Agriculture: Recommendations for Effective Research to Practice; Steven R. Kirkhorn, Giulia Earle-Richardson and R. J. Banks
  • Agricultural Safety Training: California Style: Barbara C. Lee, Amy Wolfe and James M. Meyers
  • Sleep Apnea Indicators and Injury in Older Farmers: Karen Heaton, Andres Azuero and Deborah Reed

第15巻4号
  • Editor's Comments: Aquaculture and Fisheries Pose Unique Occupational Hazards; Steven R. Kirkhorn
  • Preface: Matthew W. Nonnenmann; Jeffrey L. Levin
  • A Persistent High Human Cost of Protein: Commercial Fishing and Aquaculture: George A. Conway
  • An Interview With Vietnamese Fishermen of Louisiana in the Wake of the Oil Spill: Jeffrey L. Levin; Karen Gilmore; Ann Carruth; Matthew W. Nonnenmann; William Evert; Denae King
  • Occupational Fatalities in the United States Commercial Fishing Industry,2000?2009: Jennifer M. Lincoln and Devin L. Lucas
  • The Development and Efficacy of Safety Training for Commercial Fishermen: Jerry Dzugan MsEd
  • Utilizing United States Coast Guard Data to Calculate Incidence Rates and Identify Risk Factors for Occupational Fishing Injuries in New Jersey: Emily Ruth Day,Daniel K. Lefkowitz, Elizabeth G. Marshall and Mary Hovinga
  • Factors Influencing Safety Among a Group of Commercial Fishermen Along the Texas Gulf Coast: Jeffrey L. Levin, Karen Gilmore, Sara Shepherd, Amanda Wickman, Ann Carruth, J. Torey Nalbone, Gilbert Gallardo and Matthew W. Nonnenmann
  • Cultural Influences on Safety and Health Education Among Vietnamese Fishermen: Ann K. Carruth, Jeffrey L. Levin, Karen Gilmore, Thu Bui, Gilbert Gallardo, William Evert and Lorinda Sealey
  • Risk Factors for Musculoskeletal Symptoms Among Crawfish Farmers in Louisiana ̄ A Pilot Study: Matthew W. Nonnenmann, Aika Hussain, Mark Shirley, Sara Shepherd Karen Gilmore and Jeffrey L. Levin
  • Assessment of Physical Risk Factors for the Shoulder Using the Posture, Activity Tools, and Handling (PATH) Method in Small-Scale Commercial Crab Pot Fishing: Kristen L. Kucera; Hester J. Lipscomb
  • Risk Analysis of Tractor Overturns on Catfish Farms: Walter B. Stephens, Gregor A. Ibendahl, Melvin L. Myers and Henry P. Cole
  • Review of Occupational Hazards Associated With Aquaculture: Melvin L. Myers

資料の紹介 14:獣医学教育課程への保全医学の取り込み‐タフツ大学の例‐
新しい雑誌の EcoHealth 1, 43-49 (2004) に G.E. Kaufman らによる「Bringing Conservation Medicine into the Veterinary Curriculum: The Tufts Example」と題する論文が掲載されている。その抄録を紹介する。これは博狗体育在线_狗博体育直播【官方授权网站】@獣医学部高井伸二教授から提供されたものである。

要 約

タフツ大学獣医学部の保全医学センター(TuftsCCM)は、人間、動物、環境衛生などの相互作用を研究する新しい科学として、保全医学(conservation medicine)注)を獣医学教育課程に取り込んでいる。

センターの主な目的のひとつは、この新しい科学を保全医療と生態系の健全性(ecosystem health principles)という形で獣医学カリキュラムに組み込み、その成果を追跡することにある。動物界における疾病への環境影響は、いつも獣医学に存在しているが、十分に調査されているとはいえない。この視点を強化する多くの機会が、これまでの獣医学カリキュラムにはある。そしてそれは、疾病と生態系健全性における動物の役割を理解するために、奥行きと新しい意味をもたらす。

このタフツプログラムは、獣医学専攻の一般学生と、コア授業、選択科目、研究科目、課外活動セミナー、ワークショップなどを通じて保全医学という分野に興味を待った学生の両方に伝わるように考案されている。コアカリキュラムは、すべての獣医学生に獣医学における生態系の全体性の視点を経験させる。学生の選んだ専門にかかわらず、このアプローチは職業的生活に与える影響を彼らに理解させる一助となる。保全医学に関わり合った学生は、専門コースから広範囲な経験、実地調査の機会、活発な指導などの利点を受ける。将来は、学士教育科目をさらに開発し、他の教育機関と学際的な連携を続け、獣医学教育への健康と疾病のこの新しいパラダイムのカリキュラムの統合を続けることが必要である。

注)ecological medicine『生態医学』、environmental medicine『環境医学』、medicalgeology『地理医学』などの概念を定義するための手助けにもなるかもしれない。

資料の紹介 15:「情報:農と環境と医療」に掲載した温暖化現象
「情報:農と環境と医療 51号」に「地球温暖化:環境と健康と農林業への影響」と題した項目の冒頭に次のことを書いた。

「いまや、地球環境問題に関しては様々な情報がある。しかし多くの場合、分野ごとの情報に止まりやすい。農医連携の視点から整理した情報は少ない。また、温暖化が農業生産や健康、さらには環境そのものにどのように関連しているか、といった統合的な情報を知ることは容易でない。そこで、現在多くの人びとの関心が深い地球温暖化問題について、不完全ではあるが農医連携の視点でこの項をまとめて、諸氏のご批判を浴びたい」と。

今回は、これまで「情報:農と環境と医療」に掲載してきた温暖化に関する項目を活用に資すべく58号から1号まで整理した。温暖化の問題がますます深刻化する現在、読者の参考に供したい。


資料の紹介 16:2010年度 博狗体育在线_狗博体育直播【官方授权网站】@医学部北海道八雲牧場実習報告書
博狗体育在线_狗博体育直播【官方授权网站】@医学部から「2001年度医学部北海道八雲牧場実習報告書」が発刊された。実習の歩み、報告、総括、実習スケジュール、参加者名簿、意見交換会、学生レポート、参考資料などが記載された120ページに及ぶ冊子である。

医学部では夏期休暇を利用し「医学原論演習」の一環として、獣医学部附属フィールド?サイエンス?センター(FSC)八雲牧場で「八雲牧場訪問及び講義」を実施している。この実習は、農医連携教育の一部でもあり、平成19年から始まり今年で4回目を迎えた。内容は、牧場見学、講義、演習(牛追い?ベーコン作り?投薬?鼻紋取り)、懇親会など多岐に及ぶ。今回は、これまでの数を遙かに超える30名の学生が参加した。

この報告書のなかに記載されている意見交換会、参加学生全員のレポートおよび参考資料を眺めると、教職員の実施のための努力と、実習における学生の新鮮な感激が読み取れ、大変興味深い。この報告書から、農医連携の現場体験の必要性と重要性が理解できる。

なお、今回の実習の内容は、広報誌「雷」4号、「キタサトトピックス」、「北里研究所報 28号」、「博狗体育在线_狗博体育直播【官方授权网站】@医学部ニューズNo.316」などに掲載されている。「博狗体育在线_狗博体育直播【官方授权网站】@医学部ニューズ No.316」には、学生指導に当たっている齋藤有紀子准教授の話と、4人の学生の感想文が掲載されている。

第1回から第3回までの実習内容は、日程、参加者、学生や職員の感想などを含めて以下のホームページで見ることができる。


本の紹介 59:雑食動物のジレンマ ─ある4つの食事の自然史‐、上?下、マイケル?ポーラン著、ラッセル秀子訳、東洋経済新報社(2009)
The Omnivore's Dilemma:A Natural History of Four Meals, 2006, Michael Pollan(原題)は、執筆者の友人であるアイオワ州立大学名誉教授夫妻に紹介された。夫妻は大学を退職後、世界旅行を楽しみながら、健康に留意しつづけ、今では自宅で豆腐まで作るという離れ業をやっている。この秋、筆者の懇切丁寧な指導(?)のもとに自宅の畑に立派なカボチャができたと、すなおに喜んでいる。なんのことはない。アイオワはかつてプレイリーの地で、地力(地味)が豊かなのである。執筆者は若いころ土壌学を学び、アイオワにも住んだことがあるからこのことをよく知っている。なお、ご婦人は社会科学者、ご主人は環境科学者だ。

本書は全米批評家協会賞最終選考作品だ。そのためもあり全米で話題が沸騰した。料理界のアカデミー賞とも言われるジェームス?ビアード賞最優秀賞(食関連著作部門)、カリフォルニア?ブック賞(ノンフィクション部門)、北カリフォルニア?ブック賞(ノンフィクション部門)等の数々の賞を受賞した。

2006年の「ニューヨーク?タイムズ」のベスト10、2006年の「ワシントン?ポスト」のトップベスト10、アマゾンのベスト2006に選ばれるなど、発売されてから各種のメディアで話題になっている。現在もベストセラーリストの上位にランクインしているという。

翻訳はラッセル秀子氏で、訳書は上巻(pp.302)と下巻(pp.302)に分かれ、下巻には参考文献(266-287)と索引(288-302)があるので、文献を調べたり専門用語から内容を知りたいときには便利だ。

原題のomnivoreとは、雑食動物のことを意味する。この言葉には雑食動物という意味のほかにも、幅広い分野に好奇心を持ち、あるものは何でも読み、勉強し、概して吸収する者、という意味も含まれている。

著者が言う「雑食動物のジレンマ」には、次の内容が含まれる。人間は数多くの食べ物から栄養を摂取できる雑食動物だからこそ、何を食べようかと脳を進化させることができた。火や道具を使いこなせるようになってからは、人間が食べられる食品は飛躍的に増大した。他の動物が人間に食べられないように進化するスピードよりも、人間が火と道具を使いこなす技術の方が、速やかに発展していった。そのため人間は世界中に繁殖して、地球における動物の王者として君臨した。

このように、人間が進化の歴史を勝ち抜いてきた一因に雑食性があげられる。さまざまな植物や動物の肉をはじめとして、微生物から昆虫までほとんどすべての生命を食べられる人間は、生息域を拡げ続けた。しかし何でも食べられるがゆえに、どのような環境でも生きてこられ、コアラのようにユーカリの葉しかたべない動物とは違い、自らの健康や環境に害を及ぼすものでさえ食べることができた。そのために、食物に対するコストが押し下げ続けられた。

その結果、われわれ人類は資本主義を選択し、この論理は食料生産そのものを「工業的農業」や「工業的畜産」にしてしまった。この現象は当然のことながら、生態系や地球環境にとっては不自然きわまりないものになった。

われわれがいつも口にしているものは、一体何なのか?それは、どこからどうやって食卓まで届いているのか?われわれが食べるべきなのは、簡単で便利な冷凍?加工食品なのか?オーガニックフードなのか?その答えを見つけるために著者は、4つの食事、ファストフード、オーガニックフード、フードシェッドフード、スローフードの食物連鎖を追いかける旅に出る。

トウモロコシ畑、牛の肥育場、加工食品工場などのリポートからは、トウモロコシ中心の食物連鎖が幅をきかせる米国の異様な食の実態が明らかになる。現状と実際の現場を対比するために狩猟採集をも体験する。現状と現場を比較することによって、われわれは何をなすべきかを示唆する。これらの経験から、われわれが正体を知らないまま口にしているものが何かを突きとめる。

現場の旅から、健康食ブームにもかかわらず増え続ける肥満や糖尿病、季節に関係なく食材が並ぶスーパーマーケット、工業化する有機農業、便利で簡単な食品の開発、農業収入では生活できない農家、経済効率を求めた大規模農場、単一栽培などの問題点や弊害があぶりだされる。

これらはアメリカの食と農業のことだが、読み進めるうちに日本と何も変わらないことに気付く。わが国でも大量の食品が輸入され、ファストフードや加工食品が巷に溢れている。本書を読みながら単身赴任の筆者は、夕酒とともに夕食に何を食べればいいのか、まこと真剣に考えることになる。

植物連鎖の旅を終えた著者が、最後にたどり着いた「完璧な食事」とは?このことを語るために目次は次のように構成されている。

序章 摂食障害に病むアメリカ

第1部 トウモロコシ‐工業の食物連鎖
植物‐アメリカを牛耳るトウモロコシ/農場/カントリーエレベータ/肥育場‐トウモロコシで肉をつくる/加工工場‐トウモロコシで複雑な食品をつくる/消費者‐肥満共和国/食事‐ファストフード/

第2部 牧草‐田園の食物連鎖
人とはみな草のごとく/ビッグ?オーガニック/草‐牧草地を見る13の方法/動物‐複雑性の実践/自家処理‐ガラス張りの処理場/市場‐バーコードのない世界から/食事‐牧草育ち/

第3部 森林‐私の食物連鎖
狩猟採集者/雑食動物のジレンマ/動物を食べることの倫理/狩猟‐肉/採集‐キノコ/完璧な食事/謝辞?訳者

あとがき?参考文献?索引

ここでは、「序章 摂取障害に病むアメリカ」について紹介しながら、合間に執筆者の意見を入れる。最後の「第3部 森林」の「完璧な食事」は読者の楽しみのためにとっておくことにする。あしからず

「序章 摂取障害に病むアメリカ」

本書は「夕食は何を食べよう?」という、一見シンプルな問いへの複雑で長い答えだ。なぜ回答がこのように厄介な作業になるかを探る道でもある。発端はアメリカが持っていた先祖伝来の食の知恵が、混乱と不安にすり変わったときに始まる。それは2002年の秋、大昔からの主食であるパンが忽然と姿を消したときだ。

全米が炭水化物恐怖症にとでもいうべき集団発作に襲われたのだ。そこにはロバート?アトキスン博士の影響がある。パンやパスタさえ食べなければ、もっと肉を食べても痩せられるという彼の情報だ。わたしたちを肥満たらしめているのは、脂肪ではなく肥満予防のために食べ続けている炭水化物なのだという。もっとも健康的で、物議を醸すはずのない食品に汚名がきせられたのだ。著者が本書を出版しようと思い立った出発点はここにある。雑食動物のジレンマがこの影響の背後に潜んでいる。

比較的歴史の浅いさまざまな国からの移民で成り立つアメリカには、それぞれの移民に特有な食文化はあるが、国全体を導くようなしっかりした食の伝統はない(今でも自信を持って言えるが、日本には深くて長い食文化がある)。上述したアトキンス博士の影響は、アメリカ人に雑食動物の再来をもたらしたのだ。

何を食べるか?という質問に答える最適な方法は、原点に立ち返り、われわれを支える食物連鎖を大地から食卓まで追跡することにあると著者は考える。このため、動物と植物の種間のやり取りを知るために、著者は食べ物の原点の旅に出たのだ。

著者は強調する。「人間は、地球上に棲むほかの生物と同じように、食物連鎖の一部である。その鎖‐あるいは網の目‐における人間の位置は、私たちがどのような生き物なのかを大きく決定する。それが本書の前提だ。人間の雑食性は体(私たちは肉を‐みちぎれば種もすりつぶす雑食性の歯と顎を持つ)と心という、人間の本質を形づくるのに大きくかかわっている。????? 私たちは、食べ物でつくられているだけでなく、どう食べるかによってもつくられているのだ」。

第1部では、工業化したトウモロコシ栽培?収穫?利用を追う。ここでは、アイオワ州の畑で育ったトウモロコシが長くて奇妙な旅をへたのち、カリフォルニアの高速道路を走る車の中で食べるファストフードになるまでの道のりを辿る。

第2部は、有機、オーガニック、地産地消、バイオロジカル農法、スーパーオーガニックなどの視点から、田園的ともよばれる脱工業的な食物連鎖を追跡する。現代では代替農業と呼ばれるさまざまな農業を食物連鎖の中で辿る。

第3部は、著者が狩猟?採集?栽培した食材だけで調理した食事ができるまでの、現代版石器人的な食物連鎖を辿る。大昔の食生活に身を置くことで、現代の食生活を見直してみようという哲学的な経験である。

以上の3点の道のりから、次の結論に至る。つまり、現在われわれが抱えている健康や栄養面の問題の原因は農場にある。動物は想像をはるかに超えた飼料を食べさせられる。これを人間自身も食べる。そのことにより、われわれは自らの健康だけでなく自然界の健康まで危険にさらしているのだ。

食は自然界と最も奥深い形でかかわっているのだ。著者はいう。「食べるという日々の行為は、自然を文化に、そして自然界の一部を私たちの肉体と魂に変換することを意味する。農業は、人間が行うほかの活動が到底及ばないようなレベルで、自然界の景観と動植物相の構成を作り変えてしまった。食べるという行為は、植物や動物、キノコ類など、何十もの種との関係そのものである。それら動植物と人間は、お互いの運命が複雑に絡みあうまでともに進化してきたのだ」。

歴史上の聖賢は、このことをすでに知っていた。オーストリア帝国出身の神秘思想家、人智学の創始者で哲学博士のルドルフ?シュタイナー(1861-1925)は言っている。「不健康な土壌からとれた食物をたべているかぎり、魂は自らを肉体の牢獄から解放するためのスタミナを欠いたままだろう」。

ノーベル生理学?医学賞を受賞したアレキシス?カレル(1873-1944)は、多くのことを語っている。「地球は病んでいる‐それもほとんど回復できないほどに‐。土壌が人間生活全般の基礎なのであるから、私たちが近代的農業経済学のやり方によって崩壊させてきた土壌に再び調和をもたらす以外に、健康な世界がやってくる見込みはない。生き物はすべて土壌の肥沃度(地力)に応じて健康か不健康になる」。

カレルはさらに言う。「文明が進歩すればするほど、文明は自然食から遠ざかる」。今日われわれが毎日飲む水、常時呼吸する大気、種子を植え付ける土壌、毎日食べる食品のいずれにも何らかの合成化学物質が共存している。さらに食品には、着色、漂白、加熱、保存加工のために合成化学物質が添加されている。

最後に、ギリシャの医学者ヒポクラテスの言葉を引用しよう。「食べ物について知らない人がどうして人の病気について理解できよう」。これは、「土について知らない人がどうして健康について理解できよう」と言い換えられるのではないだろうか。

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博狗体育在线_狗博体育直播【官方授权网站】@学長通信
情報:農と環境と医療59号
編集?発行 博狗体育在线_狗博体育直播【官方授权网站】@学長室
発行日 2011年1月1日