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26号

情報:農と環境と医療26号

2007/5/1
第3回博狗体育在线_狗博体育直播【官方授权网站】@農医連携シンポジウムの内容:鳥インフルエンザ(3)動物由来ウイルス感染症の現状と問題点
平成19年3月9日に開催された第3回博狗体育在线_狗博体育直播【官方授权网站】@農医連携シンポジウムのうち、演題「動物由来ウイルス感染症の現状と問題点」を紹介する。残りの演題と総合討論については、次号以降に順次紹介する。

動物由来ウイルス感染症の現状と問題点
 
東京大学大学院農学生命科学研究科教授 吉川 泰弘

はじめに

人類は従属栄養型生物で栄養源を動物と植物に依存している。そのうち乳、肉、内臓など多くの動物性蛋白質?脂肪等の供給源になっているのが家畜である。人と家畜の付き合いは長い。農耕生活の始まる1万年前には既に人と暮らす動物がいた。歴史をたどれば現在の人の感染症のほとんどは動物に由来したものである。すなわち、人特有の感染症と考えられている天然痘、麻疹、インフルエンザなども、その祖先は動物に由来するか、動物のウイルスと共通の祖先ウイルスから人の社会に適応してきたものである。また、人と動物の共通感染症として家畜とヒトの間で感染を起こす疾病は現在でも数多く存在する。人だけが特別な世界に生きているわけではない。

1.動物から人へ

動物由来感染症は人と動物が同じ病原体によって罹る病気であり(自然宿主動物は病原体に感染していても病気にならないことがある。)、主として動物から人に来るもの、人から動物に感染し、また人がかかるもの(サル類の赤痢、結核、ウイルス性肝炎など)がある。

動物由来感染症には野生げっ歯類(鼠など)から蚤を介して感染するペスト(現在でもアフリカ、アジア、アメリカ大陸で流行しており、決して過去の病気ではない)や、発症した犬や蝙蝠などを介して感染する狂犬病のように古くから有名なものがある。

しかし、これ以外にも寄生虫感染症、リケッチア?クラミジア症、細菌感染症、ウイルス感染症など数多くある。1959年WHO(世界保健機関)の専門家会議で確認されたものだけで150種類以上、現在は重要なもので500~700種類以上あると考えられる。近年、世界を震撼させた感染症にはエボラ出血熱、ニパウイルス感染症、SARS、西ナイル熱のように野生動物を媒介するもの、0-"157、BSE、高病原性トリインフルエンザのように家畜に由来するもの、デング熱やデング出血熱、マラリアのように節足動物(昆虫)を媒介とするものがある。20世紀後半に出現したウイルス感染症の約3分の2は動物由来感染症である。さらに、家畜に由来する感染症は日常的に食品を介して人に感染することから(サルモネラ中毒、E型肝炎、0-"157、BSEなど)、食の安全性の点でも重要である。

歴史を振り返ると1980年WHOから天然痘撲滅宣言が出された。1種類ではあるが、歴史上はじめて、人類はウイルスに打ち勝つことができた(最近はバイオテロの病原体として別の意味で撲滅されなかったことが心配されている)。

また抗生物質による細菌感染症の制圧が現実的になり、人類は感染症を防御し得るという楽観論が拡がった。わが国でも長く死亡原因の第1位を占めてきた感染症が戦後著しく減少し、昭和25年癌が死亡原因の1位を占めた。ついで循環器疾患が第2位を占め、厚生行政は感染症対策より癌、生活習慣病、福祉対策が中心になった。

しかし新興感染症であるエイズや種々のウイルス性出血熱が世界各地で流行し、デング熱や結核など再興感染症が再び人類の大きな脅威となり、抗生物質の乱用によりMRSA、VRE、VRSAなどの耐性菌が院内感染問題を引き起こしている。このような事態に直面し、WHOは感染症に対する楽観論を撤回した。いずれの国も感染症の危機に見舞われているという、危機宣言を出すこととなった。

2.動物由来感染症の発生?拡大の背景

動物由来感染症の多くは開発途上国に起因している。その原因としては、熱帯雨林開発など人の生産活動範囲の拡大により熱帯雨林の未知の野生動物がもっている病原体と接触すること(エボラ出血熱、マールブルグ病、サル痘)、生産性が向上し、げっ歯類などの繁殖が盛んになり、生態系が撹乱されること(ボリビア出血熱、ラッサ熱、アルゼンチン出血熱など)、途上国における急速な都市化?人口集中と貧弱なインフラストラクチュアにより、森林でサル類と蚊の間で循環していた感染症が都市に定着すること(黄熱、デング熱、デング出血熱など)、また航空機輸送による人と動物の短時間の移動により短期間に途上国から先進国へと感染症が拡大すること(ラッサ熱、マールブルグ病、SARS)があげられる。

一方先進国ではエキゾチックアニマルやエキゾチックペットといわれる野生動物のペット化(プレーリードックによる野兎病、ペスト、サル痘など)、キャンプや森林浴などアウトドア生活をエンジョイするさいに野生動物と接触すること(野性げっ歯類やダニなどによる、日本紅斑熱、ツツガムシ病、ハンタウイルス肺症候群、ライム病、キタキツネによるエキノコックス症など)があげられる。

また先進国では、家畜の経済効率を求める大量飼育方式や蛋白源の再利用(レンダリング)による新しい感染症(サルモネラ症、BSE、0-"157など)が出現した。さらに近年、ヘンドラウイルスやニパウイルス感染症のように、これまで病原体保有動物として知られていなかった熱帯のオオコウモリから家畜を介してヒトに伝播する感染症が出現し、その複雑さが増している。

ブタ(ニパウイルス)、ウマ(ヘンドラウイルス)、ウシ(BSE)、ニワトリ(高病原性トリインフルエンザウイルス)のように、家畜を介する感染症は、野生動物由来感染症に比べ、ヒトとの接触頻度が高く食用に利用されること、大規模な工場型飼育が盛んになるにつれ、一度病原体が群飼育の家畜に侵入すると爆発的流行になること、高頻度で新しい宿主の中で伝播する間に容易に病原体の遺伝子が変異する可能性があることなどから、以前とは違い、高い危険性を帯びるようになってきている。

さらに野生動物間でも、環境汚染が進み、宿主の免疫機能が低下したため、本来であれば自然宿主と共存していたウイルスが爆発的流行を起こす場合(北海のアザラシなど)や、環境汚染物質により、ウイルスの変異頻度が上昇する可能性などの、新しい危険性が考えられる。こうしたことは、共通感染症の制圧?リスク回避に従来の対策とは違った、新しい発想と対応が必要になっていることを示唆している。保全医学という考えかたは、動物由来感染症の統御に、従来のヒト及び動物の健康の上に環境保全という概念を上乗せして考えようという新規の発想法である。

3.人類への警告

動物由来感染症は人類の生産活動の拡大や経済効率の追求、ライフスタイルの変化などに関連して、その発生?拡大の様式を変化させてきている。その点ではPCB、DDT、ダイオキシンなどのような環境汚染化学物質との共通点が多い。便利で快適な生活を追及することは決して悪いことではないが、科学技術の開発や人間中心主義に立脚して、バランスを無視した環境破壊や生態系の破壊を続けて行くと、その結果は必ず人類に戻ってくる。

特に先進国の矛盾を途上国に押し付けることによる問題解決の仕方や、一国安全主義は既に破綻しつつある。WHO(世界保健機関)やOIE(国際獣疫事務局)を中心とした、グローバルな各国政府の連携の取れた共通感染症対策が必要である。また自国の経済活動保護や民意の安定化政策のために、しばしば感染症を隠蔽し、安全宣言を出したり、感染症の発生報告を怠る行為は、結果的に国際的な感染症のリスクを増大させることになる(中国のSARS、東南アジアの高病原性トリインフルエンザ、英国のBSEなど)。

世界で最も感染症防御システムが進んでおり、CDC(米国疾病予防制御センター)のように世界の感染症コントロールの中心的役割を果たしている機関を保有する米国でさえ、西ナイル熱のように野生動物(トリと蚊)を介した感染症をコントロールすることは容易ではない。1999年の東部ニューヨークから始まった流行(発症7人)は、2003年には全米に広がり、8,000名を越す感染者と200名を越す死亡者を出し、まだ終息する傾向を示してはいない。また中西部の乾燥地帯に常在するペスト(プレーリードッグと蚤の間で循環している)の制圧および、コウモリを介した狂犬病の制圧も非常に困難な状態である。

一方、野生動物由来と考えられるSARSが僅か数ヶ月で世界中に伝播した事実は、現代の感染症の流行が国境という人為的バリアーを問題にしていないことを明らかに示した。また、今回のシンポジウムのタイトルとなった高病原性トリインフルエンザ(H5N1ウイルス)もアジアを中心に流行域が広がり、中近東、欧州、アフリカを巻き込んでいる。その発生国の多さ、流行規模の大きさ、およびブタだけでなくヒトに直接感染?発症させる病原性の強さなどから、WHOがその危険性を摘指したところである。

野生動物に由来する共通感染症は、従来型の人や動物を対象とした下流、エンド?リザルト(最終結果)としての感染症対策(農水省、厚労省)とは別に、21世紀は環境、野生動物及び自然宿主に寄生する病原体の生態学といった、上流の視点から研究を進め、グローバルな対策をたてることが求められている。

4.制圧への道筋

現在、地球上には病原微生物を含め判っているだけでも140万種の生物種が共存している(昆虫75万種、その他の動物28万種、高等植物25万種、真菌7万種、原生動物3万種、細菌5000種、ウイルス1000種である)。これらの生物種が、それぞれ37億年の生命の歴史を担う末裔として、複雑な生態系を築いていることを考えれば、人間の都合だけで動物由来感染症を完全に制圧することは不可能である。基本的には生物の多様性を認めて、バランスのとれた共存の道を探るべきである。

とはいえ、人に危険な感染症はコントロールしなければならない。国際的なレベルで感染症を制御する責務を負っている機関は、人の感染症についてはジュネーブに本部を置くWHOであり、動物の感染症及び食物に由来する感染症についてはフランスに本部を置くOIEが責任を負っている。OIEの決定は、しばしば各国の家畜や家畜由来食品の貿易等に直接関連するので、WTO(世界貿易機関)の関連機関としての役割も果たしている。

こうした国際機関の専門家委員会で、よく用いられる分析手法としてリスク分析法がある。本来、医薬品や食品添加物などの人への国際的安全性評価基準を決めるのに用いられてきたが、微生物による食中毒の防疫や、感染症の制御に利用されるようになってきた。

リスク分析法は自然科学と社会科学が完全に融合した分析法で、リスク評価、リスク管理、リスクコミュニケーションの3つの要素から成り立っている。そこでは定量的な科学的リスク評価に基づいて、費用対効果を検討し、現実的な対策を作成し、人々に判りやすく説明し、より効率のよい防御システムを確立しようとするものである。わが国でもBSEパニックの後に、内閣府にリスク管理機関とは独立してリスク評価を行う機関として食品安全委員会が設けられた。国際機関では既に、各国あるいは各地域の感染症専門家や行政担当者が分野別に招集され、持続的に感染症制圧へ向けて検討を進めている。

しかし、感染症の制圧は基本的には政治問題であり、経済問題である。貧困と飢餓、戦争が続く限り、国際的な公衆衛生レベルの向上は望めない。各国?地域の文化の違い、国民性の違いや生活?習慣の違いなど、多様性を認めたうえで、グローバルな感染症防御のための基準やシステムを構築していくという国際協調路線が感染症制圧への道筋と言える。

5.日本の新しい共通感染症対策

高度経済成長後、社会体制や価値観の急激な変化により核家族化、少子化が進み、ペット動物が伴侶動物として人の代替の役を果たすようになった。さらにバブル経済期を経て、従来のペット動物種とは異なるエキゾチックアニマルの輸入が盛んになった。少子?高齢化の速度は先進国の中でも群を抜いており、また野生動物輸入の多さでも群を抜いている。こうした社会変化と人の行動様式の多様化から、従来にない共通感染症の発生が強く懸念された。

こうした事態を受け、感染症法の制定(平成11年施行)にあたり、初めてヒトからヒトへの感染症の他に、動物由来感染症が取り上げられ、サル類および狂犬病予防法により(対象動物がネコ、スカンク、アライグマ、キツネに拡大された)、法定検疫が実施された。しかし、これ以外の感染症?動物種に関しては規制対象とされず、5年後の感染症法見直し時に対策強化を検討することとなった。

今回の見直しに当たっては、感染症に関する情報、輸入動物の実態、疾病のリスク評価などのデータを入手し、分析することができた。厚労省の動物由来感染症検討班で初めて共通感染症のリスク分析を行った。その結果、翼手目(コウモリ)とマストミス(ラッサ熱の自然宿主)は平成15年11月から全面輸入禁止となった。既に輸入禁止となっているプレーリードッグ、ハクビシン等、及び法定検疫の対象であるサル類と食肉目の動物以外のものに関しては、輸入届出、健康証明書、係留など、リスクレベルに応じた対応をとることとした。

すなわち、今回の対策強化は、従来のように単純に動物検疫を増加させるものではなく、輸入禁止動物種の追加、係留措置、サーベイランスシステムを含む侵入動物?国内の野生動物(渡り鳥、カラスなど)対策の強化、共通感染症発生時の動物調査、措置の強化を盛り込んだ。特に輸入動物の届出制度と健康証明書の添付、特定の病原体に関するフリーの証明書添付の要求は、これまで野放しであった輸入野生動物を事実上禁止するものであり、検疫に代わってリスクを回避する有効な措置となっている。

他方、国内動物?野生動物に対しては日常のサーベイランスが重要であり、このために動物の感染の診断を行う組織を確立することが重要である。リスクの高い感染症についてはハイリスク地域、動物が侵入してくると考えられる地域、当該感染症を保有する野生動物の生息地域などに関して、疾患の広がり、自然宿主?媒介動物の生息数や生息域、侵入後の駆除などに関して、総合対策をとる必要がある。国と地方自治体の連携、農水省と厚労省の連携、そして医師と獣医師の連携が必要な分野である。
第3回博狗体育在线_狗博体育直播【官方授权网站】@農医連携シンポジウムの内容:鳥インフルエンザ(4)高病原性鳥インフルエンザの感染と対策
平成19年3月9日に開催された第3回博狗体育在线_狗博体育直播【官方授权网站】@農医連携シンポジウムのうち、演題「高病原性鳥インフルエンザの感染と対策」を紹介する。残りの演題と総合討論については、次号以降に順次紹介する。

高病原性鳥インフルエンザの感染と対策

(独)農業?食品産業技術総合研究機構動物衛生研究所 研究管理監 山口 成夫

はじめに

鳥インフルエンザ(AI)は鳥類にA型インフルエンザウイルスが感染して起こる鳥類の病気であり、特に鶏や七面鳥などでは、流行株によっては飼養群の大部分が死亡するため、畜産産業上の最重要感染症の一つである。従来、AIウイルスはヒトには感染?発病しないと思われていた。しかし、1997年に香港で発生したH5N1亜型による高病原性鳥インフルエンザ(HPAI)がヒトにも伝播し、18名の感染者の内6名が死亡する衝撃的な事例があり、HPAIは人獣共通感染症として重要視されるようになった。本講演では、農の立場からみたHPAIの重要性と対策について解説し、新型インフルエンザ対策にも言及したい。

1.HPAIの出現

AIウイルスは鶏に対する病原性で、弱毒と強毒ウイルスに分けられる。自然界では、弱毒AIウイルスは主に水禽類に高率に感染、保持されており、自然界に存在する大部分は弱毒AIウイルスである。しかし、その弱毒ウイルスのほんの一部が鳥種を越えて感染して行く中で強毒化変異を起こし、鶏を100%殺してしまう強毒ウイルスが出現する。

野生のカモ(ガンカモ目)は弱毒AIウイルスを高率に保有し、糞便中にウイルスを排泄しながら、渡りをしている。そのウイルスは種(目)の異なる鶏や七面鳥等(キジ目)の家きんには感染しにくい、カモに馴染んだウイルスである。しかし、低率ではあるが鶏などに感染することがあり、さらに希に鶏の中で感染環が成立し、鶏に馴染んだ弱毒のAIウイルスができあがることがある。このようなウイルスは鶏馴化弱毒ウイルスであり、一般にカモへの感染性は低下している。

鶏馴化弱毒ウイルスが鶏の中で感染を繰り返すと、ウイルス株によっては強毒化変異し、鶏を100%死亡させる強毒ウイルスができあがる。今まで、このようにして強毒化変異したAIウイルスは、なぜかそのHA亜型がH5またはH7のものに限られ、H5またはH7亜型のウイルスは鶏に対して強毒化する能力を備えていると解釈される。

AIウイルスが上記の性状を持つことから、農林水産省は強毒ウイルスの家きん感染症を「高病原性鳥インフルエンザ」と定義すると共に、たとえ弱毒ウイルスであってもH5またはH7亜型のウイルスが家きんに感染していた場合についても「高病原性鳥インフルエンザ」の範疇として、殺処分や発生農場周辺の移動制限措置を講じている。

2.家きんにおけるHPAIの発生状況

1)弱毒タイプによる発生

前述のように農林水産省はH5またはH7亜型弱毒ウイルスによる家きんの感染症をも「高病原性鳥インフルエンザ」とし、強毒ウイルス感染と区別するため「弱毒タイプ」としている。

2005年5月に茨城県の採卵養鶏で産卵低下などの検査のために採材された材料からH5N2亜型のA型インフルエンザウイルスが分離された。分離ウイルスの静脈接種による鶏への病原性判定試験では、鶏は何ら症状を示さない弱毒ウイルスであった。

茨城県は「弱毒タイプの高病原性鳥インフルエンザ」の発生を診断し、発生農場の鶏群の処分と5km圏内の移動禁止措置をとると共に、圏内のAIの検査を実施した。その結果、特に症状を示さない鶏群での抗体あるいはウイルス分離陽性群が次々と発覚し、最終的には茨城県内の40農場と埼玉県の1農場が陽性となり、578万羽の鶏が処分され、2006年4月に防疫措置が完了した。

分離ウイルスは鶏馴化弱毒ウイルスで、鶏には高い感染性を示したが、アイガモには実験的に感染が成立しなかった。

2)強毒タイプによる発生

2003年後半から2004年にかけてH5N1亜型による強毒タイプのHPAI発生がアジアの10カ国で報告された。この発生で、アジア全体で1億羽以上の家きんが感染死亡あるいは淘汰されたと報告されている。日本では、山口県、大分県および京都府の3府県4農場で発生が確認され、約30万羽が死亡あるいは淘汰され、2004年4月に全ての防疫措置が完了し、発生は終息した。

分離ウイルスは、鶏の静脈内接種試験では1日以内に、経鼻接種では3日以内に全例(8羽中8羽)が死亡する強毒ウイルスであった。遺伝子解析では、日本分離株は全て近縁で、韓国分離株とも近縁であったが、タイ、ベトナム、インドネシア等の東南アジア流行株とは異なる系統で、日本と韓国で近縁なウイルスの流行があったことが判明した。

その後3年経過した2007年1月に再度、H5N1亜型による強毒タイプのHPAIが国内発生した。これまでに発生が確認されたのは、宮崎県の3農場と岡山県の1農場である。

分離ウイルスは鶏の静脈内接種試験では1日以内に、全例が死亡する強毒ウイルスであり、遺伝子解析結果から、4農場での分離株は、全て近縁で、2005年に中国北部の青海湖のガンから分離されたウイルスの系統に属していた。この系統のウイルスは2005年から2006年にかけて、モンゴル、ロシア、中近東、欧州、アフリカ、韓国で水禽類、家きんまたは感染死亡者から分離されており、近年世界に広く感染拡大したヒトの感染死亡例も報告されているAIウイルスである。

日本の発生では、それぞれ単発の発生で、発生農場から感染が拡大した例は認められていない。現時点では、早期発見と早期対処による最小被害による防疫として評価される。

3.HPAIの防疫対策

1)指針による防疫措置

日本におけるHPAIの防疫は農林水産省が発出した「高病原性鳥インフルエンザに関する特定家畜伝染病防疫指針」に基づいて実施される。指針においては、基本方針として国際的な本病清浄国の防疫原則に則り、殺処分による本病の撲滅を図り、常在化を防止する対策を実施すると述べられ、早期発見のための監視体制強化と蔓延防止のための危機管理体制の構築が必要としている。

農場で本病を疑う異常家きんが発見された場合には、発見者は直ちに家畜保健衛生所に通報することが義務付けられている。通報を受けた家畜保健衛生所の家畜防疫員は直ちに立ち入り検査を実施し、病性鑑定が開始される。家畜保健衛生所ではウイルス分離検査等を実施し、その検査結果を受けて動物衛生研究所では亜型判定検査および病原性判定検査を実施することになっている。以上の検査結果、分離ウイルスが強毒ウイルスあるいはH5またはH7亜型と判定された場合、農林水産省と都道府県はHPAIの発生発表を行い、対策本部を設置して、防疫措置を開始する。

防疫措置の主なものとしては、発生農場での家きんの殺処分と処理および農場の消毒、疫学関連農場での家きんの隔離、発生農場を中心とした原則10km区域内の家きん等の移動制限措置等がある。発生農場での防疫措置および移動制限措置区域内で清浄性が確認された場合、順次、制限区域の縮小、解除がなされる。

2)ワクチンによる防疫

家きん用のAIワクチンは開発され、数カ国で使用実績がある。弱毒のH5またはH7ウイルスは家きんでの継続感染で強毒化変異する可能性があるため、通常の弱毒生ワクチンは推奨されず、世界でこれまで承認されているものは不活化ワクチンあるいは組み換え生ワクチンである。

国際獣疫事務局は、ワクチン接種は発症や死亡を防御し、ウイルスの排泄量減少や感染に対する抵抗性を増強するが、ウイルスの感染増殖を阻止し得ないため、清浄化を目指すのであればワクチン接種のみに頼る防疫は不十分で、接種群のモニタリング、厳格な衛生管理、感染群の淘汰を組み合わせることが必要と述べている。

日本においては、家きんの防疫に原則的にはワクチンを使用しないことになっているが、同一移動制限区域内の複数の農場で続発し、迅速な淘汰による防疫措置が困難となった場合に、農林水産省はワクチン接種を検討することになっている。そのため、日本では緊急使用の目的で、輸入ワクチンの備蓄をすると共に国産ワクチンの開発を実施した。

現在、本病の多発国であるインドネシア、ベトナム、中国、イタリア等でワクチン使用の防疫措置をとっているが、必ずしも清浄化の見通しは立っていないと思われる。

4.農が行う新型インフルエンザ対策

AIウイルスは鶏への病原性で強毒と弱毒に分けられることを述べたが、両者ともヒトに感染した経緯があり、人獣共通感染症の病原体である。特に近年鳥類で大流行したH5N1亜型のHPAIウイルスは2004年以降2007年2月上旬現在で、ヒトでの感染、死亡者が166名にも達している。

世界保健機関はH5N1亜型のAIウイルスがヒトに感染しやすいウイルスに変異して、新型インフルエンザウイルスが出現することを警戒している。幸いまだヒトからヒトに感染しやすいウイルスへは変異していないが、これからも鳥類からヒトへの感染が繰り返されれば新型インフルエンザウイルスの出現は十分想像できる。

これまでの例では、ヒトへの感染源は家きんであり、家きんでの感染継続が新型インフルエンザの出現の大きな要因となっている。従って、農の分野で実施可能な唯一無二の新型インフルエンザ対策は家きんでのH5N1HPAI撲滅対策である。HPAIは国境を越えて容易に広がる。本病の撲滅には強い国際協力が必要で、それ無しには新型インフルエンザ出現阻止も果たせないと思う。
農?環?医にかかわる国内情報:9.環食同源
高知大学農学部では、環境保全型高付加価値食料生産システムの構築を目指して「環食同源プロジェクト研究」を行っている。内容は以下の通りである。

人間を含むすべての生物にとって、食料と環境は健全なライフサイクルを維持するために不可欠な要素です。安全な食料を生産することが、同時に健全な環境を創り出すことにつながらなければ、永続的に地球環境全体を維持していくことは不可能でしょう。

「環食同源」プロジェクト研究では、環境の維持?修復と、健全で高い付加価値を有する食料生産の両立を体系的な学問分野として捉えます。そして、「環食同源」という新しい概念に基づいた環境保全型食料生産システムの構築を目指します。さらに構築した環境保全型食糧生産システムを持続的に実施するために、食と環境を中心とした環食教育の体系化を目指します。
シンポジウムの開催:人と動物の健康について考える
「人と動物の関係学」が進展しつつある。これは、歴史を含めあらゆる方向から人と動物の関わりについて研究する学問分野である。この分野の研究が発展しはじめたのは、1970年代といわれる。今では動物学からの取り組みだけでなく、農学、医学、社会学、教育学および心理学などさまざまな分野からの接近がこころみられている。

動物と触れあうことで心の傷を癒すアニマル?アシステッド?セラピー(動物介在療法)は、これを心理学の分野から理解する窓口としてもっともよい例であろう。また、ペットを飼うことで血圧が安定するという研究成果は、医学の面からこれを理解するうえで参考になる。このような事象は、ストレスの大きな現代社会にコンパニオンアニマル(伴侶動物)の必要性を主張する根拠にもなる。農と環境と医療の連携に重要な部門である。

このたび、「人と動物の健康について考える」と題して市民公開シンポジウムが以下の通り開催される。

開催日時:2007年5月13日(日)午後2時~5時 
開催場所:博狗体育在线_狗博体育直播【官方授权网站】@薬学部コンベンションホール 
定 員:200名(先着順)
参 加 費:無料
13:30受付開始
14:00開催ご挨拶:的場美芳子(博狗体育在线_狗博体育直播【官方授权网站】@大学院医療系研究科特別研究員)
14:10話題提供:「心と身体の痛み」養老孟司(博狗体育在线_狗博体育直播【官方授权网站】@客員教授)
15:10話題提供:「子供と動物の感性と知性」山根義久(東京農工大学教授)
16:00休憩
16:10討論会:「人と動物の健康を考える」
17:00終了ご挨拶:ミシェル ラショセ(メリアル?ジャパン代表取締役社長)
博狗体育在线_狗博体育直播【官方授权网站】@大学院医療系研究科医療人間科学群人間科学原論?特定非営利活動法人ひとと動物のかかわり研究会(主催)、メリアル?ジャパン(株)(共催)、動物のいたみ研究会?財団法人動物臨床医科学研究所?博狗体育在线_狗博体育直播【官方授权网站】@大学院医療系研究科(後援)

問い合わせ:メリアル?ジャパン(株):TEL.03-5251-8165(広報)
本の紹介 27:環境の歴史-ヨーロッパ、原初から現代まで-、ロベール?ドロール+フランソワ?ワルテール著、桃木暁子?門脇 仁訳、みすず書房(2007)
人文?社会科学と自然科学の間には、時代や問題を問わずどちらからみても残念ながら障壁が存在する。その障壁を少しでも低くできる学問に、環境の科学があるのではないか。地球温暖化の問題を例に取れば、自然科学の明晰な事実のもとに人文?社会科学が政策を含めたこれらの対応策を思考する。

しかし、このことに着手しこれを可能とするためには、広い領域の研究を理解できる強力な武器や能力が必要とされる。それには、大学などで確固とした人文科学と自然科学の基礎的な教育を受けている人材がなくてはならない。

幸いなことに著者のロベール?ドロールは、歴史学者であり、大学で人文科学と自然科学を学び文学博士と理学士の資格をもつ。フランソワ?ワルテールは、歴史学者で近現代史、都市史、景観史、環境認識の歴史などに詳しい。

ここに紹介する「環境の歴史」は、「環境の歴史学の歴史」、「時間の中の空間-"変動と変動制-"」、つまり自然と人間の自然要因と生物学的要因の変動の研究、および「環境の人間化」、つまり人間が環境に及ぼす作用の歴史的変化の3部と、「結論:脅かされた地球」から構成される。

この3部を解説するまえに、著者はこの書の研究範囲がヨーロッパの過去、現在、未来に基づいていることを、地理学的および言語学的な観点から明確化する。この見方は「自然の家畜化」であって、日本文化を特徴づける「自然との共生」という見方とは、きわめて異質であることを読者は読む前に十分心に銘記しておかなければならないであろう。

第1部「環境の歴史学の歴史」

ヨーロッパ人は、自然に対してきわめて強い人間主義を押しつけた。ヨーロッパ文化は、人間の身体という感覚を発達させて獲得した見方、聞き方、感じ方、触り方で、人間と自然との関係を形成した。ヨーロッパに共通のある種の芸術的概念構成、とくに色に関しても、環境の歴史にヨーロッパの特徴が現れた。

旧約聖書の創世記は、人間を自然の創造主とした。エデンの園は人間の快楽のために創られた。神はアダムに動物の名前を与える力を委ねた。ここに人間は、支配命名の権力を得た。

自然を支配するために人間は努力する。人間の努力は、自然にも農村の自然にも良い影響を与えない。自然を支配したい欲望は、自然に関する知識を進歩させる。ここから得た知識と想像の世界が合流し文学が生まれた。動物図集、植物図集、宝石集ができてくる。

しかし、まもなく動物の世界と自然環境への愛が芽生え、イデオロギーとしての自然に回帰する現象がみられる。こうした自然に対する態度のなかに感情と美的意識を導入する景観への熱狂が生まれる。この傾向は、中世からルネサンスを経て、ロマン主義に移行する時期の美術にとくに顕著に表れる。これが花開くのは、ロマン主義においてである。

自然の要素を研究するための機関、王立薬草園、国立自然史博物館、植物園、動物園などが、創設され始める。さらに、衛生とスポーツの発展、旅行とレジャーの発展が、美しい海辺や高い山などの発見に繋がる。20世紀後半には、人間を生物圏に組み入れる思想が生まれ、生態系の研究が進展し、エコロジーの概念が熟成していく。

著者は、このような自然回帰に共感を隠さないが、それらのもつ過剰性、幻影性、逸脱性、危険性、さらにはユートピア的あるいはイデオロギー的な特徴を、ルドルフ?シュタイナーの生気論やルドルフ?ヘスのホメオパシー論やアドルフ?ヒットラーの菜食主義などの例を挙げながら警告する。

「懐古趣味の参照基準のあいまいなカタログ」の項では、次のことを強調している。「今日では、環境への感受性にもはやイデオロギー的な境界はないようにみえる。右派も左派も、人々は、資源の合理的で調和のとれた管理と、自然の平衡の尊重を引き合いに出す。とはいえ、忘れないでおきたいのは、自然回帰の神話に関心を高めることが、大半は、一方では保守的な思想によって、他方ではナショナリズムまたは民族主義の思想によってくり返され、しかも必ずしも政治的に制度化された枠組みの中においてではなかったことで、これは、右派が一方的に保守主義を独占するわけではないし、保守主義がいつも過激なナショナリズムを独占するわけでもないからである。」

生態系に関する正当な言論は、いまやアウトサイダー的な科学者の特性ではもはやなく、全ての制度的な範囲、すなわち国家的な行政から協会まで、開発者から企業のリーダーまでを結集する。いまでは、環境を管理する新たな企業が誕生している。

この項の執筆者と環境を研究する仲間たちとが1990年に手弁当で参加したIPCC(Intergovernmental Panel on Climate Change:気候変動に関する政府間パネル)の最初の報告書「Climate Change」を作成した時代は、はるかなる過去へと遠ざかったのである。

第2部「時間のなかの空間-変動と変動制-」

ここでは、環境の変動と変動性を含む問題がきわめて幅広いことを、総合的かつ正確?緻密に紹介している。環境の歴史を構成する要因が多様であること、これを一つの要因又は支配的な要因に還元してはならないこと、そうではなく、その同時性と収斂を研究し明らかにしなければならないこと、などが強調される。さらに、この歴史のなかでさえも常に変化が伴うこと、不動の歴史は存在しないことが解説される。

人間の生得的な生物学的リズムは、人間にとって生態学的な性質をもつ環境要因、つまり活動、光、騒音、熱と休息、暗さ、静寂、寒さなどに適応する。すなわち、人間の体に備わった先天的に安定であるデータも絶えず変化している。

また、人間の環境の中で作用する宇宙の活動にも変動がある。例えば太陽と月の運動、気候の変動など数限りない。地球の温暖化は今日もっとも大きな関心事であるが、何千年来たえず変動し、他に作用を及ぼし続けている。

土壌も水も変動する。地震、火山、浸食、沖積土壌の形成、水の循環、海面水位の変化なども環境の重要な変動である。森林の変化は、生物相の変動の基本である。動物たちの歴史、例えばネズミやオオカミの移動や数の変動は、人間の対策との関係と結びつく。

われわれ人間の健康にかかわる変動の重要性は、避けて通れない。微生物(細菌、微生物、感染性病原体)は、世界の歴史をつくってきたし、今もつくり続けている。病気の振興の概念は、病理学と社会学の領域にはいった。今われわれが恐れている狂牛病や鳥インフルエンザが、まさにそれである。例えに、天然痘、黒死病、ペスト、コレラ、梅毒、マラリアなどが紹介される。

最後に寿命の延長や幼児死亡率の減少など、生物学的な人間の変化が明らかにする問題、人口の増加問題、エネルギー使用の不公平な使用問題などが語られる。

第3部「環境の人間化」

第3部では人間が環境に及ぼす影響、環境が人間の活動によって受け続ける変化、すなわち環境の人間化が解説される。その歴史は、環境が通らなければならなかった段階、さらに環境の未来が形づくられる段階を教えてくれる。

第3部は「近代以前のヨーロッパの環境におよぼされる人間の行為」、「農業?技術?産業?エネルギー「革命」(18-"20世紀)」および「撹乱された環境」からなる。

「近代以前のヨーロッパの環境におよぼされる人間の行為」では、人間と自然の関係は革命という概念が適用されるという。そのことは、「新石器革命」、「中世に農業革命あり」の項で野生の土地(サルトウス)、耕作された土地(アゲル)、森(シルヴァ)の破壊、森林空間という視点から証明される。

「農業?技術?産業?エネルギー「革命」(18-"20世紀)」では、新しい農業システムとして飼料用のマメ科植物の導入が強調される。クローバーとムラサキウマゴヤシが新しい農業のシンボルとなり、家畜の飼育は商業活動になる。休耕地は消え、ロシアを除く地で飢餓がなくなる。

この農業革命と蒸気機関に代表される同時代の熱工業革命が、農業の変化に組み込まれる。化石エネルギーへの転換である。化石エネルギーの消費はヨーロッパの環境の歴史に急激な変化を起こすのである。資源管理は人間と自然環境の関係も変えた。それは、森林資源とカマルダという一つの地域の複合的な事象にである。

「撹乱された環境」では、都市環境の破壊が強調される。都市における廃棄物、臭気、水質汚染、煤煙、スモッグ、騒音の問題である。これは、工業化を問題視することであるとともに工業的リスクの意識化でもある。

最後に、ルール地方の工業化と環境の歴史を検証する。これは、前世紀の人々が環境容量を無限だと信じた無邪気な選択が、西ヨーロッパの工業化された社会を陥れた悲劇的なものであることの検証でもある。

このような歴史を経て、自然を支配するための欲望と努力は衰退し、自然と田舎が再発見され、環境資源の重要性が再認識される。その結果、「環境の美学」が盛り上がる。これらの運動はナチのドイツとファシストのイタリアにおいて、「大地への回帰」という反動的な幻想と愛国的?生態学的ユートピアの表現をともなうイデオロギー的、政治的逸脱を経験する。しかし、スイスは自然保護同盟を設立し、健全な環境政策を実現することにおいて先駆的であった。これが、ヨーロッパの自然保護区、自然公園の成功の始まりであった。

結論 脅かされた地球

ここでは二つの歴史的な著書、「脅かされた地球」と「侮蔑された地球」の内容を一部紹介した後に、これまで認識されている地球規模でのおおよそ全ての環境問題が紹介される。そして、「脅かされた地球」の存在と新しい形の「エコ開発」を再発見する必要性が説かれる。最後に、これに答えることは政治的行動に属すると、結論している。目次は以下の通りである。

まえがき ジャック?ル=ゴフ 序
第一部 環境史の歴史
  • 第一章 十六世紀以前の環境に対する感受性
  • 第二章 近現代における自然界の服従
  • 第三章 アルカディア人の隠れ家からイデオロギーとしての環境へ
  • 第四章 最近の展望の変化
第二部 時間の中の空間――変動と変動性
  • 第五章 自然要因の変動
  • 第六章 生物学的要因の変動
  • 第七章 人間の生物学的要因の変動性
第三部 環境の人間化
  • 第八章 近代以前のヨーロッパの環境におよぼされる人間の行為
  • 第九章 農業?技術?産業?エネルギー「革命」(18-20世紀)
  • 第十章 撹乱された環境
結論 脅かされた地球
資料の紹介 8:特集 開発進むキチン?キトサンの利用、研究ジャーナル、Vol.30, No.4,5-40 (2007)
キチンとキトサン

キチンとは、エビやカニをはじめとして昆虫、貝、キノコにいたるまで、数多くの生物に含まれている天然の素材である。地球上で合成されるキチンの総量は、年間で1000億トンにも上ると推測されている。豊富な生物資源であるにもかかわらず普通の溶媒には溶けないため、ほとんど利用されていない。

キチンの構造はセルロースに似ている高分子状のものである。N-アセチル-D-グルコサミンが鎖状に長く(数百から数千)つながったアミノ多糖である。このため高度な機能を有し、そのうえ天然素材であるが故に環境と調和するなどの面から注目を集めている。工業的にはエビやカニの甲羅から分離される。

キトサンはキチンから生まれる。キチンをアルカリで処理するとアセチル基が除かれ、主としてD-グルコサミン単位からなるキトサンになる。

キチンとキトサンの区別

キチンには、ある程度D-グルコサミン単位も含まれている。キトサンの主な構成単位はD-グルコサミンであるが、N-アセチル-D-グルコサミンも含まれている。その割合はさまざまである。また、キチンとキトサンの性質は構成単位の割合だけでなく、アルカリ処理の方法や分子量によっても異なる。そのため、構成単位の割合によってキチンとキトサンを正確に区分することは難しい場合がある。区分けする意味がない場合もある。一般的には酸性水溶液に溶けるものをキトサン、溶けないものをキチンとよんでいる場合が多い。

生物学、農学、化学、生化学、物理化学、材料科学、医学、歯学、薬学などへの活用

これまで、キチンとキトサンはバイオマス資源としてほとんど利用されていなかった。しかし、近年その性質の重要性が認知され、基礎から応用にわたり多くの分野で研究が活発に行われるようになった。例えば、生物学、農学、化学、生化学、物理化学、材料科学、環境科学、医学、歯学、薬学などの分野があげられる。また、いくつかの分野にまたがる境界領域に重点をおいた学際的な研究例が多い。まさに、農と環境と医療、農医連携の課題に欠くことのできない素材なのである。

前口上はこれぐらいにして、資料の紹介に入る。「研究ジャーナル」は、広範な分野で活用が試みられている非化石資源であるキチンとキトサンの特集を組んだ。驚くほど多くの分野でキチンとキトサンの利用や開発が浮かび上がってきた。目次と内容は以下の通りである。

日本キチン?キトサン学会とその研究動向:安藤昭一

キチン?キトサン学会の発足の経過、基礎分野の研究動向(キチン?キトサンの生合成?生分解に関する分野、キチン?キトサン誘導体合成とその物性?加工に関する研究分野、動物での生理活性と機能発現機構の解明に関する研究)、応用分野の研究動向(抗菌作用関連分野、医用材料関連分野、臨床研究分野、化粧品材料関連分野、食品添加材料関連分野、農薬材料関連分野、分離材料関連分野、水処理材料関連分野、生体触媒関連分野、音響材料関連分野など)が総合的な視点から解説される。

食品用キトサンの製造と開発:亀山 博

キトサンの混入物防止、脱アセチル化反応と重金属、キトサンの脱臭方法、キトサンの物性改良、今後の開発と課題、などが安全性に主軸をおいた視点で語られる。

N-アセチルグルコサミンの開発と応用:又平芳春

N-アセチルグルコサミン(NAG)とは、NAGの工業的製法、NAGの物理化学的性質、NAGの生理機能性(代謝性、肌質改善効果、変形性関節症改善効果)、NAGの食品への応用、などが製造者の立場から解説される。

食品素材からのキチン分解酵素探索とGlcNAc増強の試み-素材のもつ酵素パワーを個性豊かに活かせ-:徳安 健?興座宏一?松本順子

食品の酵素変換技術、キチンの低分子化によるGlcNAcの生産、網羅的解析-唐辛子に高い活性-、それならキムチでも?、本技術の応用可能性、などが食品の開発を主軸においた立場で説明される。

キチン?キトサンの農業への利用:福元康文?西村安代?竹崎あかね

野菜に対する生育促進(脱アセチル化度の違いによる影響、土壌混和率の影響、野菜に対する生育効果のまとめ)、キトサンによる土壌病害の抑制、など不明な点が多い点を認識したうえで、さまざまなデータがまとめられている。

キチナーゼを利用した新規バイオ農薬:古賀大三

植物の生体防御機構、キチナーゼの利用、バイオ(酵素)農薬の実例(イチゴうどんこ病に対するヤマイモキチナーゼの治癒効果、松くい虫の媒介害虫マツノマダラカミキリに対するカイコキチナーゼの致死効果)などを紹介し、化学農薬の代わりにキチナーゼが環境に調和したバイオ農薬として使用できる可能性が示されている。

キチン質の動物医薬への応用:南 三郎?岡村康彦?柄 武志?岡本芳春

ポリマーの効果(キチンの応用、キトサンの応用、キチンおよびキトサンの創傷治癒促進メカニズム:補体活性効果?マクロファージ遊走効果?低分子化?肉芽形成?清浄化?創傷治療の手順)、モノマーの臨床応用、などが実験成果と臨床例で示されている。

キトサンの木材用接着剤への応用:梅村研二

キトサンの接着性能I-"既往の木材接着に関する研究より-"、キトサンの接着性能II-"既往の紙パルプ接着に関する研究より-"、キトサンの接着性能III-"細菌の研究より-"、など人体や環境への安全性を考えた立場からの論文である。

日本キチン?キトサン学会

わが国には、「日本キチン?キトサン学会」が1997年に創立されている。ここでは、キチンとキトサンに関する学問的分野の研究者はもとより、応用研究に携わっている民間企業やすでに商品化に成功し製造を担当している技術者の多数参加している。詳細は、「日本キチン?キトサン学会」のホームページ(http://jscc.kenkyuukai.jp/about/index.asp?)を参照されたい。
言葉の散策 15:情報
語源を訪ねる 語意の真実を知る 語義の変化を認める
そして 言葉の豊かさを感じ これを守る

「字通」は「情」について次のように解説する。声符は靑(青)。説文に「人の陰气にして、欲有る者なり」とあり、性を陽、情を陰とする漢代の性情論によって説く。「礼記、礼運」に人の七情を「学ばずして能くするもの」、すなわち本能である。

「大字源」の「情」の字義は詳細にわたる。1) こころ。人の性が外に現れたもの。2) よく。欲望。 3) 本姓。4) まこと。まごころ。まことのある。うちとけた。5) こころざし。6) ありのまま。事実。7) ことわり。真理。8) なさけ。おもいやり。9) 男女の愛情。10) かたち。ようす。 11) おもむき。情趣。

「大字源」の「報」の字義は次のようである。1) さばく。さばき。罪人に対して裁判をする。2) 処罰して報告する。3) しらせる。つげる。しらせ。つげしらせる。4) むくいる。むくい。5) まつる。まつり。報徳の祭り。6) あわせる。7) 報拝。8) かえる。もどる。9) 親族の妻と密通する。10) おおかぜ。暴風。11) 新聞。電報。

さて、「情」と「報」を合わせた「情報」なる言葉が、いつ頃から、どのように使われてきたのであろうか。その語源を知らないまま、これまで「情報:農と環境と医療」を発刊していた。今回、「情報」に関する情報を明らかにしたので紹介する。

「日本国語大辞典」によれば、森鴎外の作品「藤鞆絵」や野間宏の作品「真空地帯」にみられるという。前者は「情けに報いる」の意に、後者は陸軍における「敵情の報告」に使われたと推察される。

ところで、「情報」の語源については、小野厚夫の日本経済新聞と富士通ジャーナルに詳しい。ここに書かれたものと他の資料をもとに、「情報」の言葉の流れを年次別に整理してみた。詳細は文末の参考資料を参照されたい。

情報という言葉が最初に出てくるのは、1876(明治9)年に日本国陸軍省から翻訳出版された「仏国歩兵陣中要務実地演習軌典:酒井忠恕(清)訳」に、フランス語の renseignements (英語:information)の訳語である。敵情報告、情実報知の意味で使われた。つまり諜報といった意味である。

野戦要務については、最初オランダの兵書が大鳥圭介(政治家。播磨の人。蘭学?兵学を学び、幕臣となる。戊辰戦争に参加。清国?朝鮮公使、枢密顧問官など歴任。1838~1911)により訳され、兵学寮で使われた。陸軍の兵制がフランス式に統一されたことに伴って、1873(明治6)年に「仏国陣中軌典」が訳され、さらに1875(明治8)年になってフランスで新式の歩兵陣中要務が刊行されたため、陸軍少佐、酒井忠恕(旧名は鳥居八十五郎、別名は酒井清:1850~1897)がこれを訳して士官の教育に用いた。「仏国歩兵陣中要務実地演習軌典」である。

まもなく「情報」という言葉は、一般用語として通用するようになる。森鴎外の小説では「藤鞆絵」と「渋江抽斎」に「情報」という言葉が見られる。こうしてみると、「情報」という言葉の起源は1876(明治9)年までさかのぼることになる。ちなみに「情報」という言葉は、森鴎外が造語したという説がある。しかし、このことは上述した理由により、完全に否定されたことになる。

1881(明治14)年には、参謀本部が「五国対照兵語字書」を出版した。これには「情報」という言葉は現れず、Nachricht は「報知」と訳されている。ところが、1888(明治21)年の「兵語字彙草案」には「情報」が採録され、「物の状情に就ての報道を云ふ」という説明が付けられている。

森鴎外は、1888(明治21)年に「戦論」の翻訳に着手した。このときすでに「情報」という言葉を使っていたのではないかと考えられているが、それを裏付ける資料は残っていない。

1887(明治20)年頃になると、参謀本部や陸軍兵学校で兵語を統一する動きが出て、兵語草案や改正兵語辞典の編集が始まる。これによって「情報」に統一されたようで、その後「状報」の出現頻度は激減してしまう。

「萬朝報」に「情報」という言葉が現れるのは、1894~95(明治27~28)年の日清戦争の時である。その後の用例もほぼ軍の広報か、戦報の記事に限られている。このような事実から、「情報」の語源は軍事に関する専門用語と考えられる。

1899(明治32)年当時の新聞を眺めると、「戦争論(戦論)」が出版されたころにはすでに「情報」は新聞用語としてかなり一般化していたことがわかる。また、1899(明治32)年にオランダのハーグで第1回の国際平和会議が開かれ、「陸戦条約」が締結されたが、この批准書の中で、戦時に「俘虜情報局」を設置するというように、「情報」という言葉が使われている。

中国もこの条約を批准し、その中で同じく「情報」という言葉を使用している。したがって、この時にはすでに日本から中国に「情報」という言葉が移入されていたことがわかる。

「明治のことば辞典」を見ると、普通の辞書に「情報」という見出し語が現れるのは1905(明治38)年以降のことである。「情報」という言葉は中国でも使われている。中国人自身が日本由来の中国語として認めている。このようなことから、「情報」は明治時代になって創られた和語とみなすことができる。

ところが、情報が使われだすと同時に、状報も兵書に現われるようになる。実際の用例で敵情(状)と情(状)報の相関をみてみると、敵情と情報、または敵状と状報のいずれかの組合せが圧倒的に多い。

情と状にはいずれも「ありさま、ようす」という意味がある。1909(明治42)年刊行の「日本類語大辞典」を見ても、「国情、国状」、「事情、事状」、「実状、実情」、「状況、情況」、「状態、情態」、「状勢、情勢」、「世情、世状」のように混用されているという。したがって、情報と状報の使い方に大きな差異はなく、ほぼ同義語として使われていたものと判断される。

戦後、情報に関する理論が日本に導入されたときに、英語のinformation の訳語として充当させた。こうしてみると「情報」という言葉は、まさに欧米(フランスとアメリカ)から二度にわたって造語されたことになる。

漢語の「情」と「報」、欧米からの「情報」という言葉の内容と変遷は、そのまま日本の外来文化の歴史を反映しており、語源の調べにとどまらず、技術史、軍事史、翻訳史など様々な視点から考えさせられることが多い。またこの言葉の流れをみるに、情報の受信は得意だが、情報の発信を不得手とするわれわれの体質にも思い至る。

参考資料
  • 日本経済新聞:1990年9月15日朝刊
  • 日本国語大辞典:小学館(1980) 
  • 字通:白川 静、平凡社(1997) 
  • 大字源:角川書店(1993) 
  • 明治のことば辞典:東京堂出版(1986) 
  • 小野厚夫:「情報」という語の由来と変遷、富士通ジャーナル、Vol.17, No.1(No.182)

pp.75-78 (1991)
コラム:決河之勢(けっかのいきおい)
大学では入学試験が終わり、合否が決定し、入学式が無事挙行された。入学式に出席した若者の顔は輝いていた。そこからは若者の誠実さが感じられた。決意も新たに、未知の世界に生きようとする若者の顔を眺めるのは、素晴らしい。決心が揺らがないうちに、学ぶことの喜びをしっかりと感知してもらいたい。博狗体育在线_狗博体育直播【官方授权网站】@で学ぶことを決断したからには、博狗体育在线_狗博体育直播【官方授权网站】@というお里を得たことになる。

若者たちはこれから博狗体育在线_狗博体育直播【官方授权网站】@で学び、やがて国内外の旅行をしたり帰省したりすることもあろう。再び大学に帰ってくる。するとなんだかほっとし、博狗体育在线_狗博体育直播【官方授权网站】@が俺の私のすみかなんだと思うようになるだろう。北里というお里ができていくわけだ。つまりはアイデンティティーができていく。

これまでは、家庭や故郷や高校が違っていたからみんなの匂いがちがっていた。1年もしたらみんなが似たような匂いを持つようになる。他の大学とはあきらかに異なる匂いを持つようになる。同じ博狗体育在线_狗博体育直播【官方授权网站】@のもつ文化を共有するからだ。高級でいい感じの匂いになってほしい。一重に博狗体育在线_狗博体育直播【官方授权网站】@の歴史と教師の志にかかっている。心しなければならない。

お里は気楽だから、はじめの決心や決意や決断を忘れて、だんだんのんびりしてくる。心にゆるみや甘えができる。これは、大学の歴史や教師の志とは深く関係しない。学生ひとりひとりの心がけにかかっている。

決河之勢(けっかのいきおい)という言葉がある。土手が切れて水があふれ流れるようなすさまじい勢いの意だ。いま持つこの若者のあふれ流れ出るような決意を持続させてやらなければならない。そのような環境をつくることが、高級でいい感じの匂いをもつお里をつくることにもなる。このようなすばらしい機会は、博狗体育在线_狗博体育直播【官方授权网站】@が存在する限り毎年訪れる。この機会を伊達や酔狂で疎かにしてはなるまい。
*本情報誌の無断転用はお断りします。
博狗体育在线_狗博体育直播【官方授权网站】@学長通信
情報:農と環境と医療26号
編集?発行 博狗体育在线_狗博体育直播【官方授权网站】@学長室
発行日 2007年5月1日