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農医連携教育研究センター 研究ブランディング事業

22号

情報:農と環境と医療22号

2007/1/1
新しい年を迎えて:平成19年元旦
新しい年が明けました。新春を言祝ぎ、おめでとうございます。お祝いに、お屠蘇をいただきましょう。新年らしく、「新」の字について。藤堂明保によれば、この漢字は語源的には「木ヲ斤(き)ル」から派生する。木の切り口のなまなましさをあらわすという。切ったばかりの木の切り口は樹液にぬれている。吸い込んでみると、いのちが蘇るような香気を放っているという意味だそうである。

「言祝ぎ(ことほぎ)」の「こと」は「言」で、「ほぎ」は動詞「祝く(ほく)」の連用形にあたる。平安時代以降、「ことほく」から「寿ぐ?言祝ぐ」や「寿く(ことぶく)」とも言うようになり、「ことぶく」の連用形が名詞化して「壽(ことぶき)」になったといわれる。「ほく」は「祝福する」意味の動詞であるが、「祈って幸福を招く」といった意味が強く、「ことほき」も言葉によって幸福を招き入れる、言葉によって現実をあやつるといった、日本古代の言霊思想が反映された言葉であったといわれる。

その後、「ことほき(ことぶき)」は「言葉で祝うこと」、「祝い事」「祝いの品」、さらに「長寿」と意味が広がり、言葉で祝うことに限らず広い意味で「ことぶき」は「祝い」を表す言葉となったようである。

「めでたい」は、「めでいたし」がつづまった形だそうである。「めで」は「愛づ(めづ)」の連用形で、「いたし」は「はなはだしい」という意味である。全体として、「どんなにほめてもほめたりない」という、ほめことばが発端で、それが、現在では「喜び祝う意味」に使われているのである。

「屠蘇酒」という言葉は、紀元前90年ころに完成された司馬遷の「史記」にでてくる。驚くほど古い言葉である。蘇とは邪鬼をいい、この酒は邪鬼を打ち砕くので、そういう名がついた。元旦にのむと、疫病や不正の気をさけることができるという。

このように、お正月に使われる言葉ひとつとっても「われわれは、何処から来て、何処に行こうとしているのか」という、生きる世界の「来し方行く末」を感じる。この命題は、ひと、集団、組織、社会全体にいつも付きまとうものである。

農医連携に関わる言葉も例外ではない。わが国には「身土不二」という言葉がある。この言葉の語源は、古い中国の仏教書「廬山蓮宗寶鑑」(1305年)にある。本来の意味は、仏心と仏土は不二であることを示したものだそうである。この言葉は、食と風土と健康に強い関心を抱くかぎられた人たちの間で、いわば内輪の規範として用いられていたが、近年一般の人たちの間にも広がりつつある。土が人の命、命は土、人間は土そのものと解釈される。広く解釈すれば、「医食同源」や「四方四里に病なし」なる言葉もこれらの範疇に属するであろう。

明治?大正の小説家、徳冨健次郎(蘆花)の著書、「みみずのたはこと」の中にも同様な意味の文章がある。「土の上に生れ、土の生むものを食うて生き、而して死んで土になる。我等は畢竟土の化物である。土の化物に一番適當した仕事は、土に働くことであらねばならぬ。あらゆる生活の方法の中、尤もよきものを撰み得た者は農である。」

これらの言葉は、かつて人智学を唱えたドイツの思想家、ルドルフ?シュタイナー(1861-1925)が「不健康な土壌からとれた食物を食べているかぎり、魂は自らを肉体の牢獄から解放するためのスタミナを欠いたままだろう」と言った文章の内容とも意を同じくするであろう。

また、ノーベル賞生理医学賞を受賞したフランスのアレキシス?カレル(1873-1944)は、地球がほとんど回復できないほど病んでいることを今から94年前の1912年に明確に認識していた。「人間-"この未知なるもの」のなかでカレルは、次のような警告をしている。土壌は人間生活全般の基礎だから、近代的な農業経済学のやり方によってわれわれが崩壊させてきた土壌に再び調和をもたらす以外に、健康な世界がやってくる見込みはない。土壌の肥沃度(地力)に応じて生き物はすべて健康か不健康になる。すべての食物は、直接的であれ間接的であれ、土壌から生じてくるからである。

このように「身土不二」に代表される言葉に表現された現実はすでに存在する。一方で、これらの問題を克服しようとする試みが国際的な科学会議にも現れてきた。

1924年に設立され82年の歴史を持つ国際土壌科学会議は、第18回目の国際会議を-"土壌?安全食品?健康-"をモットーに2006年7月9日から7日間、アメリカのフィラデルフィアで開催された。そこでは、新たに Soils, Food Security and Human Health(土壌、食料の安全および健康)の分野が開設され、この部門では、「土壌と健康」と題するシンポジウムが開催された。またこの分野は、「食物と健康の栄養分に影響する土壌の質」と題したポスターシンポジウムをも併設している。

国際科学会議の動向を見るまでもなく、現在のわれわれ社会が直面しているさまざまな事象、すなわち鳥インフルエンザ、ニュートリゲノミクス、動物媒介感染症、気候変動と健康影響、機能性食品、環境保全型農業、残留性有機汚染物質(POPs)、環境?植物?動物?人間と過剰窒素、コーデックス(Codex)、動物介在療法などは、いずれも農と環境と健康が三位一体となって生じている事象なのである。

さて、農と医における「来し方行く末」の「来し方」である。農と医はかつて同根であった。そして現在でも類似した道を歩いている。医学には代替医療があり、農学には代替農業がある。前者は、西洋医学を中心とした近代医学に対して、それを代替?補完する医療である。後者は、化学肥料や農薬を中心とした集約的な農業生産に対して、これを代替?補完する農法である。いずれも生命科学としての特徴を共有している。21世紀に入って医学はヒトゲノムの、農学はイネゲノムの塩基配列を解読する全作業を完了している。農と医は本来連携できる素地をもっている。

次に、農と医における「来し方行く末」の「行く末」である。それは、上述したわれわれの社会が現在直面している様々な事象を解決することにある。そのためには、農と環境と医の連携が必要であるという人びとの認識や自覚、さらには連携を達成するための社会の構造をつくり、その成果を達成するためのシステムを構築する必要がある。

ところで、日本学術会議は1年前に従来の7部制から「人文科学」、「生命科学」および「理学及び工学」の3部制に移行した。農学と医学はいずれも「生命科学」に属する。いまこそ、農医連携の名の下に、それぞれの学問分野で獲得した技術知や生態知を統合知に止揚する時代が来たのである。その際、忘れてならないことは、これまでもそしてこれからも両方の学問が環境を通して展開されていることである。環境を通した農学と医学の連携が、この分野の原論と研究と教育にとって今ほど求められている時代はないと思う。

「身土不二」やカレルに代表される言葉の意味を考えるとき、それらの先駆性にしばしば驚愕させられる。その言葉やカレルは、いまもなおわれわれの前方をゆっくりと歩みながら、われわれの遅れた到着を待ちわびている。彼らが開拓してきた道は、いまではすっかり夏の雑草に覆われてしまっているように見える。その雑草を早く切り払い、われわれはもう一度、その道を歩みなおさなければならない。農医連携の研究や教育を促進させるために、残された時間は多くない。
第3回博狗体育在线_狗博体育直播【官方授权网站】@農医連携シンポジウムの開催 鳥インフルエンザ:農と環境と医療の視点から-現代社会における食?環境?健康-
開催日時:平成19年3月9日(金)10:00 ~ 17:20

開催場所:博狗体育在线_狗博体育直播【官方授权网站】@白金キャンパス 薬学部コンベンションホール

開催趣旨

人類の活動はウイルスであれ雑草であれ、地球の生命体をさまざまな様態で撹乱している。これらは、小さなインベーダーとして生態系を錯乱させる。

2001年9月にわが国において牛海綿状脳症(BSE)が発生した。牛の脳組織に空胞ができ、中枢神経が障害を受ける病気である。BSEに感染した牛のうち、とくに危険部位といわれる脳?神経組織および回腸遠位部など内臓類を食することにより、極めて稀だが人間に感染し、痴呆化し死亡するといわれる。これも、小さなインベーダーによるものだ。

いま、新たな心配事が生じている。ここ数年、アジアで流行していた鳥インフルエンザが、昨年の秋に欧州およびアフリカでも確認された。感染が繰り返されることで病原体のウイルスが変異し、人間社会で爆発的な流行を引き起こす新型インフルエンザ出現の可能性が高まっている。また、インベーダーの撹乱だ。

世界保健機関(WHO)をはじめ多くの国が、流行に備え体制を整えつつある。日本も例外ではない。厚生労働省は2005年の11月14日、近い将来に出現する危険性が高まっている「新型インフルエンザ」が国内で流行した場合、非常事態を宣言することなどを定めた行動計画を公表した。

生態系は、大きな生命の交響楽団である。無数の生き物が様々な環境のなかで作りあげている生態系のもつ秩序は、目をこらしてみても見えない無数の環境資源と生物の相互が依存しているネットワークと言える。生態系に生きる生物とこのネットワークそのものは、調和が崩れても、自動的に調和がとりもどされるように仕組まれている。だから、自然世界の調和は、永遠に終わることのないハーモニーを奏で続けることができるのである。

はたしてその永遠とは、期限付きの永遠なのか? 鳥インフルエンザの問題は、われわれに悲壮な現実を突きつけている。

過去におけるBSEの問題、今回の鳥インフルエンザの問題、そして将来も起こるであろうこれらの「小さなインベーダー」の問題について、真剣に取り組まなければ、人類の未来は暗い。これらの問題は、常に農と環境と医療に密接に関わっている。これらの関連を切り離しての問題解決はない。

したがって、今回は農と環境と医療に関わる専門家に参加していただき、第3回博狗体育在线_狗博体育直播【官方授权网站】@農医連携シンポジウム「鳥インフルエンザ:農と環境と医療の視点から」を開催し、この問題の解決の一助としたい。
講演プログラム

10:00~10:10開催にあたって博狗体育在线_狗博体育直播【官方授权网站】@学長
柴 忠義
10:10~10:40農と環境と医療の視点から鳥インフルエンザ
を追う
博狗体育在线_狗博体育直播【官方授权网站】@教授
陽 捷行?高井 伸二
10:40~11:20動物由来ウイルス感染症の現状と問題点東京大学教授
吉川 泰弘
11:20~12:00高病原性鳥インフルエンザの感染と対策動物衛生研究所研究管理監
山口 成夫
13:00~13:40野鳥の渡りや生態と感染の発生日本野鳥の会 自然保護室
金井 裕
13:40~14:20野鳥の感染とその現状自然環境研究センター研究主幹
米田 久美子
14:40~15:20新型インフルエンザの脅威国立感染症研究所感染症情報センター長
岡部 信彦
15:20~16:00高病原性鳥インフルエンザとワクチン対策博狗体育在线_狗博体育直播【官方授权网站】@附属北里生命科学研究所副所長
中山 哲夫
16:00~17:20総合討論吉川 泰弘?陽 捷行
連絡先

〒228-8555 神奈川県相模原市北里1丁目15番1号 博狗体育在线_狗博体育直播【官方授权网站】@学長室
古矢鉄矢?田中悦子
Tel:042-778-9730 Fax:042-778-9761
第2回博狗体育在线_狗博体育直播【官方授权网站】@農医連携シンポジウムの内容:(3)代替農業-その由来とねらい-
第2回博狗体育在线_狗博体育直播【官方授权网站】@農医連携シンポジウムの開催趣旨、講演プログラム、挨拶、「代替医療と代替農業の連携を考える」、「代替医療-その目標と標榜名の落差について-」および「代替医療と東洋医学-科学的解明によるevidenceを求めて-」については、それぞれ「情報20:農と環境と医療」および「情報21:農と環境と医療」で紹介した。ここでは、「代替農業-その由来とねらい-」を紹介する。


代替農業-その由来とねらい-
 
京都大学名誉教授
滋賀県立大学名誉教授
久馬 一剛

1.代替農業前史ヒトが狩猟採集によって食料を得ていた時代には、その自然へのインパクトはほとんど無視できるほどであったが、ざっと1万年前に世界の各地で農業が始まってから、人間は自然の生態系を大きく撹乱し、つぎつぎに森林や草原を開墾して穀類をはじめとする多種多様な作物を栽培するようになったし、家畜を自然草地に放牧するだけでなく、広い土地を牧草地に変えてますます多くの家畜を飼養するようになった。乾燥地に水を引く灌漑農業は、農業の歴史とともに古く、メソポタミアやインダスの古代文明はそれによって支えられた。

このように、農業が自然の破壊者ないしは改変者として始まり、世界の各地にその傷跡を残しながら続けられてきたことは疑いもなく、古来多くの文明はそれを支える食糧生産基盤の崩壊によって衰微したことが知られている。しかし、人間が、農業が始まってからこの方の多くの経験から学びながら、第二の自然ともいうべき、持続性の高い農業生態系を作り上げてきたのもまた事実である。ヨーロッパの耕種と家畜飼養を組み合わせた混合農業は、各地域の特性を踏まえて確立された輪作体系を基盤として、高い持続性を示すようになっていたし、モンスーンアジアの水田稲作に立脚する農業体系は、その高収性と安定性によって高密度の人口を支えることを可能にした。

19世紀に入ると、産業革命による鉱工業の発達、科学技術の進歩を背景にして、農業にも次々と農業の外からの新しい物料が持ち込まれるようになる。南米からもたらされたチリ硝石やグアノに始まり、カリ鉱石やリン鉱石が採掘され、やがてそれらを化学的に処理した過リン酸石灰などが使われるようになって、農業の土地生産性を大いに高めるのに貢献した。また19世紀の終わりごろには、蒸気エンジンで駆動する農業機械も出現し、従来もっぱら畜力に依存していた農作業を機械化することによって、飛躍的な労働生産性の向上を約束するにいたった。このように、ヨーロッパとアメリカの農業は、20世紀を迎えるにあたって、従来の牧歌的、自給自足的な農業から脱皮し、近代的な集約農業への移行に備えつつあったといえる。

2.代替農業の由来 20世紀初頭における工業的窒素固定の成功は、先進諸国におけるその後の農業の化学化を先導するものとなった。大気中の窒素を固定して化学肥料とすることで、厩肥や堆肥に頼らない農業が可能になったことは、機械化の進展とも相まって、土地生産力の増強、農家の労働力負担の軽減などを通じ、農業のあり方を大きく変える端緒となった。さらに1930年台以降、DDT、BHCなどの化学合成殺虫剤が出現して、除虫菊など天然の殺虫成分に頼っていた作物の虫害防除に大きな威力を発揮するようになり、やがては各種の病害や雑草害の防除にも次々と合成農薬が開発され、広く使用されるようになった。 

ここに述べた農業の機械化と化学化は、20世紀後半における欧米先進諸国農業の大規模化、効率化を推進し、その行き着くところは商品作物の単作/連作化となって、ついにはトウモロコシで10t/ha、コムギで8t/haといった空前の高収量を達成するに至った。そして、欧米で生産過剰となったこれらの単作穀物は、冷戦時代には、戦略物資として国際政治?外交にまで大きな影響を及ぼすようになったのである。

19世紀に始まり、20世紀後半になって顕著になった、欧米諸国における機械化?化学化?単作/連作化によって特徴付けられる農業の超集約化傾向は、1980年代に入ると、余剰農産物に起因する農業不況によって蹉跌を来し、それとともに農業の内部にたまり続けてきたいろいろな問題が顕在化するにいたった。中でも大きかったのが、農業の化学化が原因となった地下水など地域環境の汚濁?汚染、さらには同じ原因による食品の安全性への疑念が、公衆の農業に対する不信?不安をかきたてたことであった。1985年には、アメリカで新たに施行された農業法の中に「農業生産性研究」条項が盛られ、農民への環境意識喚起の必要がうたわれたし、EC(現在のEU)でも同じ年の農業改革の中で、意識的な粗放化奨励策、休耕奨励策などが導入された。

「代替農業」は、先進諸国とくにアメリカにおける、これらの社会的?政策的な動向への対応として生まれたものである。とはいいながら、その萌芽的なものは20世紀前半から、たとえば農業の「近代化」に違和感を抱く有機農業の実践者らによって行われ続けてきており、必ずしも新たに始まったものとはいえない。しかし、代替農業alternative agricultureは、その言葉が生まれた当時の在来農業conventional agricultureに対置されるものであるから、1980年代に欧米で一般に行われていた農業を参照基準としていたことは間違いない。したがって、それは正統的な有機農業にはじまり、環境への配慮から、あるいは低投入によるコスト削減を狙いとして、化学肥料や合成農薬の使用を意識的に制限するようなものまで、広範囲の農法を内包するものと考えることができる。ただ、alternative agricultureが、しばしばsustainable agricultureと同義で使われることを考えると、「代替農業」は、環境配慮による農業と社会の持続性を強く意識したものに限定して使われるべき言葉であるとしてよかろう。

Alternative Agricultureという言葉そのものは、1983年に創設されたHenry A. Wallace Institute for Alternative Agricultureに始まる。そして1986年には、 'American Journal of Alternative Agriculture' が同所から刊行され始めた。また同じ頃、全米研究協議会(National Research Council)も特別委員会を立ち上げて、代替的農法の実態と、その普及に関わる政策的?経営的?技術的要因について広汎な調査を行い、その成果を1989年に'Alternative Agriculture'(National Academic Press)として報告した。この本の日本語訳が「代替農業―永続可能な農業を求めて」(久馬?嘉田?西村監訳:(財)自然農法国際研究開発センター)として出版されたのが1992年であり、代替農業という言葉がわが国で使われた、恐らくは最初の例であったと思われる。

3.代替農業のねらい

それでは代替農業のねらいとするところは何か。'Alternative Agriculture' によれば、代替農業は次のような目標を追求する農業生産体系の総体を指すものとされている。
  •  
  • 現在の生産水準の長期的な持続を可能にするために、作付け様式を農地の潜在的生産力や自然的特性に適合させる。
  • 環境や生産者?消費者の健康を損なう危険性の高い、農業の外からの投入資材の使用を減らす。
  • 農地管理の改善、ならびに土壌?水?エネルギー?生物などの資源の保全を重視した収益性の高い効率的な生産を目指す。
  • 空中窒素の固定や、害虫と捕食者の関係に見られるような自然のプロセスを農業生産過程にできるだけとり入れる。
  • 植物や動物の種がもっている生物的?遺伝的な潜在能力を積極的に農業生産に利用する。

農地の潜在的生産力や自然的特性に配慮し、農業外からの投入資材を極力減らし、窒素固定や天敵などの自然のプロセスを最大限に利用する、などの提唱は、在来農業における超集約的な農地管理手法とは最も際立った対照を見せる点であるといってよい。これらのことによって、農民には大きな経済的利益を、そして国家に対しては環境の質的な改善をもたらそうというのが代替農業の究極のねらいである。 

低投入の代替農業の中で具体的に行われている技術や手法には次のようなものがある。
  • 輪作:雑草や病虫害などの被害を軽減し、有効土壌窒素を増やすなど、化学製剤の投入を減らすことをねらいとすると同時に、最少耕などの保全耕法と組み合わせることで、土壌侵食の防止にも役立つ。
  • 総合的害虫防除(IPM): 気象観測、発生予察、抵抗性品種の利用、輪作の採用、栽植時期の調節、生物的防除などを有効に組み合わせる。
  • 保全耕法:土壌と水の保全を助けるような耕耘法を採用する。
  • 健全な家畜飼養:動物の健康維持と病気の予防に重点を置き、抗生物質を使用しない。
  • 作物の遺伝的改良:病虫害抵抗性が高く、養分を効率的に利用できるような作物品種を育種する。

ここに例示されているように、代替農業の中で使われる技術や方法にはとりたてていうほどの新しいものは何も含まれていない。むしろ、輪作に代表されるように、もともと伝統的な畑作や家畜飼養の中にあった基本的な考え方や技術への回帰の側面が目に付く。

4.代替農業の評価全米研究協議会は、代替的農法に関する広汎な調査?検討の結果を次のように総括している。技術的にうまく管理されている場合、代替農業を実践している農家の収入?収益は、ともに在来農業を営む農家と比べて遜色がない;ただし、そのためにはより多くの情報、労働力、時間、管理技能を要する、としている。また、政策的には、政府の補助金政策が代替的農法の採用を阻害している場合が多いとして批判的である。研究?教育面では、農業研究の専門化によって、学際性?有効性が失われている;農業の環境的?社会的コストの的確な評価ができていない、などと苦言を呈している。

肥料の製造?販売をしているPotash and Phosphate Institute(PPI)は、当然のことながら、代替農業に批判的である。たとえば、除草剤の使用を減らすために耕耘回数を増やすことが、侵食による表土の流亡を増やし、表流水の水質汚濁を悪化させる恐れがある;リン酸やカリの施用を減らせば、輪作の中に入れるマメ科作物の窒素固定能まで低下させて、収量低下につながる;などとして、代替農業そのものの持続性に疑念を投げかけている。

研究者の中からも、たとえばLoomis and Connorは、'Crop Ecology: Productivity and Management in Agricultural Systems' (Cambridge University Press, 1992: 堀江?高見監訳1995「作物生産の生態学:環境問題の克服と持続的農業に向けて」、農林統計協会)の中で、代替農業に対する批判を展開している。彼らは、低投入農業では太陽エネルギーの変換効率が低く、乏しい養水分資源を効率的に利用することはできない;粗放農業より集約農業の方が単位生産量あたりのエネルギー消費が少ない事実を無視している;低投入農法によって生産された農作物は、消費者にプレミアムのついた高い価格で販売されているが、このプレミアムは社会全体が耕地の管理費として低投入農家に支払う補助金のようなものである;などと批判し、農業が人類のために十分な食料の生産を保障するためには、農業の外からの肥料?農薬などの資材の投入と、高度な技術を駆使する集約的近代農業が不可欠であるとしている。この高度な技術の内容として、農業情報の量的?質的充実をはかり、エネルギー、土壌資源、遺伝資源、雑草、病害虫に関する理解を深めて、管理を改善することなどを挙げ、たとえば土壌管理については、施肥位置や施肥時期を的確に把握することで化学肥料による精密な肥沃度管理を可能にするといった、今日の精密農業につながる考え方を示している。

代替農業に対する一般農家の反応を知るために90年代前半に行われた調査によると、彼らが代替的農法を採用しない理由には、政府の補助金政策との抵触というのもあったが、やはり「収量の低下」、「雑草害の激化」、「収益の低下」などへのおそれとともに、「経営管理に、より多くの知識?情報?技術などが必要となる」ことが挙げられることが多かった。このことは、従来の単作大規模農業が、唯一つの作物だけを、そのために作られた専用機を使い、既成の施肥と防除の処方に従って管理さえすれば、高収量?高収益が約束されるとして普及してきたことのまさに裏返しであって、企業的農場経営者にとっては、多くの知識?情報?技術の習得を必要とすることが、代替的農法の採用に対する大きな障壁となっていたことを示すものである。

5.代替農業の可能性環境への配慮にはいろいろな形がありうるので、代替農業の広がりを精確に評価するのは難しい。しかしアメリカでは、1988年に始まった農務省主導のLISA(低投入持続的農業プログラム)が、その後SARE(持続的農業研究?教育プログラム)として引き続き強力に推進されているだけでなく、代替的な農法の採用を妨げているとして批判された政策的な問題点も改善されるなど、代替農業は政府による強力なバックアップを受けている。それに加えて、民間でも有機農業をはじめ多くの自発的な運動が展開されており、確実に代替農業の底辺は広がっていると思われる。また、わが国の「産消提携」運動に起源をもつとされる、小規模家族農場と消費者グループの間での契約栽培が、Community-Supported Agriculture (CSA)として広がりを示していることや、「地産地消」的な考え方による消費者の地方産農作物への選好がみられることなど、生産者だけでなく消費者をも巻き込んだ運動が展開されるようになっていることは、代替農業をめぐる社会状況が、運動の始まった80年代とは明瞭に異なることを示しているといえよう。

EUでも、1985年の農業改革は余剰農産物対策の域を出ていなかったが、1992年の共通農業政策では、特定作目に対する生産補助金を大幅にカットする一方、農家への直接所得保障(デカップリング)を導入し、とくに条件不利地域にある農山村の環境保全策を打ち出した。2003年にはさらにこの方向を進め、環境の保全、食品の安全、家畜の福祉の重視などに資する直接支払いを増強する政策がとられている。民間でも、ヨーロッパは伝統的に「生態学的農業」とか「生物学的農業」と呼ばれる有機農業への傾斜の強いところであるから、上述の政策的誘導の中で多様な代替的農法が実践されているものと思われる。代替農業はその発足から20年を経て、いま着実に進展しつつあるといえよう。
第2回博狗体育在线_狗博体育直播【官方授权网站】@農医連携シンポジウムの内容:(4)環境保全型農業を巡って
第2回博狗体育在线_狗博体育直播【官方授权网站】@農医連携シンポジウムの開催趣旨、講演プログラム、挨拶、「代替医療と代替農業の連携を考える」、「代替医療-その目標と標榜名の落差について-」および「代替医療と東洋医学-科学的解明によるevidenceを求めて-」については、それぞれ「情報20:農と環境と医療」および「情報21:農と環境と医療」で紹介した。また、「代替農業-その由来とねらい-」については、上の項で紹介した。ここでは、「環境保全型農業を巡って」を紹介する。


環境保全型農業を巡って
 
東京大学名誉教授
熊澤 喜久雄

1.環境保全型農業と持続可能な農業
 日本における環境保全型農業は「農業の持つ物質循環機能を生かし、生産性との調和などに留意しつつ、土づくり等を通じて、化学肥料、農薬の使用等による環境負荷の軽減に配慮した持続的な農業」と定義されている。それは工業的先進国でありながら、食料自給率の極度に低い(2006年現在、カロリーベースで40%)という条件下において営むことのできる持続可能な農業のあり方を規定したものと言うことが出来る。 

持続可能な農業は人類社会の「持続可能な発展」の一翼を担うものである。

持続可能な開発とは、「将来の世代が自ら欲求を充足する能力を損なうことなく、今日の世代の欲求を満たすことである。」(1978年国連環境と開発に関する世界委員会)が、持続可能な農業は1)経済的に実行可能であること、2)環境保全的であること、3)社会的に受け入れられること、を必須条件として成立する。

2.環境保全型農業における「環境」
 環境保全型農業における「環境」は単に農業環境を示すのみではなく、人間環境、自然環境をも包含するものである。従って環境保全型農業は、土壌?水?生物資源の保全、生活?食環境の保全、生物多様性の保全等を同時に実現するものでなければならない。

土壌?水?生物資源の保全は農業生産の基本的条件の保全と同時に農業のもつ多面的機能の維持増進とも結びついている。それらは、地力すなわち土壌生産力の維持、農畜産廃棄物の循環的処理、灌漑?排水システムの維持、地下水の水質維持、河川?湖沼等の富栄養化の防止、生物多様性の保全、里山の保全などを含んでいる。

生活?食環境の保全は生活廃棄物の循環的処理、安全?安心な農産物の供給などを含んでいる。

3.農業による環境負荷
 約1万年前の新石器時代に始まる農業は、森林原野の開墾にともなう土壌炭素の大気中放出、土壌流亡の増大など、次第に環境に対して大きな負荷を与え、同時に土壌生産力の減退の危機に遭遇してきたが、20世紀初頭における化学肥料の発明?農薬の使用による集約農業の展開により、人口増大に見合う食料生産の維持を可能にし、また20世紀後半における化学合成農薬の発明は農業生産の安定化に大きな寄与をしてきた。

一方で経済的効率の向上を目指す、経営規模の拡大、機械化、単作化は、耕種と畜産との乖離をすすめ、耕地に対する堆肥?厩肥の施用を減退させ、補完的に化学肥料に対する依存を高め、連作障害や病害虫害の多発と防除資材としての化学合成農薬依存性を高めてきた。

肥料と農薬に関してはそれぞれ肥料取締法、農薬取締法により、農業生産への有効性や人や生物に対する直接?間接影響を考慮した生産や使用に関する法的管理がなされてはいるが、化学肥料と化学合成農薬の過度の使用による各種の環境負荷が指摘されるようになってきた。

1)肥料による環境負荷
 環境負荷との関連で問題になる肥料成分は主として窒素とリン、とくに窒素である。農耕地に肥料として施用された有機?無機窒素化合物中の窒素は作物により吸収利用されるが、作物吸収量に比べて過剰に供給された窒素は土壌中に残留し、一部は硝酸態窒素として系外に流出する。それは先ず表層あるいは深層地下水中に入り、やがて湧水、河川?湖沼に流出する。

水は人類の生活に必須のものであり、飲料水、生活水として利用されているのであるが、とくに飲料水については人の健康影響に配慮した飲料水基準が定められている。窒素に関するそれは「硝酸性及び亜硝酸性窒素として1リットル中10ミリグラム」となっている。主要な根拠は乳幼児に対するメタヘモグロビン症、いわゆるブルーベビー症の発現である。しかし成人に関しては硝酸性及び亜硝酸性窒素(以下硝酸性窒素という)による障害については明らかではなく、野菜類などの硝酸含有量などについての基準も設定されていないことに留意する必要がある。また、硝酸の人間健康に及ぼす影響については、フランスの小児科医から強い異議が申し立てられている。

日本においては硝酸性窒素に関する地下水の環境基準値にも、飲料水基準と同じ値が採用されている。

日本における地下水の硝酸性窒素含量が基準値を超えている比率は調査井戸の総数に対して5‐6%の水準を保っている。基準値を超える硝酸性窒素濃度を示す井戸の中には最高値で77mg/Lを示したものも見られた。

硝酸性窒素濃度の高い井戸水を飲んだ乳幼児がメタヘモグロビン症を発症した例は日本においても報じられている。

地下水の硝酸性窒素汚染は全国的に見られるが、農業形態別には畑地や樹園地帯、農村集落などに多く分布し、水田地帯には比較的に少なく畜産の盛んな地域に多い。地下水の硝酸性窒素は、野菜や茶?果樹園に対する多量の施肥や畜舎からの廃棄物などに由来していると推定されている。

2)農薬による環境負荷
 農薬による環境負荷についての関心は、1962年のR.CarsonのSilent Spring以来高まっており、わが国においても有吉佐和子の複合汚染の刊行などを契機として、有機農業運動の高まりなどを引き起こしたことは良く知られている。1996年のT.ColbornらによるOur Stolen Futureは人間や野生動物に対する農薬の広範な影響を知らしめた。また強力な毒性物質であるダイオキシンを含んだ農薬の存在が明らかにされることなどもあり、農薬の使用と管理に関する関心は非常に高まっている。

農薬の影響は1)農薬使用者に対する直接的影響と、2)農薬が使用された作物に残留し食用に供された場合の人体影響、3)環境に放出された農薬による一般の微生物、動植物に及ぼす直接的影響、4)生物濃縮過程や食物連鎖による長期的な生物影響、あるいは生物多様性に対する影響、などとして現れる。

これらのうち人体影響や食物の安全性に関しては、農薬取締法により登録許可されたものを、安全使用基準を遵守して使用すれば、問題はないとされているが、生物多様性を含め環境負荷全般に関しての問題は残るので、農薬の使用に関しては、出来る限り抑制することが求められている。

4.循環型社会形成と環境保全型農業
1) 土づくりの効果
 環境保全型農業においては、とくに土づくりすなわち土壌生産力の維持方策が重視される。土づくりには有機質資材とともに無機質資材も使用されるが、ここではとくに「農業の持つ物質循環機能」あるいは「自然循環機能」が重視される。従って先ず堆肥、厩肥等の有機質資材や各種の有機質肥料の利用が考えられる。

土壌に施用された有機物は土壌の物理性、化学性、生物性の各方面において改良効果を発揮する。分解しにくい安定腐植酸は土壌の団粒構造の生成維持や腐植粘土複合体形成による土壌の塩基置換容量の拡大や緩衝作用の維持などに役だっている。土壌中には数多くの微生物、小?中?大動物が棲んでおり、それらの作用、相互作用により、有機物は分解利用され、中間生成物や微生物分泌物は様々な機能、例えば植物成長促進作用や微生物相互抑制作用が発揮される。とくに複雑な微生物構成は健全な土壌、病害菌などの繁殖を抑制する作用なども持つようになり、さらに窒素固定菌を始めとする多くの有益菌の力を発揮する。

このような土壌に生育する作物は、根の成長と活性が盛んであり、地上部の成長や果実の維持なども良く、病害虫にも侵されにくい健康な作物として生育することになる。

化学肥料との比較において、有機質資材で土づくりをされ有機質肥料で育てられた作物は一般に良質であるとされている。

すなわち、環境保全型農業の基本は有機物施用による土づくりにあるが、こうして出来た健康な土はまた健全で良質な作物を生育させる基礎ともなる。

2)バイオマスニッポン総合戦略と環境保全型農業
 人間社会の発展にともなう、大量生産?大量消費?大量廃棄システムは、石油などの化石資源や各種鉱物質資源の枯渇を招くと同時に、無機?有機の膨大な廃棄物は、廃棄物の最終処理場の不足問題を始めとした、各種の環境問題を引き起こし、持続可能な社会の発展を阻むものとなってきている。

これらの膨大な有機性廃棄物は、本来植物の光合成作用により大気中の二酸化炭素と土壌中の無機栄養物質より生成した有機物が、動物?微生物、さらに人間などを養う、いわゆる食物連鎖過程で利用された後に環境に放出されるものであり、それは土壌に還元されることにより、最終的な分解を経て、元の二酸化炭素と無機栄養物質に戻るという自然循環過程が完成し、換言すれば自然の環境浄化作用が発揮されるのである。

わが国においては、2000年に循環型社会形成推進促進法が成立し、各種廃棄物のReduce, Reuse, Recycle の推進が図られている。

廃棄物の中でも有機性廃棄物の占める比率は高い。この大部分は自然循環的処理あるいは「農業の有する自然循環機能」を利用して処理をすることが可能なものであるが、その中核をなすものは、有機性廃棄物の堆肥化、コンポスト化を積極的に推進し、土づくりを図る環境保全型農業である。

2002年に設定された「バイオマスニッポン総合戦略」は石油など化石資源由来ではない有機性物質全般をバイオマスとして位置づけ、エネルギー的利用も視野に入れ、有効な資源として活用を図りながら、自然循環的処理をしようとしている。ここでは地域資源循環の中核として地域環境保全型農業が位置づけられる。

5.環境保全型農業の発展
1)環境保全型農業への取り組み
環境保全型農業に取り組む農家数は次第に増加してきた。平成14年における調査では販売農家数に対する比率は16.8%に達している。しかし、その中で堆肥による土づくりに取り組んでいる農家は69.8%に止まった。

この時点では有機農産物を生産している農家の生産拡大意欲は高かったが、その他の環境保全型農業取組農家ではさらに取組を拡大しようというよりは現状どまりだとする農家数が多かった。このことは、環境保全型農業の取り組みに際してはなお、様々な障害、とくに経済的メリットが少ないというようなことがあることが伺われた。一方で、土づくりの推進にかんしては、耕種と畜産部門の連携強化により進められている稲わらの収集と飼料的利用、厩肥の農耕地散布なども環境保全型農業の拡大の一環として評価できる。

2) 持続農業法とエコファーマー
1999年に成立した「持続性の高い農業生産方式の導入の促進に関する法律」(持続農業法)は環境保全型農業の推進を意図したものであるが、その中に環境保全型農業の技術内容が下記のように示されている。
(1)土づくり技術:たい肥等有機質資材施用技術、緑肥作物利用技術
(2)化学肥料低減技術:局所施肥技術、肥効調節型肥料施用技術、有機質肥料施用技術
(3)化学合成農薬低減技術:温湯種子消毒技術、機械除草技術、除草用動物利用技術、生物農薬利用技術、対抗植物利用技術、抵抗性品種栽培?台木利用技術、熱利用土壌消毒技術、光利用技術、被覆栽培技術、フェロモン剤利用技術、マルチ栽培技術

これらの技術内容を包含して、作物栽培地域の状況に応じた個別的な作物別技術指針が都道府県毎に具体的に示されている。

このような農業技術を意識的に導入している農家にはエコファーマーの愛称が与えられる。2006年3月末現在のエコファーマー数は98,875名に及んでいる。

6.環境保全型農業に対する支援策
環境保全型農業は一般にはいわゆる付加価値農業ではないので、従来型の農業方式に比べて、生産者に対する労力、経費などにおける負担がかかる。そのため、この農業方式の普及には単なる精神的支援のみではなく、具体的な経営的支援も必要になる。既に都道府県段階、市町村段階で様々な創意を持った支援策が実施されている。 国においては、環境保全を重視する農業政策の一環として、各種の施策の対象としての農家が必ず守るべきものとして、「農業環境規範」を定めているが、その上に立ってさらに「農地?水?環境保全向上対策」を進めている。その中で化学肥料と化学合成農薬の使用量が慣行に対して原則として5割以上低減すること、一定の地域でまとまって取組むこと、持続農業法に基づくエコファーマーであることなどを条件として一定額の直接支援を示している。環境保全を重視した農業政策の一定の進歩である。
Agromedicine を訪ねる(8):Journal of Agromedicine
以下のことは、「情報:農と環境と医療 10号」ですでに書いた。「農医連携」という言葉は、生命科学全般を思考する博狗体育在线_狗博体育直播【官方授权网站】@で新しく使用しはじめたものだ。それに相当する英語に、例えばAgromedicine がある。1988年に設立された The North American Agromedicine Consortium (NAAC) は、Journal of Agromedecine という雑誌と博狗体育在线_狗博体育直播【官方授权网站】@レターを刊行している。この雑誌の話題には、農業者の保健と安全性、人獣共通伝染病と緊急病気、食料の安全性、衛生教育、公衆衛生などが含まれる。

博狗体育在线_狗博体育直播【官方授权网站】@学長室では、季刊誌であるこの雑誌の購入を2006年の第11巻から始めた。10月30日にVolume 11, Number 1 2006 が配送されてきた。学長室に常備してあるので、関心のある方は自由にご覧ください。今回は先回に続いて、Journal of Agromedicine の第10巻の目次を紹介する。

第10巻1号(2005)
  • Journal of Agromedicine Expands Scope of Coverage in Second Decade of Publication
  • What's in a Name Revisited Terms Used to Describe Activities Related to the Health and Safety of Agricultural-Associated Populations and Consumer
  • Comparison of Farmers in the Agricultural Health Study to the 1992 and the 1997 Censuses of Agriculture
    Keywords: Farmers, census of agriculture, pesticides, agricultural health study
  • Occupational Noise Exposure Assessment in Intensive Swine Farrowing
    Systems: Dosi metry, Octave Band, and Specific Task Analysis
    Keywords: Noise, Noise Exposure, Swine Confinements, Agriculture
  • Tumor Necrosis Factor Hyper-Responsiveness to Endotoxin in Whole Blood is Associated with Chronic Bronchitis in Farmers This Article is Currently Unavailable
    Keywords: Inflammation, lung, cytokines, asthma
  • Pesticides and Electronic Resources for Health Care Providers
    Keywords: Pesticide, toxicology, human, epidemiology, prevention, education, internet

第10巻2号(2005)
  • Journal Casts Wide Net to Provide Context for Researchers, Practitioners
  • Biological and Chemical Terrorism and the Agricultural Health and Safety Community
  • Agroterrorism Workshop Engaging Community Preparedness
  • Medical Connections Use of the Internet and Traditional Sources of Health Information by Rural Alabama Households
  • Cotinine Levels and Green Tobacco Sickness Among Shade-Tobacco Workers
    Keywords: Green tobacco sickness (GTS), salivary cotinine levels, migrant farm workers, Shade tobacco
  • Do Economic Stresses Influence Child Work Hours on Family Farms?
    Keywords: Child work, agricultural injury, all farm index, milk prices, fuelprices
  • Noise and Chemical Induced Hearing Loss Special Considerations for Farm Youth
    Keywords: Farm youth, noise, chemical exposure, ototrauma, ototoxicity, pestici des, solvents
  • Camellia sinensis Historical Perspectives and Future Prospects
    Keywords: Tea, chemoprevention, cultivation, polyphenols

第10巻3号(2005)
  • Current Issue of Journal of Agromedicine Provides Continuity, Glimpse into Future
  • Analysis of Factors Contributing to 674 Agricultural Driveline-Related Injuries and Fatalities Documented Between 1970 to 2003 Keywords: Power take-off, PTO, driveline, safety, farm, agricultural, incidents, injury, fatality
  • Cost of Compensated Injuries and Occupational Diseases in Agriculture in Finland
    Keywords: Agriculture, injury, occupational disease, insurance, workers compensation, injury cost, occupational disease cost
  • A Comparison of Self-Reported Hearing and Pure Tone Threshold Average in the Iowa Farm Family Health and Hazard Survey
    Keywords: Self-reported hearing, pure tone threshold average, sensitivity, spec ificity, farmers
  • Absence of Respiratory Inflammatory Reaction of Elemental Sulfur Using the California Pesticide Illness Database and a Mouse Model
    Keywords: Sulfur, pesticide, acute effect, respiratory inflammation
  • Fifteen Years of Experience in Cholinesterase Monitoring of Insecticide Applicators
    Keywords: Insecticide exposure, cholinesterase testing, organophosphates, carbamates, employee health
  • The NIOSH Fatality Assessment and Control Evaluation (FACE) Program A New York Ca se Study Illustrating the Impact of a Farm Manure Pump PTO Entanglement
    Keywords: Manure pump, dairy farm, agriculture, pit, PTO, entanglement, training

第10巻4号(2005)
  • Authors, Reviewers Show Support for Journal with Volume 10
  • NIOSH Fills Void with Surveillance of Injuries to Youth Living on U.S. Farms
  • Approaching Actionable Farm Safety Programs
  • Hearing Loss in Migrant Agricultural Workers
    Keywords: Hearing loss, noise occupational, agricultural workers' diseases, migrant agricultural workers, Hispanics
  • Injuries to Youth Living on U.S. Farms in 2001 with Comparison to 1998
    Keywords: Farm injuries, youth, surveillance
  • Illnesses Related to Shank Application of Metam-Sodium, Arvin, California, July 2 002
    Keywords: MITC, fumigant, metam-sodium, eye irritation, respiratory illness
  • Persistent Neuropathy and Hyperkeratosis from Distant Arsenic Exposure
    Keywords: Arsenic, neuropathy, polyneuropathy, hyperkeratosis
  • Health Effects from Breathing Air Near CAFOs for Feeder Cattle or Hogs
    Keywords: Concentrated animal feeding operations, endotoxin, organic dust, hogdust, cattle feedlots, respiratory health
  • "Safety for Agricultural Educators" Evaluation of an Intervention to Enhance Awar eness of Agricultural Hazards
    Keywords: Agriculture, child injury, agricultural education, high school, evaluation
  • Survey of Health Needs and Concerns of Rural Pennsylvanians
    Keywords: Rural health needs, rural health care, health needs assessment

本の紹介 23:健康の社会史-養生、衛生から健康増進へ-、新村 拓著、法政大学出版局(2006)
この本の著者は、現在、博狗体育在线_狗博体育直播【官方授权网站】@の一般教育部長の職にあり、かつては、「老いと看取りの社会史:1991」と題する本を法政大学出版局から出している。その内容は、平均寿命が延び、未曾有の高齢化社会が到来しつつあるわが国の「老いと看取り」を早くから憂えたものである。

古来、人びとが老いをどのように受けとめ、どう生きてきたか。老人の生活、意識および病の実態をはじめ、周囲の人々のもつ老いの価値、役割および道理をどのように評価し、老人をどのように遇し、扶養?介護してきたのか。これらに含まれる精神や制度、さらには期待される老人像などを、わが国の中世の歴史に探ったのがこの本である。

この本はさらに、老いをめぐる人間らしい思いと、古い智恵、さらには今日に生かすべき老人介護の伝統を発掘して、現代の医学や医療の進歩に結びつけ、高齢化社会の問題意識に応えようとしている。

それから15年、「老いと看取りの社会史」に関する著者の思いは、「健康の社会史:養生、衛生から健康増進へ」と展開した。この本の内容を平たく表現すれば、古代から近世までの養生、近代の衛生、現代の健康増進法に至る流れのなかで、健康というものがそれぞれの時代において、いかに捉えられていたかを、膨大な資料をもとに数多くの人物の哲学と実践を紹介しながら立証したものである。

資料の量と登場人物の数たるや、膨大である。ちなみに1~7章から構成される各章の引用資料は、それぞれ順次50、119、99、40、9、24および23の合計364点に及ぶ。第1章、第1節は10pの枚数であるが、そこには、医師名古屋玄医、医師田中雅楽郎、儒者佐藤一齋、儒医貝原益軒、医師中神琴渓、医師水野沢齋の6名の人物が登場する。第3章、第1節をみると、たった9pの紙数に、吉田兼倶、井原西鶴、貝原益軒、平野重誠、水野沢齋、中村正直、ミル、ベンサム、西周、福沢諭吉、児島影二、福本 巴、スペンサー、鹿野政直、小野 梓、坪内逍遙、森 鴎外、饗庭篁村、杉田玄白、杉田立郷、杉田玄端、ロベルト?ゼームス?メン、後藤新平など合計23名の人物が登場する。この冊子に全体で何人の人物が登場するのか、筆者には数えるほどの情熱がない。

本書は、古代から近代までの健康観の変遷を迫ったものである。とくに、近世江戸時代の貝原益軒の「養生思想」と明治時代の後藤新平の「衛生思想」とその周縁を中心に精査される。それに伴って、わが北里柴三郎の研究と実践の歴史も挿話される。

ここでは、その変遷を簡単に紹介する。古代の養生は、不老不死を求め寿命がさらに上積みされることを願った。しかし中世になると、単なる長寿に疑問符がもたれる考え方が出てくる。いくら長生きをしても親しい友や妻子が皆消え失せ、ただ一人残された孤独と寂しさに耐え、哀れな余生を過ごすことになれば何の長寿かという疑問である。そこで、中世の末期頃から「御伽草子」が出回り、不老長寿は不幸を招くとしてこれを否定する考えが出てくる。

そして江戸時代前期、有名な貝原益軒の「養生訓」が普及する。その「養生訓」の教えとは、「我が身」とはいえ「私の物」ではないという慎み深い身体の扱いである。わが身は天地と父母から授かり、養われたものだから損なわないよう、減らないよう大事に扱えよ。それが養生の核心にあるという。

江戸時代後期になると、飽くことなく長寿を追求することから「ほどほどの生」をまっとうするための養生思想へと流れが変わってくる。

文明開化の後では、国家にとっての個人の身体(富国強兵)という養生の考えから、健康に重要なのは個々人の「養生」より公共の「衛生」が評価されるようになる。

明治初期から、養生は健康に取って代わられた。近世後期に蘭学に伴って渡来した健康概念は、近代日本の富国強兵の下で、公衆衛生の概念と結びついていく。「経験知の切り捨てや抑圧、文明知の啓蒙や強制」が渦巻く時代の潮流のさなかで、「健康体を創出することが公益」とされながら、健康はやがて昭和の健兵健民策、国民体力管理策の思想基盤となっていく。

そして現代は、死ぬまで自己実現に努めるのが健康増進の目標の一つとされている。健康は社会的地位の獲得や上昇志向を実現するための手段と貶められているふしもある。そして今、健康食品、健康器具、健康学、健康体操など健康ブームは衰えるところを知らない。医療制度改革による患者負担増など将来の不安をかき立てる材料も加わり、昨今の健康志向には強迫観念さえ感じる。しかし、「健康」とは何であろう。

このような養生、衛生思想および健康増進に関する著者の研究の成果と、ご自身の父母の介添えなどの実体験を通じて著者が至った結論は、「ほどほどの養生」による「ほどほどの健康」を得て「ほどほどの生」を終えること、だそうである。いま健康を語ることは、生き甲斐そのものを語ることなのかもしれない。

補遺:この本には「健康」という語句の語源が紹介されているので、以下にそのまま紹介させてもらう。

「健康という語句は、八木保?中森一郎の両氏によれば、近世後期の蘭学者稲村三伯(海上随鴎)がフランソワ?ハルマの「蘭仏辞典」の蘭語の部分を訳して、1796年に刊行した蘭和辞典「波留麻和解」にみられるものが初出であるという。それ以来、蘭方医の間では養生とともに健康の語句が用いられるようになり、明治初期には一般民衆向けの「告論」においてももっぱら健康が使われるようになっている。」

目次は以下の通りである。
第一章 生命の尊厳と養生
第二章 生き切り、死に切るための養生
第三章 後藤新平の衛生思想とその周縁
第四章 健康を監視する衛生社会
第五章 衛生警察に従事する巡査の苦労と苦悩
第六章 衛生の内面化に向けた健康教育
第七章 国民の義務としての健康
言葉の散策 12:連携
語源を訪ねる 語意の真実を知る 語義の変化を認める
そして 言葉の豊かさを感じ これを守る

この情報のタイトルは「農と環境と医療」である。目指すところは、農と医を連携させることにある。これまで農と医の漢字の語源については散策してきた。今回は、「連携」について散策する。

「大辞林」の「れんけい」を開くと、次のような説明がある。1) 連係?連繋?聯繋:物事と物事、あるいは人と人との間のつながり。また、つながりをつけること。つながっていること。2) 連携:連絡をとって、一緒に物事をすること。あわせると、つながって物事を解決していくことに意味があると解釈される。そこで、つながりに関わる漢字を散策してみることにした。

繋: ケイ、かける、つなぐ。紐でつなぐことをいう。かける、かけ下げる、つなぐ、むすぶ、とらえるなどの意味がある。また、繋心、繋世、繋累、繋辞などの言葉がある。

維: イ、つな、つなぐ。移動しやすいものをつなぎとめる意。つな、つなぐ、つらねる、ささえる、惟に通じて、おもう、はかるなどの意がある。維持、維新、惟繋などの言葉がある。

係: ケイ、かける、つなぐ、かかり。呪飾に用いる。糸や紐をかける、つなぐ、つける、むすぶ、くくる、しばる。係獲、係羈、係仰、係心、係累などの語がある。

絆: ハン、バン、きずな、つなぐ。家族、友人などの結びつきを、離れがたくつなぎとめているもの。ほだし。どうぶつなどをつなぎとめておく綱。

縛: バク、しばる、つなぐ。束縛、因える。いましめる、とらえる。

携: ケイ、たずさえる、たずさわる、ひきつれる。手で相手と自分をつなぐ。手にさげてもつ。

noui_no22_kanji1.gif: イン、チン、つな、はなづな。車を挽くnoui_no22_kanji1.gif。くるまのつな。牛の鼻綱。

栓: セン、えらぶ、つなぐ。えらぶ、あきらかにする。つなぐ、しばる、くくる。栓束、栓通、栓縛などの語がある。

継: ケイ、つぐ。つなぐ。つらなる、かさなる、かける。世をつぐ、あとつぎ。継好、継志、継続などの語がある。

綰: ワン、むすぶ、つなぐ。綰結、綰轂などの語がある。

縛: バク、しばる、まく。つなぐ、いましめる、とらえる。縛緊、束縛などの語がある。

羈: キ、おもがい。馬の頭部にまといつける綱。つなぐ、つなぎとめる、束縛する。たび。

noui_no22_kanji2.gif: チュウ、つなぐ、しばる、とらえる、とらわれる。きずな。

参考資料

字通:白川 静、平凡社(1997)
大字源:角川書店(1993)
*本情報誌の無断転用はお断りします。
博狗体育在线_狗博体育直播【官方授权网站】@学長通信
情報:農と環境と医療22号
編集?発行 博狗体育在线_狗博体育直播【官方授权网站】@学長室
発行日 2007年1月1日