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農医連携教育研究センター 研究ブランディング事業

29号

情報:農と環境と医療29号

2007/8/1
第4回博狗体育在线_狗博体育直播【官方授权网站】@農医連携シンポジウムの開催 農と環境と健康に及ぼすカドミウムとヒ素の影響-現代社会における食?環境?健康-
開催日時:平成19年10月12日(金)13:00~17:50
開催場所:博狗体育在线_狗博体育直播【官方授权网站】@薬学部コンベンションホール

開催趣旨

人類は、文明の進歩とともに地殻から大量の金属を採掘し、地上にそれを拡散させた。とりわけ産業革命により、重金属の必要性は空前の勢いで高まった。その結果、採掘する重金属の種類と量は増大し、必然的に土壌や海洋や大気へ拡散した。このことによって、重金属の生物地球化学的な循環が乱されることになる。

重金属の生物地球化学的な循環が乱されるとは、何を意味するのか。これまで順調に循環していた重金属が、大気に土壌に海洋に過剰な負荷を掛けることになる。土壌に入った過剰な重金属は作物に吸収される。海洋に拡散した重金属はそこに生息する魚介類に摂取される。

その結果、それらを食する人間や動物は、通常より過剰な量の重金属を体内に蓄積する。さらに、その重金属は次の世代の人間や動物に引き継がれることにもなる。食物連鎖による蓄積、世代を超えた人間への重金属の集積である。重金属汚染は、時間と空間を越えた問題なのである。

局在的にではあるが、われわれは不幸にもこのことをすでに経験している。カドミウムによるイタイイタイ病や水銀による水俣病がそれである。将来、この現象は潜在的ではあるが地球上のいたるところで起こる恐れがある。

すでに、FAO(国連食糧農業機関)およびWHO(世界保健機構)により設置されたコーデックス委員会は、食品の国際規格を作成し、食品中のカドミウムなどの規制を法律化している。

この地球にあまねく生存する生命にとって、とくに動物や人間が消費する食物にとって、適切な重金属濃度で生体を維持することは、きわめて重要なのである。地殻から自然界に拡散された重金属は、最終的には土壌?海洋?河川から植物?魚介類?動物を通して人間の体内に蓄積される。このような重金属の問題を解決するためには、農と環境と医療の研究を連携させることが必要なのである。

今回はカドミウムとヒ素を中心に、それらの挙動を生物地球科学、土壌、植物、臨床環境医学および法律の視点から追い、農医連携の科学の一助としたい。

講演プログラム
13:00~13:05開催にあたって博狗体育在线_狗博体育直播【官方授权网站】@学長
柴 忠義
13:05~13:20重金属の生物地球化学的循環-カドミウムとヒ素を中心に-博狗体育在线_狗博体育直播【官方授权网站】@教授
陽 捷行
13:20~14:00農耕地土壌の重金属汚染リスクとその対策農業環境技術研究所土壌環境研究領域長
小野 信一
14:00~14:40植物による重金属集積と人への摂取東京大学教授
米山 忠克
14:40~15:10コーデックスの状況と我が国の取り組み農林水産省消費?安全局農産安全管理課
瀬川 雅裕
15:20~16:00カドミウム摂取の生体影響評価
-耐用摂取量推定の試み-
博狗体育在线_狗博体育直播【官方授权网站】@教授
太田 久吉
16:00~16:40コーデックス基準策定と食の安心?安全にまつわる戦い-カドミウム、クロロプロパノール、ホルムアミドを例として-自治医科大学教授
香山 不二雄
16:40~17:20臨床環境医学から見た重金属問題博狗体育在线_狗博体育直播【官方授权网站】@教授
坂部 貢
17:20~17:50総合討論香山 不二雄?陽 捷行
連絡先:
〒228-8555 神奈川県相模原市北里1丁目15番1号 博狗体育在线_狗博体育直播【官方授权网站】@学長室
古矢鉄矢?田中悦子(noui@kitasato-u.ac.jp)
Tel:042-778-9765 Fax:042-778-9761

参考:これまでに行われたシンポジウムとそれに関わる出版物
  • 第1回 博狗体育在线_狗博体育直播【官方授权网站】@農医連携シンポジウム
    農?環境?医療の連携を求めて(博狗体育在线_狗博体育直播【官方授权网站】@農医連携叢書 第1号、養賢堂、2006)
  • 第2回 博狗体育在线_狗博体育直播【官方授权网站】@農医連携シンポジウム
    代替医療と代替農業の連携を求めて(博狗体育在线_狗博体育直播【官方授权网站】@農医連携叢書 第2号、養賢堂、2007)
  • 第3回 博狗体育在线_狗博体育直播【官方授权网站】@農医連携シンポジウム
    鳥インフルエンザ 農と環境と医療の視点から(博狗体育在线_狗博体育直播【官方授权网站】@農医連携叢書 第3号、養賢堂、2007予定)
わが国を取りまく環境変動の今:(3)カエルツボカビ
「情報:農と環境と医療 17号」に「わが国を取りまく環境変動の今(1)」と題して、温暖化による永久凍土の後退、大型クラゲの大発生、東京の熱帯夜、尾瀬のミズバショウ、マイワシの漁獲量激減などの現状を紹介した。

続いて、「情報:農と環境と医療 19号」に「わが国を取りまく環境変動の今(2)」と題して、耐性菌による野生生物汚染、サンゴの白化現象、アルゼンチンアリ、など大地と海原と天空からの悲鳴を紹介した。今回は、「カエルツボカビ」について紹介する。

そのまえに、「情報:農と環境と医療 17号」の「わが国を取りまく環境変動の今(1)」の「はじめに」を再掲して、このシリーズの思いを再確認する。

はじめに
大地から海原から、そして天空から痛切な悲鳴が聞こえる。大地の土壌浸食、砂漠化、重金属汚染、地下水汚染、熱帯林の伐採、鳥インフルエンザなど、海原の栄養塩流入、エルニーニョ現象、赤潮、青潮、原油汚染、浮遊物汚染、海面上昇など、さらに天空の温暖化、オゾン層破壊、酸性雨、大気汚染など、悲鳴の原因は枚挙に暇がない。大地と海原と天空は、まちがいなく病んでいる。

これらの環境の変動に対して、多くの国や組織や個人が、政治や経済や産業や医や教育や倫理や哲学や、そして芸術までが、なべて躍起になって現象の解明や対策に苦慮している。人の生命を最優先にし、環境と経済が調和できる視座を求めて。

近年、健康と農に対する関心の高まりには著しいものがある。その背景には時を超えた普遍的な理由とともに、時代に特有な事情があるのではないか。環境の劇的な変動と、化学合成物質を含め多くの非自然物質に取り囲まれた環境に、またテレヴィジョンやコンピュータというバーチャル(仮想的)な世界に、大地や天空と同じようにヒトの体も悲鳴をあげているのではないか。それも潜在意識のなかで。

そのような視点で、わが国を取りまく環境の変動を整理してみる。わが陸域と海域に見られる具体的な環境変動は、ひいては農の生業とヒトの健康に大きく関係していると思考するからである。

内容は多岐に渡る。例えば、永久凍土の後退、東京の熱帯夜、マイワシの不漁、稲作の被害、西日本の海面上昇、サンゴの被害、冬越しするシカの増加、高山植物の消失、リンゴの減収、水田のメタン発生の増加、コメの収量の変動、漁獲量の減少、巨大クラゲの発生増加、ミズバショウの富栄養化、湿原の消失、摩周湖の透明度低下、ヤンバルクイナ絶滅の危機、砂丘喪失?海岸侵食、アオコの大発生、都市植物の暖冬異変、黒潮の大蛇行、植物プランクトン異変、鳥インフルエンザの驚異、台風による集中豪雨の増加、魚体のDDT集積、赤潮の増加、漂流ゴミの増加、増え続けるゴミなど。これらの中のいくつかを紹介する。

日本におけるカエルのツボカビ症
世界各地でカエルなどの両生類に壊滅的な打撃を与えてきたカエルのツボカビ症が、日本で発見されたのは、2006年12月のことである。麻布大学の宇根有美准教授らが、東京都内で飼育されていた外来種のカエルで初めて見つけた。これは、個人がペットとして飼っていた中南米産のカエルであった。11種35匹中の14匹が次々に死んでいった。

その後、調査が始まった。今年の5月末までに、全国のペット点などの外来種174匹(32種)を調べた結果、31%の61匹が感染し、このうちツノカエルなど45匹(9種)が発症していた。大半は中南米産で、販売され飼育されていた地域は広く、北海道、東京都、埼玉、静岡、茨城、兵庫の各県に及んでいた。

さらに6月には、野生の両生類132匹(23種)が調査された。その結果、神奈川県内のウシガエル4匹が感染していることが確認された。さらに、業者が千葉県と埼玉県で捕獲?飼育していた在来種のアマガエル、ヒキガエル、オキナワアオガエルなど38匹も感染していたことが判明した。いずれも発症はしていない。

アジアで確認されたのは、これが初めてのことである。カエルツボカビはヒトなどに感染しないが、野外に広がると根絶できず、生態系に深刻な影響を及ぼす恐れがある。日本野生動物医学会、日本爬虫(はちゅう)両棲(りょうせい)類学会、世界自然保護基金(WWF)ジャパンなどは、共同して検疫の強化や販売?流通の監視などを訴える緊急事態宣言を出している。

ツボカビ症の概要
カエルツボカビは、カビの一種「ツボカビ」による感染症で、皮膚にしこりや潰瘍ができる。このカビは哺乳類、鳥類、爬虫類には感染しないが、両生類と淡水性のエビに感染する。両生類の場合、致死率は90%以上である。また野外で広がると、根絶することは不可能である。したがって、食物連鎖の一部が破壊されるため、感染が広がった地域の生態系が崩れる恐れが指摘されている。このツボカビは、世界各地で猛威をふるっている。

学名はBatrachochytrium dendrobatidis、和名はカエルツボカビ、英名はchytrid fungusである。ツボカビ症は、ツボカビの一種カエルツボカビによって引き起こされる両生類の致死的な感染症である。野生の個体群でのこの疾病に対する効果的な対策は存在しない。

ツボカビの起原はアフリカ
カエルツボカビが発見されたのは、1998年である。オーストラリアとパナマにおいて、カエルの大規模な絶滅原因としてクローズアップされたのが、発端である。その後、米国、ベネズエラ、ウルグアイ、南アフリカ、ケニア、イタリア、ドイツ、スペイン、イギリスなど世界の各地で見つかり、アジアだけが空白地域であった。

中米パナマでは、両生類48種が感染し、個体数が9割減少した。パナマでは1995年に侵入し、年平均28キロの速さで西から東に広がったことが、後の調査で確認されている。2カ月で野生のカエルが絶滅した地域もあり、20数種のカエルを動物園などで保護する「両生類箱船計画」が始まっている。

カエルツボカビの起原は、アフリカとされている。過去の標本調査の結果、南アフリカで1938年に捕獲されたアフリカツメガエルが世界で最初の感染例である。カエルの種類によって発生率に差があり、アフリカツメガエルには症状が出ないために、病原性に気づかないまま実験動物として大量に輸出されていた。

アフリカツメガエルの共生菌として体の中に静かに生きていたツボカビが、輸出によって世界中にばらまかれ、各地の在来種に感染が広がったとみられている。

カエルツボカビ症
カエルツボカビは、原始的な真菌であるツボカビ類の一種。約900種のツボカビ類の中で唯一、脊椎動物に寄生する変わり種である。100種類以上の両生類に感染している。淡水や土壌中に生息し、30度以上または乾燥で死滅する。カエルの皮膚に浸入してツボ形の袋を形成するために、この名が付いた。

感染したカエルは、表皮の角質層が異常増殖してはがれ落ちたり、壊死などを起こす。皮膚呼吸や浸透圧の調整が困難になり、苦しんで暴れたり、硬直したりする。発症すると、致死率は 90%以上と極めて高く、数週間で死ぬ。

水中に分布していたツボカビは、カエルの皮膚に浸入し、寄生する。カエルツボカビは、カエルの皮膚に含まれるケラチンというタンパク質を栄養源に成長する。成長すると、袋の中に精子のような遊走子をたくさん作り、煙突のように管を突き出して、分身を皮膚の外に放出する。遊走子は鞭毛で水中を泳ぎ回り、次の標的をさがす。池や川がいったん菌で汚染されると、撲滅はほとんど不可能になる。

ツボカビは水の中で数週間生き続け、野外へ広がってしまうと根絶は不可能である。渓流が多い日本では、繁殖しやすいと指摘されている。また、ペット飼育で感染が広がる可能性が極めて高い。

ツボカビ対策
関係学会など16団体の緊急事態宣言は、「死んだカエルを飼育していた水を、野外に排水することは禁物」と訴え、輸入?販売業者にも「カエルが感染していないことを確認してほしい」と呼び掛けている。

宇根有美?麻布大学准教授(獣医学)は「飼っているカエルに少しでも異状を感じたら、獣医師に相談してほしい。消毒法や治療法があり、人にはうつらない。飼育を放棄して、屋外に放すことだけはしないで」と言う。

なお、詳細は「カエルツボカビ病に関する専用リンク集:http://www.asahi-net.or.jp/~zb4h-kskr/alien-s/tsubokabi.htmをご覧いただきたい。政府、学会、新聞などから、さまざまな情報を得ることができる。

参考資料
  1. 環境省自然環境局野生生物課外来生物対策室: http://www.env.go.jp/nature/info/tsubokabi.html 
  2. 産経新聞:2007年7月2日、9日
  3. カエルツボカビ病に関する専用リンク集:http://www.asahi-net.or.jp/~zb4h-kskr/alien-s/tsubokabi.htm

博狗体育在线_狗博体育直播【官方授权网站】@の講座?研究室などの訪問が終了:まとめ
「農と環境と医療」を連携できる研究の素材や人を求めて、さまざまな研究の職場を探索してきた。医学部衛生学?公衆衛生学から始まり、最後は、獣医学部獣医伝染病学で終わった。訪問した26の講座や研究室などと研究の内容については、「情報:農と環境と医療」の1号から28号にそれぞれ掲載してきた。今回は、それのまとめを掲載する。

訪問講座?研究室など(訪問の順番)
A.医学部;衛生学?公衆衛生学
B.医療衛生学部;衛生管理学
C.薬学部附属薬用植物園
D.一般教育部生物学
E.一般教育部化学
F.財団法人 北里環境科学センター
G.獣医畜産学部 獣医学科 獣医衛生学
H.獣医畜産学部 生物生産環境学科 植物生態環境学
I.獣医畜産学部 動物資源科学科 食品機能?安全学
J.獣医畜産学部 獣医学科 獣医公衆衛生学
K.医学部 微生物?寄生虫学
L.獣医畜産学部 附属フィールドサイエンスセンター(FSC)
M.獣医畜産学部 生物生産環境学科 水利環境学
N.水産学部 水圏生態学
O.水産学部 海洋分子生物学
P.水産学部 水産生物化学
Q.水産学部 水産微生物学
R.獣医畜産学部 獣医放射線学
S.獣医畜産学部 人獣共通感染症学
T.薬学部 公衆衛生学
U.北里生命科学研究所 和漢薬物学研究室
V.北里生命科学研究所 生物機能研究室
W.医療衛生学部環境衛生学
X.獣医学部 獣医寄生虫学
Y.獣医学部 獣医微生物学
Z.獣医学部 獣医伝染病学

研究課題の素材になるキーワード
訪問したそれぞれの講座?研究室などから、「農と環境と医療」を連携するために必要と思われるキーワードを抽出した。それには、「窒素」、「有害物質」、「重金属」、「安全食品」、「未然予防」、「リスク」、「教育?啓蒙」、「インベントリー」、「農業?健康実践フィールド」、「病原微生物」、「環境微生物」、「環境保全」、「環境評価」、「食と健康」、「感染」、「ホルモン」、「光の波長」、「環境応答」、「放射線(アイソトープ)」、「免疫」、「神経」、「内分泌」、「生体機能」などが含まれる。これらのキーワードは、今後の研究、教育、普及の推進に参考になると考える。

講座?研究室とキーワードとのマトリックス
農医連携にかかわる講座?研究室とキーワードとのマトリックスを作成した(表1:訪問順、表2:学部別)。この表は、とくに農医連携にかかわるプロジェクトを作成するうえで、役立つであろう。
研究室と研究課題キーワードのマトリックス(表1:訪問研究室順)

  U V W X Y Z
窒素                  
有害物質             
重金属                 
安全食品                    
未然予防                 
リスク                     
教育?啓蒙                      
インベントリー                        
農健実践圃                        
病原微生物                    
環境微生物                  
環境保全                 
環境評価                     
食と健康                    
感染                 
ホルモン                        
光の波長                         
環境応答                       
放射線(アイソトープ)                         
免疫                         
神経                         
内分泌                         
生体機能                         

凡例: 医学部...○、医療衛生学部...◎、薬学部...●、一般教育部:△、環境科学センター...▲、獣医畜産学部?獣医学部...□、水産学部...■、生命研...◇
研究室と研究課題キーワードのマトリックス(表2:学部別)

  W X Y Z U V
窒素                  
有害物質             
重金属                 
安全食品                    
未然予防                 
リスク                     
教育?啓蒙                      
インベントリー                        
農健実践圃                        
病原微生物                    
環境微生物                  
環境保全                 
環境評価                     
食と健康                    
感染                 
ホルモン                        
光の波長                         
環境応答                       
放射線(アイソトープ)                         
免疫                         
神経                         
内分泌                         
生体機能                         

凡例: 医学部...○、医療衛生学部...◎、薬学部...●、一般教育部:△、環境科学センター...▲、獣医畜産学部?獣医学部...□、水産学部...■、生命研...◇
Medical Geology, Geomedicine を訪ねる:(2)国際地理医学連合 IMGA
国際地理医学連合が設立された。その内容は以下の通りである。英語の原文および詳細は、次のホームページで見ることができる。http://www.medicalgeology.org/index.htm

地理医学は、自然界の地質学上の要因と人間や動物のあいだの健康について取り扱う科学で、通常の環境要因が健康問題に及ぼす影響を理解することにある、と定義される。そのため地理医学は、提案された問題が理解され解決されるために、さまざまな科学分野からの統合的な寄与を必要とする広くて複雑な学問である。

天然に賦存する金属や非金属を過剰に摂取すると、健康に有害な影響が及ぶ。金属は常に存在し、永遠に存在し続けるので、すべての人間や動物は環境中の金属によって影響を受けざるを得ない。

ある金属はわれわれの健康に必要であるし、ある金属は有害である。あまねく人間の活動は、存在していても人間や動物に害が生じない所から害が生じる所へ、金属を移動させることになる。

この深刻な問題は、酸性雨とそれに伴う酸性化により重金属(水銀のような)が生じるような過程が促進され、養分連鎖の中でさらに容易に結合し吸着される場所でこの頻度が増大することである。酸性化による他の重要なことは、セレンのような必須微量元素が生き物に吸収されなくなることである。

土壌や岩石に含まれる毒性元素は、自然な状態であろうが汚染を含んだ人為的な事象であろうが、食物や飲料水を経由して間接的に摂取され、人の健康に影響を及ぼす。地球上の多くの場所は、通常その地域で生産された食物にのみ依存しているが、近代的な工業化された社会においては、地理的に異なる地域で生産される食物をも消費するので、消費形態はさらに多様である。

しかし、飲料水は通常その地域のものが使われるので、地域の地球化学に強く影響を受ける。飲料水から過剰に元素を摂取する問題が、現実にいくつかの無機化合物で生じている。例えば、アフリカやインドでのフッ素、アルゼンチン、チリ、台湾のある地域でのヒ素、アメリカ、ベネズエラ、中国のセレン多量地域のセレン、肥料を大量に施用する農業地域の硝酸などである。

重金属だけが、地理医学の話題になる唯一の元素ではない。昔から国際的に認知され、地理的な要因と関連している病気の例にバセドー氏病(ヨウ素欠乏)がある。この病気は、フッ素やセレンのような元素の過剰や欠乏によって生じるものである。地理的な背景で制御される水の硬度にかかわる心臓血管に関する死亡数や罹病率も、またひとつの研究対象である。

多くのタイプの岩石が高いウラン含量を有している。例えば、頁岩(けつがん)、花崗岩(かこうがん)、巨晶花崗岩がある。これらの岩石に含まれる天然放射線源からもたらされる放射性ガスのラドンを異常なレベル吸入または摂取すると、公衆衛生の立場から危険であることが最近になって認められようになった。

ラドンが関係する肺ガンが、かなりの多くの国で増加しつつある。ウラン含量に富んだ明礬頁岩(みょうばんけつがん alum shale)から造られた軽コンクリートの使用や、建物の空気循環の調整のような現在のビル方式(エネルギー消費の視点からの法的規制)が、多くの場合この問題を悪化させている。

さらに最近では、照射防止問題の可能性として家庭水におけるラドンに焦点が向いている。これまでのリスクアセスメントは、家屋内の大気のラドンに加えて、家庭で使う水に由来するラドンにも焦点が向けられていた。最近の研究から、ラドンに富む水の摂取が、とくに子どものような臨界グループに対して危険と考えられるようになった。水に含まれるラドンの含量は、その地域の地質の状態に直接関係しているのである。

健康に関する地質的な要因の重要性、さらに一般的な地質学の重要性に関する正しい理解の不足を理由に、COGEOENVIRONMENT(参照:「情報25:農と環境と医療」) は、科学者、医学者、行政関係者たちがこの問題をさらに自覚することを主な目的として、地理医学に関する国際ワーキンググループを1996年に設立することを決めた。
本の紹介 30:メディア?バイアス?あやしい健康情報とニセ科学? 松永和紀著、光文社(2007)
この著者の本は、「情報:農と環境と医療 7号」の「本の紹介 10:「食品報道」のウソを見破る食卓の安全学、家の光協会(2005)」でも紹介した。重複するが、その本の紹介の書き出しを再び掲載して、この著者のもつ経歴や風景を浮き立たせたい。

「トンボの目は、1万個以上の単眼からなる複眼で構成されている。"我輩は猫である"のネコも、その主人である教師も目は単眼が二つあるにすぎない。筆者は常日頃、複眼を所持したいと願っているが、一向にその願いは叶えられない。もう少し徳を積めば願いは聞き入れられるかと、ささやかな夢をもちながら廊下のゴミを拾ってゴミ箱に捨てているが、いまだ徳も複眼も得られない。

この本の著者は、幸せなことに若くして複眼を所持しておられる。どうして若いと分かるのか。本を丸ごと読めば自ずと推察がつく。その目とは、科学者の目、消費者の目、評論家の目、母親の目、哲学者の目、生産者の目、歴史家の目、常識家の目、教育者の目など。まさに百家の目をもってこの本は書かれている。」

今回は、2007年1月7日にフジテレビ系列で放映された関西テレビ制作の「発掘!あるある大事典II」の「納豆がダイエットによい」という内容の番組の捏造に端を発し、「メディア?バイアス"あやしい健康情報とニセ科学"」を書き上げている。ここで、複眼は知識、哲学、立場、報道、国家へと広がる。

本書の内容をかいつまんで書けばこうだ。世間には、納豆ダイエット捏造の例に見られるような健康情報番組が氾濫している。しかし、テレビを批判する新聞や週刊誌にもあやしい健康情報が山ほどある。そこには、人びとの関心を引こうとする見苦しい個人とマスメディアの構造、記者や取材者の不勉強や勘違い、思いこみなど(反省:この項の執筆者をも含めて)がある。さらには、それを利用する企業や市民団体の思惑、研究者などの売名行為、国際間の政治的駆け引きなど、さまざまな要因が複雑に絡んでいる。そして、科学情報を見破る方法が具体的に提案される。

これらのことは、目次の各章の題目にみごとに表されている。いわく、「はじめに」、「第1章:健康情報番組のウソ」、「第2章:黒か白かは単純すぎる」、「第3章:フードファディズムの世界へようこそ」、「第4章:警鐘報道をしたがる人びと」、「第5章:添加物バッシング」、「第6章:自然志向の罠」、「第7章:昔はよかったの過ち」、「第8章:ニセ科学に騙まされるな」、「第9章:ウソつきの科学者を見破れ」、「第10章:政治経済に翻弄される科学」、「第11章:科学報道を見破る十カ条」、「おわりに」。

上述した各章で、著者はさまざまな具体例を示しながらメディア?バイアス(筆者注:メディア;新聞?テレビ?ラジオなどの情報媒体、バイアス;考え方などが他の影響を受けて偏ること)の構造を解き明かし、科学情報の事実を見極める方法と、リスク評価の視点を解説してくれる。以下に各章の具体例を逐次追っていく。

「はじめに」では、知識の必要性、メディアの実情、科学の特性、情報の取捨選択のゆがみ、受け手の積極的な行動の必要性、科学ライターの反省などが、以下の各章で具体的に紹介されると書かれている。

最初からメディアと消費者に手厳しい。前者に対して、改善能力は無いかも知れない、勉強しようとしない、勉強する場をお膳立てしてあげる必要がある、などと実情が語られる。後者に対しては、捏造をののしるだけではだめ、良いか悪いかといったような単純さを求めるのはやめ、溢れる情報に疑問を持て、質の悪い情報は見ない買わない、など行動せよと語る。

結局、「??は効果がある」、「??は危ない」、「??は環境に悪い」など警鐘をならす情報には、目を覆いたくなるような誤りがあるからだ。誤りについて著者は語る。「共通しているのは、わかりやすい話であること。良いか悪いか一刀両断、白か黒かの二分法です。そして、どの報道にも医師や科学者などが登場し、数字を駆使し、科学の衣をまとっています」。医師や科学者に強烈な皮肉を吐く。

「第1章:健康情報番組のウソ」では、幼児まで被害に遭った白インゲン豆によるダイエットなどの例を紹介し、番組の捏造による悲劇と、これに対する報道関係の無責任さが語られる。これらの事象に対して著者が最後に語ることがすばらしい。

「ウソ情報を信じ込んでかえってからだに良くないこと、環境に悪いことをしていても、だれも責任をとってくれません。悪いのはあなた自身。その現実に、多くの人たちがまだ気付いていません」。自分は悪くなく、いつも誰かが何処かが悪いとする今の世情に、あまねくこの思考法は適用できる。

「第2章:黒か白かは単純すぎる」では、トリック(詭計)に騙されないことが強調される。そのために量の大小を理解させるために、化学物質の摂取量と生体影響の関係、とくに「無毒性量」と「一日摂取許容量」の関係が解説される。「無毒性量」とは、その物質を一生涯にわたって毎日摂取しても、生体に影響が出ない量だ。動物での無毒性量に100分の1をかけた数字を、人の「一日摂取量」としている。

さらにこの章では、単位をよく理解すること、リスクとベネフィットをよく考えることが、中国産ホウレンソウとDDTの例で解説される。その他、科学者や報道のリスクゼロにむけたアジテーション(社会運動で、演説などによって大衆の感情や情緒に訴え、大衆の無定型な不満を行動に組織すること。)を指摘する。

「第3章:フードファディズムの世界へようこそ」は、これまでの「危険」から食品の「効く」成分に話が移る。血糖値を下げる効果があるというシナモンを、前の章で解説した量の大小を考えないで摂取することの無知蒙昧が語られる。その他、ミルクに含まれるカゼイン、茶のカテキン、リンゴのポリフェノール、抗菌化物質のβ"カロテンなどを大量に摂取することの害が紹介される。

食べ物や栄養が健康や病気に与える影響を過大に評価したり、信じたりする心理をフードファデイズム(Food Faddism)という。米国で生まれた概念であるそうな。当たり前のことであるが、「多様な食品を過不足なく食べることの重要性を無視する食の情報には虚偽や誇張、フードファディズムが紛れ込む」がこの章の結論だ。

「第4章:警鐘報道をしたがる人びと」では、一つの科学的な研究から、いかに「危険」を取り出してアピール(世間に訴えること。受け取る側の心を打つこと。)するかが、マスメディアの継承報道であることが指摘される。その例として、世間をあれほど恐怖に陥れた環境ホルモン騒動が取り上げられている。他にも、ホルムアルデヒドとトルエンの化学物質過敏症の例が紹介される。

この章の最後の文章は、科学者にも重い。「警鐘報道は、時には巨悪を暴くこともあります。水俣病や薬害エイズなど、報道関係者の丹念な取材が被害者救済に大きく役立った事例は数知れません。しかし、功名を急ぐあまり、正義感が先立つあまり、仮説を既成事実化して"深刻な問題だ"と報じてしまう場合も目立ちます。報道関係者は、その功罪を自分自身に改めて問い直す必要があるのです。」

「第5章:添加物のバッシング」においては、「三菱自動車の車は燃えやすい?」という題目で、三菱自動車は責められるべきであるが、消防白書を冷静に検証することによって、メディアによる会社の"袋だたき状態"がものすごいものであったことが解る。メディアへの不信感は拭いされない。

この切り口は、添加食品バッシング(激しく非難?攻撃すること)へと移る。その悪い代表的な例として、阿部 司著の「食品の裏側"みんな大好きな食品添加物"」(東洋経済新報社)が挙げられる。なかでも、阿部氏の科学的な間違いが決定的であると指摘される。さらに、誤解が広がっていった以下に示す3つの例と、その誤りが指摘される。
  1. 日本人は食品添加物を一日平均10グラム、年間4キログラムも摂取している。
  2. ハムやソーセージ、明太子などに使われる合成発色剤「亜硝酸ナトリウム」は強力な発がん物質である。
  3. 化学調味料を食べ過ぎると、頭痛や腕の震えなどの「中華料理症候群」(チャイニーズレスランシンドローム)がおきる。

とはいえ、現在の社会の便利さが加工食品と食品添加物のおかげであることも書いたうえで、これらと上手につき合っていこうという阿部氏の提案と、行政や企業による食品添加物に関する情報の公開が不足していることの氏の指摘には、同意する。著者のバランス感覚のすばらしさが、ここでも十分に読みとれる。

なお、阿部 司著の「食品の裏側"みんな大好きな食品添加物"」(東洋経済新報社)については、この「情報:農と環境と医療 16号」の「本の紹介 19」でも紹介した。この経緯については、この項の終わりの補遺で説明する。

「第6章:自然志向の罠」では、はじめに「化学物質無添加石けん」という矛盾した表現を指摘し、化学物質がいったい何であるのか、化学物質を添加しないことがイコール体によい、環境によい、というイメージをもつことの危険を指摘する。

この論旨で、オーガニック食品であれば安全と思うことの問題点、作物が体内で作っている天然農薬などが解説される。さらに、植物が外敵から身を守るための防御物質として作る物質を天然農薬と呼ばないでファイトケミカル(ソラニン類、モルヒネ、アントシアニン、カテキン、ダイズイソフラボンなど)と呼ぶ印象などが語られる。こうして、イメージのいい自然ではあるが、現実の自然はかなり怖いことを指摘する。自然崇拝的な消費者は、この章を十分読みくださなければならない

「第7章:昔はよかったの過ち」では、本当に昔はよかった、昔は健康だったという幻想や感傷を、味噌を題材に青森の農村と著者の母親の懐古で検証する。さらに、野菜不足で短命だった昔の日本人を振り返り、懐古主義では問題は解決しないと語る。思うにこの項の執筆者(64才)の昔も、たらふく味噌や野菜を食したことがない。カボチャとダイコンの葉っぱだけを食していた想いがある。

「第8章:ニセ科学に騙されるな」。マイナスイオンといった科学的な装いをまとって登場する話題に火を付けるマスメディアに、新聞記事のデータをもとに警告が発せられる。このことは、商品や観光地宣伝においても例外ではない。かつてテレヴィジョンが登場したとき、評論家の大宅壮一は「一億総白痴」と言ったが、ニセ科学は日本人をさらに白痴へと駆り立てる。これに続く「水からの伝言」にいたる話には、目を背けたくなる。われわれは何を科学し、科学についてどのような教育をしてきたのであろうか。唖然とする。

「第9章:ウソつき科学者を見破れ」では、遺伝子組み換えダイズについて科学者が自分の都合のよい情報だけを取材に伝え、脚光を浴びる事例が紹介される。そこには、杜撰(ずさん)な実験結果、騙しの技術、科学の衣をまとった売名行為、学者の倫理観の欠如などが渦巻いている。最後に著者は指摘する。「ナンチャッテ学者が跋扈するのは、メディアの責任だけでなく、国や同業者たちの対応にも一因があるのです。」

「第10章:政治経済に翻弄される科学」では、バイオ燃料ブーム、トウモロコシが燃料用エタノールに、地産地消の商品、燃料VS食料、抜本的な農業政策が必要、ブレークスルー技術が必要、トランス脂肪酸問題も国家間のせめぎ合い、規制強化が有利になるマレーシアやインドネシアなどの項目で、政治経済と科学の現実が語られる、

最後は、次のように結ばれる。「一見科学的な論争に見えて、実は国同士の政治的な駆け引きであるケースは、ほかにもBSE問題など数多くあります。政治家や経済界は往々にして"食の安全を守れ"とか"環境は保護しなければ"などという"きれいごと"を利用して、自らに都合の良い展開を図ります。情報の受け手は、建前の論議と報道の陰にある科学的な本質を見て判断しなければならない。」

「第11章:科学報道を見破る十カ条」。フリーの科学ライターの懐具合は決して楽ではない、と悲鳴をあげている。ここに著者の提案した十カ条を簡単に書けば、この本を購入しないで、わかった気になる読者がいるかも知れない。この本の紹介を読まれた方の理解を深めるため、そして著者の売りあげを増加させるため、ここでは、その十カ条を掲載しない。十カ条は、この本をお買いになって、じっくり検討されることをお薦めする。

読み終わると、政治、哲学、立場、報道、国家、将来などにわたる多くの問題点が指摘されていることに気づく。単なる「メディア?バイアス」の本ではない。崩れつつあるわが国の多くの分野の構造問題にも適応できる視点が、この本にはある。実に良書である。

補遺
この「情報:農と環境と医療」には、農と環境と医療に関わるさまざまな分野の本を「紹介」している。それらは決して「書評」の形はとらない。というのも、執筆者はきわめて狭い専門分野のことしか知らない一研究者であるから、とても「書評」することができないからだ。そこで、選んだ本の内容を読者に「紹介」しているのがこのシリーズである。選んだ本の傾向に一貫性はない。専門書や新聞の書評などに紹介された本や、執筆者がこれまで読んだことのある本を、折にふれて紹介しているシリーズだ。

以上、本の紹介の趣旨を断ったあと、さて、1年前の「情報:農と環境と医療 16号」に紹介した「本の紹介 19 食品の裏側」について、一読者から貴重な意見を頂いた。意見は概ね次のような内容だ。

「食品添加物は非常に厳しい審査と使用実績の検査により安全が守られ、健康被害は一切出ていません。一部には[複合汚染]の可能性が指摘されていますが、一日摂取量以下の量、すなわち生理機構に何の影響を与えない量の化学物質を何種類食べようと、相互作用があるはずはないことが明確になっています。[食品の裏側]のような本を私たちは[恐怖もの]と呼んでいますが、科学の知識がない人たちに食品添加物に対する恐怖感や嫌悪感を植え付けようとするもので、その裏側にあるのは商売、すなわち無添加商品等の販売促進です。食品化学新聞などの記事をお送りします。意のあるところをお汲み取りいただければ幸いです。」

お送りいただいた資料は、「食品添加物の正しい理解を:大谷不吉磨、食品化学新聞06.04.13」と「食の安全と安心の違い:唐木英明、社団法人全国農業改良普及支援協会編集部資料」であった。

このご意見に対して、筆者はすぐに、このシリーズが上述したように本の「書評」でなく「紹介」であること、「紹介」のなかでこの本が「あまりにも独断的な表現」と「さまざまなことを考えさせる本」であるということを文章で表現したこと、さらに、このシリーズの中に「本の紹介 10:「食品報道」のウソを見破る食卓の安全学、松永和紀著、家の光協会(2005)」の類もあることを紹介し、ご指摘に感謝する旨の返事をした。

今回の本の紹介を機会に、一読者の親切な意見と、これに対する筆者の回答した内容を補遺として掲載させていただく。先の情報(27号)のコラムで書いたように、筆者は「仁和寺にある法師」になりたくない。皆様のご意見を歓迎する。
「気炎:農医連携への期待」:山形新聞 2007年5月30日
山形新聞の「コラム:気炎」に、憮心庵人氏が「農医連携への期待」と題して、博狗体育在线_狗博体育直播【官方授权网站】@農医連携叢書について書いている。以下、前半の部分を以下に紹介する。

博狗体育在线_狗博体育直播【官方授权网站】@学長室が編纂した「現代社会における食?環境?健康」と題する学術叢書を落手した。生命科学の総合大学としての面目を有する同大学が近年、農?環境?医療の連携と融合の必要性を深く認識し「農医連携」という新たな用語と理念を打ち出した。これまでも「医食同源」という言葉は一定の市民権を得、良い食べ物を正しく摂ることが健康維持に不可欠であるという自覚は広まった。教育界でも知育、体育、徳育に加え食育を掲げる昨今である。

博狗体育在线_狗博体育直播【官方授权网站】@では食品分析の長い研究と実績を踏まえて、その食を生み出す農の領域まで遡り、医療とのかかわりと統合を目指そうと動きだした。そして同じ方向を探求する大学や関係機関と連携し、その研究や実践の成果を集約、発信しようというものである。以下省略。
言葉の散策 17:夏?秋?冬?春
語源を訪ねる 語意の真実を知る 語義の変化を認める
そして 言葉の豊かさを感じ これを守る

暑い夏が続いている。「暑い」と和語で書けば、「きわめて」とか「とても」とか「たいへん」とか前に副詞をつけることでしか、その暑さを表現できない。しかし漢語にすれば、その暑さが分析的に表現できるから、暑さをことさら大げさに表現できる。酷暑、熱暑、炎暑、極暑、劇暑、激暑、蒸暑、倦暑、大暑、烈暑の砌(みぎり)、などと。

「情報:農と環境と医療」から逸脱して等閑にしたい。こんなに暑いときには、専門のことよりこの種の散策の方が「農」でなく「脳」に適しているとも思える。

この暑さでは、「暑」の前にどんな強烈な漢字を付けても、熟語が成立するような気がする。例えば、爆暑、死暑、毒暑、溺暑、融暑、揮暑など。「暑」は形声文字で、声符は者(しゃ)。説文に「熱きなり」とあり、暑熱をいう。火を用いるものは庶。者は堵中の呪符であるが、庶?者の声近く、暑は者声をとる。者と庶と、声符として互易する例が多い、と、「字通」にある。酷暑による「夏ばて」などという健康にかかわる言葉があるので、「夏」について、ついでに「秋」、「冬」、「春」の語源を追ってみた。

夏:象形。神事的な舞踏で、舞冠を被り、儀容を整えて舞う人の形。仮面をつける巫女の姿であろう。大きなおおいで下のものをカバーする意を含む。転じて、大きいの意となり、大民族を意味し、また、草木が盛んに茂って大地を被う季語をあらわす。説文に「中国の人なり」とあり、中国を華夏という。

アツ(暑)の転。アツ(温)の義。アツ(熱)の義。アナアツ(噫暑)の義。ネツ(熱)と通ずるか。草木がナリイズル(造出)の義。ナガテル(長照)の反。ナはナユルのナ、ツは助語。ナデモノ(撫物)のナヅと関係のある語。

朝鮮語のnierym(夏)、満州語(niyengniyer)など、アルタイ諸島で「若い」、「新鮮な」の原義の語と同源などの外来説がある。

秋:形声。意符の禾(い)と、音符の火とからなる。実った稲を集めおさめる意。ひいて、取り入れ時。「あき」の意に用いる。食べ過ぎのアキ(飽)の義。アキグヒ(飽食)の祭りの行われる時節の意から。草木が赤くなり、稲がアカラム(熟)ことから。天候の明らかから。草木の葉のアキマ(空間)が多いの意。などなど。

冬:形声。音符のン(水が張った形)と、音符の夂(しゅう)(集まる意。また、こおる意)とから成る。もと、水が集まり凍る意。ひいて、水が凍る寒い季節、「ふゆ」の意に用いる。冷(ひゆ)が転じた。フケヒユ(更冷)の義。説、寒さが威力を振う(ふるう)、振ゆ(ふゆ)が転じた説、寒さに震う(ふるう)、殖ゆ(ふゆ)るの義。フユ(封忌)の義。フユ(経)の義。などさまざまである。

春:会意兼形声。桑の若葉の出る日の意。ひいて、桑の新芽が出る季節、「はる」の意に用いる。万物のハル(発)候。田畑を墾る(はる)の義。気候の晴る(はる)の義。年がハル(開)の義。さまざまな説がある。

補遺:ちなみに中国の陰陽五行思想による夏は、行は火、色は赤、方は南、事は視、星は火星、臓は心、常は礼、味は苦、声は徴、十干は丙?丁、十二支は巳?午(未)が相当する。これらを調べた結果、夏がますます暑く感じられてしまった。

参考資料
漢字源:学研/大字源:角川/字通:平凡社/国語大事典:小学館/字訓:平凡社
コラム:「おはこ」と「トイレ」
常用している鞄が壊れたので、先日デパートメントストアに出かけた。手頃な品物が見つかったので、男の店員に購入したい旨を伝えた。その店員はきわめて愛想よく、そのうえ慇懃に言った。「おはこにしましょうか?」。「なに?」。「おはこに入れましょうか?」。一瞬なんのことか解らず、「鞄がなぜ、おはこ(十八番)なのか?」と疑ったが、すぐ思い至った。実は「おはこは、お箱」であったのだ。唖然とした。

その店員は聞き手の私に上品な印象を与えるために、美化語として「お箱」という言葉を吐いたのである。美化語は、文法的に見て敬語とは言えないが、聞き手に対する配慮を示しているということで、敬語に準じるものとされることが多い。これを丁寧語に分類する人もいるであろう。

名詞に「お」や「ご」を付けたり、語彙を変えたりして美化語や敬語が作られることは周知のことである。例えば、茶がお茶、菓子がお菓子、食事がお食事など。さらには、お料理、お醤油、お砂糖、お味噌、お新香、おしたじ、ご飯など、わが国の古くからの食べ物に「お」がつくのは、食べ物を大切にする心や、さらには食べ物に対しての倫理観まで感じられ心地よい。

また、お宮、お寺、お葬式、お正月などの「お」も日本人の奥の深い宗教心が漂っていて、自然に受け入れられる。お喋り、おしゃぶり、おしっこ、お絵かき、お遊技などは、子供や孫の可愛いさから溢れでた「お」と捉えると、これまた心休まる。

おソース、お受験、おテーブル、お箱などとなると、愕然とする。浅くて内容のない美化語や敬語が溢れ始めて久しいが、お箱には愕然とした。このように書くと、はたして、筆者は頑固爺といわれるであろうか。よろこんで言われたいものである。

男の言葉と女の言葉が乱れ始めて久しい。男はむかし便所といった。女はご不浄とか、はばかりとかいった。今では誰でもトイレという。なかには美化語ぶって「おトイレ」という男もいる。

いまや、巷には片カナ語が席巻している。これは、かつて江戸や明治時代に漢語を用いてえらそうに見せたのと同じ心情であろう。そうであるならば、いまや海外留学者や英語を読むことを仕事にしている人がごまんといるのだから、咎め立てできまい。

心配するのは、片カナ語が席巻すると昔の言葉が凋落していくことである。トイレという語ひとつで、これまでなんと多くのすばらしい言葉が消えていったことか。便所、お手洗い、ご不浄、雪隠、はばかり、大便、小便、手水場(ちょうずば)など。

かつて起承転結のある文章を書くのに、京の五条の糸屋の娘(起)、妹十四姉十六(承)、天下の武将は弓矢で殺す(転)、糸屋の娘は目で殺す(結)を活用すべし、という冊子を読んだ記憶がある。頼 山陽の俗謡といわれるものである。

この俗謡を活用させてもらい、手短に結をまとめるとすれば、「おはこ」や「トイレ」は日本語を殺すといえるのではないか。かつて西 周に代表される明治期の学者たちは、数多くの外来語を日本語に変換した。政府、組織、社会、経済、理論、情報、法律、宗教、文学、美術、哲学、真理、心理など輝かしい業績がある。間違えても「おはこ」や「トイレ」はないであろう。西 周や森林太郎が墓場で驚愕しているであろうことは、想像に難くない。日本語が溶け始めている。
*本情報誌の無断転用はお断りします。
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情報:農と環境と医療29号
編集?発行 博狗体育在线_狗博体育直播【官方授权网站】@学長室
発行日 2007年8月1日