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農医連携教育研究センター 研究ブランディング事業

20号

情報:農と環境と医療20号

2006/11/1
博狗体育在线_狗博体育直播【官方授权网站】@と相模原市の連携による地域産業の活性化に関する協定書
平成18年10月10日、博狗体育在线_狗博体育直播【官方授权网站】@と相模原市は、地域における産業の活性化を図るための協力について、協定を締結した。協定書の調印は、博狗体育在线_狗博体育直播【官方授权网站】@、柴 忠義学長と相模原市、小川勇夫市長の間でこの日に行われた。なお、この協定は締結の日から発効し、両者から解除の申し出がない限り効力は継続される。

目的は、博狗体育在线_狗博体育直播【官方授权网站】@の持つ「医療」、「農業」および「環境」に代表されるライフサイエンスに関する専門的な知識や情報を、相模原市の仲介により、地域の企業などに提供することを通じて、新たな産業を創出することにある。

協力事項には、1)地域企業などとの連携による新製品および新技術の開発、2)地域企業などが抱える技術的課題の解決、および3)その他産業の支援、活性化に関する事項が挙げられた。さらに協力事項の実施にあたっては、相模原商工会議所、城山町商工会、津久井町商工会、相模湖町商工会、藤野町商工会、株式会社さがみはら産業創造センター、財団法人相模原市産業振興財団との連携を図ることが確認された。これらの協定を活用することによって、農医連携の活動をますます進化させることが期待される。

すでに、博狗体育在线_狗博体育直播【官方授权网站】@と相模原市は平成17年6月に「新都市農業推進協定」を締結している。協定の趣旨は、薬用植物の試験?研究および普及?啓発事業を通じて、健康、環境、ビジネスの視点で新たな都市農業の創出を進め、「相模原市新都市農業推進計画」の実現を図ることにある。(詳細、情報:農と環境と医療 3号)

また、「新都市農業推進協定」に基づいて「北里サテライトガーデン見学会」や「第1回薬用セミナー:薬用植物と新たな農への取り組み」が開催されている(詳細、情報:農と環境と医療 7号、8号)。さらに来る12月9日土曜日には、「第2回薬用セミナー:身近な薬用植物について(仮題)」が開催される予定である。
第2回博狗体育在线_狗博体育直播【官方授权网站】@農医連携シンポジウムが開催された
博狗体育在线_狗博体育直播【官方授权网站】@では農医連携の教育と研究を目指し、平成17年5月1日から「博狗体育在线_狗博体育直播【官方授权网站】@学長室通信 情報:農と環境と医療」を毎月刊行している。また平成18年3月10日には、「第1回博狗体育在线_狗博体育直播【官方授权网站】@農医連携シンポジウム‐農?環境?医療の連携を求めて‐」を開催し、「農医連携」にかかわる情報を全国に先駆けて発信している。

第1回のシンポジウムに関しては、「情報:農と環境と医療」の9、11、12および13号に詳しく紹介した。また当日の講演は、農医連携シンポジウムのページ(/jp/noui/spread/symposium/)から、オン?デマンドで観ることができる。さらに、このシンポジウムの成果は、書籍にして養賢堂から10月に刊行された。

第2回博狗体育在线_狗博体育直播【官方授权网站】@農医連携シンポジウムは、平成18年10月13日に博狗体育在线_狗博体育直播【官方授权网站】@白金キャンパスの薬学部コンベンションホールで、「代替医療と代替農業の連携を求めて‐現代社会における食?環境?健康‐」と題して開催された。開催趣旨および講演プログラムは次項、「第2回博狗体育在线_狗博体育直播【官方授权网站】@農医連携シンポジウムの内容(1)」の通りである。また当日の講演内容については、上述したホームページで観ることができる。さらに、講演内容の要約は次の項目で順次紹介する。
第2回博狗体育在线_狗博体育直播【官方授权网站】@農医連携シンポジウムの内容(1)
第2回博狗体育在线_狗博体育直播【官方授权网站】@農医連携シンポジウムの開催主旨講演プログラム挨拶および演題「代替医療と代替農業の連携を考える」を紹介する。他の演題については、次号以降に順次紹介する。

開催趣旨

21世紀の予防医学が掲げる課題には、リスク評価?管理?コミュニケーション、疾病の発生予防、健康の質の増進などがある。これらの医学分野における課題に対して、農学分野がどのように連携できるかという今日的な問題の解決にとりくむことは、社会の要請に応えるうえで極めて重要である。

20世紀の技術知が生んだ成果のなかには、われわれが生きていく21世紀の世界に、農医連携の科学や教育が不可欠であることを示唆するものがいくつかある。病気の予防、健康の増進、食品の安全、環境を保全する農業、癒しの農などは、その代表的な事象であろう。医食同源という言葉があるにもかかわらず、これまで農医連携の教育や科学はそれほど強調されなかった。

医と農はかつて同根であった。そして現在でも類似した道を歩いている。医学には代替医療がある。農学には代替農業がある。前者は、西洋医学を中心とした近代医学に対して、それを代替?補完する医療である。後者は、化学肥料や農薬を中心とした集約的農業生産に対して、これを代替?補完する農法である。いずれも生命科学としての特徴を共有している。また、21世紀に入り医学はヒトゲノムの、農学はイネゲノムの塩基配列を解読する全作業を完了している。

今回のシンポジウムの目標は、現代医学や現代農学のみでは治まりきれない問題を、伝統医学や代替医療あるいは代替農業の面から再び見直し、改めて農と医についての相互理解を深め、両者の具体的な課題について検討することにより、連携の糸口を見いだすことにある。また農医連携の実例の一つとして、すでに博狗体育在线_狗博体育直播【官方授权网站】@でおこなわれている「環境保全型畜産物の生産から病棟」までの流れを紹介する。
講演プログラム

挨拶柴 忠義:博狗体育在线_狗博体育直播【官方授权网站】@長
1. 代替医療と代替農業の連携を考える陽 捷行:博狗体育在线_狗博体育直播【官方授权网站】@教授
2. 代替医療 ‐その目標と標榜名の落差について‐山口宣夫:金沢医科大学大学院
代替基礎医学講座教授
3. 替農業 ‐その由来とねらい‐久馬一剛:京都大学名誉教授
滋賀県立大学名誉教授
4. 代替医療のevidenceについての科学的解明山田陽城:博狗体育在线_狗博体育直播【官方授权网站】@附属
北里生命科学研究所長
5. 環境保全型農業を巡って熊澤喜久雄:東京大学名誉教授
6. 環境保全型畜産物の生産から病棟まで萬田富治:博狗体育在线_狗博体育直播【官方授权网站】@獣医畜産学部教授
総合討論 座長:山田陽城?陽 捷行
開催にあたって
博狗体育在线_狗博体育直播【官方授权网站】@長 柴 忠義

第2回博狗体育在线_狗博体育直播【官方授权网站】@農医連携シンポジウムの開催にあたり、主催者を代表して一言ご挨拶申し上げます。国際会議や国際学会で初めて対面した人との決まり文句に、「あなたのご専門は何ですか?」という質問があります。この会話は、現代知識人の常識的な挨拶のようにもみえます。とくにアメリカやその文明の影響を受けた国々にあっては、この質問なくしてお互いが知り合うことは難しい場面が多々あります。このように、それぞれの専門人が寄り集まって問題を総合化する試みのひとつに、国際会議などが催されます。

当たり前のことですが、一人の人間の能力と生涯は有限です。ですから、われわれは何か特定した対象について大学や研究所などに所属し、学会や協議会などを創り、専門人になり、研究などの成果を書いて後世に残します。生命科学に属する医学や農学も20世紀をそのようにして過ごしてきました。

例えば、わたしは生物という対象を分析?解釈?説明する者として生物学を選びました。ところが、生物に限らずどんな対象も、それが存在する様態は純粋または別個にあるのではなく、つねに多くの側面を持ちかつ多くの対象と関連しています。

例えば地球の温暖化は、対流圏や成層圏の気象的な現象による側面を、また生物における光合成などの代謝による側面を、さらにはバイオマス燃焼による側面などを、それぞれ持っています。つまり、地球の温暖化は気象的な側面だけで成り立っているわけではないのです。このことを多くの研究者が深く理解できたのが、20世紀にわれわれが経験した数多くの環境問題なのです。

一方これらの問題の経験を通して、われわれは総合的な知見の必要性を痛感してきました。百姓は読んで字のごとく「あらゆる多くのことを知っているかばね」ということで、作物の生長に関する生理学、土壌学、気象学、肥料学、地形学など総合的な知見を必要とします。かつての生物学は生物分類学に始まり、生理学や生態学、さらには分子遺伝学など生物全般とその周辺部分を学問の対象としました。

しかし、今ではそういう総合者としての専門人が姿を消し、いわば分析者としての専門人が大量に発生し続けています。生物学を学んだといっても、例えば特殊な微生物のバイオテクノロジーを学んだ若い研究者には、現在の生物に関する複雑な問題には答えきれないのが普通でしょう。しかし、答えなければなりません。そのためには、分析者として基礎論を学び進む過程において、少しずつ総合者としての知恵を身につけていくことが必要でしょう。

このようなことが、いずれも人の生命を対象とする医学と農学の間にも生じてはいないでしょうか。第2回博狗体育在线_狗博体育直播【官方授权网站】@農医連携シンポジウムでは、幸いにも現代医学や現代農学のみでは治まりきれない問題を、伝統医学?代替医療あるいは代替農業の面から再び見直し、改めて医と農についての相互理解を深め、人の生命に関する総合化を目ざすための連携の糸口を見出そうとしております。

本シンポジウムにおいて、有意義で実践的な議論が展開され、食と環境を通した健康の問題に対し新たな発想や示唆が生まれることを期待しております。開催にあたりご後援いただいた金沢医科大学、内閣府、文部科学省、厚生労働省および農林水産省にお礼申し上げるとともに、講演を快くお引き受けいただいた諸先生方に心から感謝申し上げ、ご挨拶とさせていただきます。



代替医療と代替農業の連携を考える
博狗体育在线_狗博体育直播【官方授权网站】@教授 陽 捷行

はじめに

生命を対象にする医療と農業には、いずれも接頭語に代替がつく代替医療と代替農業がある。医療に関わる人にとって、代替農業という言葉になじみが薄いと同じように、農業関係者にとって代替医療なる言葉は目新しいであろう。英語では、いずれもalternative medicine とalternative agriculture と呼ばれている。

このような農と医の類似性は、かつて農と医が同根であって、現在でも類似した道を歩いている故であろうか。古を顧みれば、医では人びとに共同作業を必要とする「衛生概念」が生まれ、農では共同が欠かせない豊穣と災害回避を祈願する「儀式」が生まれた。

19世紀後半から20世紀にかけては研究室医学が発達し、「疫病」の病因と予防に視点が向けられた。生化学が分子生物学と合体し、生命過程に迫る有力な武器になった。農業では、化学肥料や農薬の製造が始まり農業生産は著しく高まった。さらに、分子生物学が旺盛になり、遺伝子組換え作物が造られた。

さらに近年にいたって、西洋医学を中心とした近代医学に対して、それを代替?補完する代替医療が、農学では化学肥料や農薬を中心とした集約的な農業生産に対して、これを代替?補完する代替農法が現れた。いずれも生命科学としての特徴が現れている。また、21世紀に入って、医学はヒトゲノムの、農学はイネゲノムの塩基配列を解読する全作業を終了した。

最近では、医療を教育や環境を含めて人類が共有すべき「社会的共通資本」と捉える考え方がある。この考え方は、貴重な湧水を農業生産の共通な資本としてとらえ、「三分一湧水」のもとに湧水を互いに平等に分け合うことに類似している。ちなみに、宇沢弘文は「社会的共通資本」を、「一つの国ないし特定の地域に住むすべての人々が、ゆたかな経済生活を営み、すぐれた文化を展開し、人間的に魅力ある社会を持続的、安定的に維持することを可能にするような社会的装置を意味する。」と定義している。

代替医療と代替農業の連携が可能か

このような歴史的に共通な背景を持つ農学と医学において、21世紀の予防医学が掲げる課題には、リスク評価?管理?コミュニケーション、疾病の発生予防、健康の質の増進などがある。これらの医学分野における課題に対して、代替医療や代替農業がどのように連携できるかという今日的な問題の解決にとりくむことは、社会の要請に応えるうえで極めて重要である。

20世紀の技術知が生んだ成果のなかには、われわれが生きていく21世紀の世界に、農医連携の科学や教育が不可欠であることを示唆するものがいくつかある。病気の予防、健康の増進、食品の安全、環境を保全する農業、癒しの農などは、その代表的な事象であろう。医食同源という言葉があるにもかかわらず、これまで農医連携の教育や科学はそれほど強調されてこなかった。

このような事象に、代替医療と代替農業がどのように関わり合えるかを討論する機会はこれまでなかった。これらのことを、このシンポジウムで考えることができれば幸いである。

代替医療とその周辺

わが国における代替医療については、1998年に設立された「日本補完代替医療学会」がある。また、渥美和彦?廣瀬輝夫の「代替医療のすすめ」やキャシレス著?浅田仁子?長谷川淳史訳の「代替医療ガイドブック」などの著書がある。アメリカでは、「The National Center for Complementary and Alternative Medicine (NCCAM)」や「Complementary Alternative Medical Association (CAMA)」がある。また、浅田仁子らが訳したCassileth, Barrie R.著の「The Alternative Medicine Handbook: The Complete Reference Guide to Alternative and Complementary Therapies」、エドウィン?クーパー、山口宣夫編による「Complementary and Alternative Approaches to Biomedicine」などがある。

もともとComplementary and Alternative Medicine(CAM)は、西洋医学を中心とした近代医療に対して、それを補完する医療をさした。また、国によりCAMは伝統医学と同義に用いられている。しかし、欧米でCAMに分類される漢方?和漢薬?鍼灸などは日本や中国、韓国などで脈々として既に存在するもので、日本では「代替」ではなく現代医療の中で正式な医療として位置付けられている伝統医療である。先進国では慢性疾患や生活習慣病の増加に対し、治療だけでなく予防対策の重要性も認識され、CAMへの要請も高まっている。米国ではその具体的対応策として、1994年に栄養補助食品健康教育法(Dietary Supplement and Health and Education Act:DSHEA)を制定し、ハーブの有効性を食品領域でも積極的に活用する道を開いている。

しかしCAMの領域は、近代西洋医学に比べると未だ科学的検証が十分に伴わない混沌とした状況にある。そこで最近では、この混沌とした領域にevidence-basedな秩序を導入することを目指したeCAM:Evidence-based Complementary and Alternative Medicineの考え方が登場している。

これに関して、Oxford Journalsから国際雑誌が出版されている。そこには、次の注が記載されている。Evidence-based Complementary and Alternative Medicine (eCAM) is an international, peer-reviewed journal that seeks to understand the sources and to encourage rigorous research in this new, yet ancient world of complementary and alternative medicine.

なお「代替医療」という語は、「代替医療のすすめ」の著者の一人である廣瀬輝夫が論文執筆の際に「Alternative Medicine」を訳したものである。

代替農業とその周辺

わが国においては、代替農業といえるさまざまな農法がある。はっきりと代替農業と題した本に、久馬一剛?嘉田良平?西村和雄監訳の「代替農業‐永続可能な農業をもとめて‐」がある。アメリカでは、「American Society of Alternative Agriculture」や「American Journal of Alternative Agriculture」がある。また久馬一剛らが訳した原本、全米研究協議会リポート「Alternative Agriculture」などがある。

今、世界は個人や団体が一つの農業へ到達するシステムを研究したり、これを発展?普及するための努力をしている。そのシステムの目的は、土壌の生産性を高め、自然環境を保全し、土地や資源を効率よく利用し、そのうえ生産費を低減させることに視点を向けることにある。

この目的の背景には、農業が環境に及ぼす負の影響が厳然としてあった。この影響は、政策立案者、農民および消費者にきわめて重要な事項である。農薬、化学肥料および畜産廃棄物からもたらされる土壌と地下水と大気の汚染問題、作物や食品中への農薬残留や蓄積に対する安全の問題がある。加えて、一部の地域では土壌侵食、塩類集積および灌漑用地下水源の枯渇の問題などが現実に起こっているのである。

これらの諸問題に対応して、全米研究協議会が1989年に発刊したのが、「代替農業:Alternative Agriculture」である。

代替農業はひとつの農作業体系を指すのではなく、合成した化学物質を一切使用しない有機的な体系から、特定の病害虫防除にあたって農薬や抗生物質を慎重に使用する体系まで、さまざまな体系が含まれている。したがって、代替農業は生物学的とか、抵投入的とか、有機的とか、再生的あるいは持続的といった名を冠した農業ということになる。

例えば、害虫の総合防除、集約度の低い家畜生産方式、輪作体系、土壌侵食軽減のための耕作方法などがある。したがって、代替農業はこれらの技術を農作業体系の中に組み込んでゆくことを目指す農業といえる。

代替農業のひとつに環境保全型農業がある。これについては、農林水産省環境保全型農業対策室で次のように定義している。「農業の持つ物質循環機能を生かし、生産性との調和などに留意しつつ、土づくり等を通じて化学肥料、農薬の使用等による環境負荷の軽減に配慮した持続的な農業」。一般的には、可能な限り環境に負荷を与えない農業および農法のことである。

なお、「代替農業」という語は、全米研究協議会リポート「Alternative Agriculture」を訳した久馬一剛らが初めて使った言葉である。

今回のシンポジウムの目標は、現代医学や現代農学のみでは治まりきれない問題を、伝統医学や代替医療あるいは代替農業の面から再び見直し、改めて農と医についての相互理解を深め、両者の具体的な課題について検討することにより、連携の糸口を見いだすことにある。また農医連携の実例の一つとして、すでに博狗体育在线_狗博体育直播【官方授权网站】@でおこなわれている「環境保全型畜産物の生産から病棟」までの流れを紹介し、代替農業が医療にどのように応えうるかを考えるための参考資料の一つにしたい。

参考資料の一部
  1. 補完代替医療入門:上野圭一著、岩波アクティブ新書64、岩波書店(2003)
  2. 代替医療のすすめ:渥美和彦?廣瀬輝夫著、日本医療企画(2001)
  3. 代替農業:久馬一剛?嘉田良平?西村和雄監訳、全米研究協議会リポート、自然農法国際研究開発センター?農山漁村文化協会
  4. 代替医療のすすめ‐患者中心の医療をつくる‐:渥美和彦?廣瀬輝夫著、日本医療企画(2001)
  5. 代替医療ガイドブック:バリー?R?キャシレス著、浅田仁子?長谷川淳史訳、春秋社(2001)
  6. 代替医療:フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』:http://ja.wikipedia.org/wiki/%E4%BB%A3%E6%9B%BF%E5%8C%BB%E7%99%82
  7. 代替医療:http://www.nsknet.or.jp/~nagasato/daitai.html
  8. 病気のはなし?病気辞典?病気:http://homepage3.nifty.com/mickeym/simin/66daigae.html
  9. 日本補完代替医療学会:http://www.jcam-net.jp/
  10. NCCAM (National Center for Complementary and Alternative Medicine):http://nccam.nih.gov/
  11. National Cancer Institute:http://www.cancer.gov/
  12. オックスフォード大学出版局:http://www.oxfordjournals.org/ecam/about.html
  13. Environmental Information & Communication Network:http://www.eic.or.jp/ecoterm/‐act=view&serial=545
  14. 農水省環境保全型農業対策室のホームページ:http://www.maff.go.jp/j/seisan/kankyo/hozen_type/
  15. 代替農業:久馬一剛?嘉田良平?西村和雄監訳、全米研究協議会リポート、自然農法国際研究開発センター?農山漁村文化協会(1992)
  16. 持続可能な農業への道、大日本農会叢書3、大日本農会(2001)
  17. 環境保全型農業の課題と展望‐我が国農業の新たな展開に向けて‐:大日本農会叢書 4、 大日本農会(2003)
  18. 熊澤喜久雄:環境保全型農業と地域環境保全:http://www.gpc-gifu.or.jp/chousa/infomag/gifu/100/4-kumazawa.html
  19. 農業環境技術研究所ホームページ、情報:農業と環境:http://www.niaes.affrc.go.jp/mzindx/magazine.html
  20. 代替農業と環境保全型農業:博狗体育在线_狗博体育直播【官方授权网站】@学長室通信、情報:農と環境と医療8号、11-18 (2005)
  21. 代替医療とeCAM:博狗体育在线_狗博体育直播【官方授权网站】@学長室通信、情報:農と環境と医療 9号、4-11(2006)
  22. 医療崩壊:小松秀樹著、朝日新聞社(2006)
土壌侵食とマラリア流行が文明を崩壊?
はじめに

筆者は、かつて文明の崩壊は土壌の侵食や劣化が原因であると考えていた。しかし橋本雅一氏の「世界史の中のマラリア」を読んで、少し考えが変わった。文明の崩壊は、土壌の浸食や劣化はもとより、これらの現象にともないマラリアが流行する沼や湖沼など蚊の発生する培地が増加したことにより加速されたと考えるようになった。かつての土壌の侵食や劣化は、農業生産にきわめて密接に関連していたことから、その生業がマラリアの流行を加速したとなれば、次に記す文明の崩壊の事例は、農と医がまさに同床にあることを示すものでもあろう。

ここでは、はじめに「農と医の歴史的類似点」を認識し、次に「土壌と文明の崩壊」「マラリアの流行と文明の崩壊」を整理してみる。最後の「温暖化でマラリアは?」で、温暖化にともなうマラリアの流行を追う。

農と医の歴史的類似点

農と医はかつて同根であった。さらに現在でも類似した道を歩いている。その類似性を歴史的に追ってみる。

まず、人類が儀式を知ったことである。これは墓所の遺跡から推定される。これによって、人びとに共同を必要とする「衛生」という医学作業の可能性が生まれた。農の場合、古神道に見られるように、雨風などの災害を避けるため共同が欠かせない豊穣と災害回避を祈願する「儀式」が生まれた。ここに医と共通項がある。

医では、「ヒポクラテス医学」として長く人類の財産になる概念が生まれた。病気は神秘的な出来事ではなく、経験と合理の方法で接近できる自然の過程だという概念である。穀類の中で、とくに古い歴史をもつコムギ?オオムギが自生から栽培によって合理的に生産できることを知ったのは、医の概念と共通する。

つぎに西欧ルネッサンスである。外科と解剖学が発達した。「生きた」生理学と解剖学が始まった。「病院医学」が開花した。ヨーロッパの農業では、この時代に三圃式や輪栽式農業が開花した。

その後、産業革命が起こり、働く人びとの病気に医師たちの目が向かった。産業革命は、資本制下の労働者の生活?健康を悪化させ、公衆衛生学、社会衛生学の緊急な発展を促した。産業革命で増えた都市労働力のための食糧は、輪作農業が支えた。ノーフォーク式農法がフランスとドイツに広がっていった。

19世紀後半以降は、医学では研究室医学が発達した。ミュラーの門下に病理学者のウィルヒョウや、生理学者のヘルムホルツの姿が見える。「疫病」の病因と予防に焦点が向けられた。コッホや北里柴三郎らが病原微生物学、化学療法、免疫学という新しい分野を確立していった。生化学が分子生物学と合体し、生命過程に迫る有力な武器になった。農業では化学肥料や農薬の製造が始まり、農業生産は著しく高まった。さらに、分子生物学が隆盛になり、遺伝子組換え作物が造られた。

農学には代替農業、医学には代替医療がある。代替農業とは、化学肥料や農薬を中心とした集約的な農業生産に対して、これを代替?補完する農法である。代替医療とは西洋医学を中心とした近代医療に対して、それを代替?補完する医療である。いずれも生命科学としての特徴が現れている。

21世紀に入って医学はヒトゲノムの塩基配列を解読する全作業を終了した。時を同じくして農学はイネゲノムの塩基配列を解読する全作業を終了した。農学と医学がゲノム解読を果たした後に、これらの学問が果たす役割は何か?それは、農と環境と医の連携を抜きにしてはありえまい。

最近では、医療を教育や環境を含めて人類が共有すべき「社会的共通資本」と捉える考え方がある。この考え方は、貴重な湧水を農業生産の共通な資本としてとらえ、「三分一湧水」のもとに湧水を互いに平等に分け合うことに類似している。ちなみに、宇沢弘文は「社会的共通資本」を、「一つの国ないし特定の地域に住むすべての人々が、ゆたかな経済生活を営み、すぐれた文化を展開し、人間的に魅力ある社会を持続的、安定的に維持することを可能にするような社会的装置を意味する。」と定義している。

このように農と医は、はるか古代からともに生命に関わる道を歩いてきた兄弟なのである。ここではさらに、かつての文明の崩壊が農と医にも絡んでいた歴史を紹介する。まず、土壌と文明の崩壊についての事例を紹介する。

土壌と文明の崩壊

「土と文明」の著者、カーターとデールは序文の冒頭で語る。「文明の進歩とともに、人間は多くの技術を学んだが、自己の食糧の拠りどころである土壌を保全することを修得した者は稀であった。逆説的にいえば、人類の最もすばらしい偉業は、己の文明の宿っていた天然資源を破壊に導くのがつねであった」。

「遥かなる楽園」の著者、セイモアーとジラルデットは「第1章:人類とその影響」の中で語る。「当時は気がついていなかったが、いま私は、我々は土の生きものなのだということを知っている。人間はミミズと同じように土壌の生きものなのだ。もし海洋のプランクトンも陸上の土壌と同じとするならば、我々の体を構成する全てのものは土壌からきたものなのである。たとえ科学者が石油か天然ガスから食べられるものを造り出し得たとしても、石油も天然ガスも遠い昔の土の産物である以上、我々はやはり土の生物なのである。人類はまだ光合成に成功していないし、そうなる見通しも立っていない。そう考えれば、足下の大地が流れさってしまうのを見るのは身の毛のよだつ思いである」。

土壌と文明と環境を主題にした、これらの書を参考にして土壌の崩壊の歴史をふりかえってみる。土の崩壊が文明の崩壊であったことは、世界の歴史が教えている。ギリシャ人がそのすばらしい知的努力を、彼らの文明を可能にしたと想われる土壌保全に向けなかったことは、歴史の悲劇ともいえる。ギリシャ人のような輝かしい民族が、なぜ短い期間に没落したのであろうか。

彼らも、ほかの民族と同じように糊口の道を農業に依存していた。しかし、人口の増加と地力を収奪し、土壌侵食を助長する商品作物の需要が急速化したため、土壌資源の枯渇と生態系の破壊が進んだ。ギリシャの力が強かった時代は、それでも植民地の土壌を借用してその繁栄を維持できたが、その植民地をどこか他の国に奪われると、ギリシャ文明は急速に没落の一途をたどることになる。このことは、文明の進歩の限界が、自然からの土壌資源の収奪の上限であることを示唆している。

ギリシャの土壌が失われることに対する懸念は、プラトンの本「クリティアス」にも書かれているという。アッチカの森林伐採と農耕の影響に関する彼の記述は、今日でもわれわれの心をうつほどの強烈な文章である。

注)アッチカ:中央ギリシャのほぼ三角形の半島部の地域。アッチカの平野は穀物よりもオリーブやブドウ栽培に適し、オリーブ油はアッチカの主要輸出品であった。アテネの繁栄とともに人口が増加し、暖房や調理のための木炭の需要が増え、森林の減少が進んでいた。さらにペロポネソス戦争でスパルタ軍が陣を張ったため、農地も荒廃した。

「我々の土地は他のどの土地よりも肥沃だった。だからこそ、あの時代に農耕作業を免除された大勢の人を養うことができたのである。その土地の肥沃さは、今日我々に残されている土地でさえ、作物を豊かに実らせ、あらゆる家畜のために豊かな牧草を育てる点で他に引けをとらないことからも明らかである。そして当時は質に加えて量もまた豊富だった。小さな島でよく見掛けることだが、肥沃な柔らかい地面はことごとく流出して、病人の痩せ細った体のように痩せた土地の骨格だけが残っている」。

ローマやほかの文明も同じようなパターンをたどった。戦争や人口増加によって土壌侵食が起こり耕地が減り、商品作物であるオリーブ栽培に多くの土地が使われた。国力が強固なうちは、領有地からの輸入で食料をまかなっていたが、土壌の荒廃にともなう農業人口の減少はさらに国力の衰退にと繋がった。

またメソポタミア文明の衰退も、塩分蓄積による土壌の劣化であることが明らかになっている。チグリス?ユーフラテス川の利用による灌漑で農業生産をまかなっていたが、適切な灌漑が行われなくなると、地下水位の上昇が起こった。その結果、作物の根は酸素飢餓を起こし、生育は低下した。

乾燥気候での灌漑は、地表近くまで上昇した地下水が大気に蒸発し、地表に塩分を残す。その結果、作物の収量は低下する。そこに残されたのは、生産能力のきわめて乏しい塩類化した土壌だけとなる。当時、メソポタミアを支配していたシュメール人が直面した土壌の塩分濃度の上昇は、人類史上初めての塩類集積による土壌汚染といえるかもしれない。

フェニキア文明の顛末は、クレタ島のミノス文明のそれに似ている。雨水に依存した農業を基盤に文明を発達させた最初の人類といわれるミノス人は、ブドウとオリーブをギリシャに広めたことで有名であるが、クレタ島の土壌資源をことごとく収奪してしまった。フェニキア人は、レバノン杉を主要農産物として糊口を潤していた。また、丘陵を耕作する技術を持っていたが、山羊の放牧によって山羊が下草を食べ尽くした。森林伐採と山羊の放牧によって土壌の大部分を流亡させ、文明を滅ぼした。フェニキア文明の崩壊もまた、地力の消耗と土壌侵食によるものであった。

このように世界の文明の盛衰は、土壌の侵食や土壌からの養分の略奪ときわめて深くかかわりあっている。文明が輝かしいものであればあるほど、その文明の存在は短かった場合が多い。

ドイツの化学者、リービッヒは1840年代に「土壌がいつまでも肥沃であるためには、そこから取り去られたものが完全に戻されねばならない」と述べ、土壌の肥沃度に関する科学的な理解を根本的にかえた。リービッヒは見習うべき実例として、中国や日本の農業を挙げた。しかし、それも今ではすでに過去のことである。

人間は、単に食物を食べるだけではない。われわれは大地をも食べている。土壌を酷使した結果、流亡や侵食などの作用によって裸地化した斜面から洗い流される土のひと粒ひと粒が、われわれの消費のありさまを示している。砂漠に変わってしまった森や草地はすべて、われわれの代謝作用の総合的な結果にほかならない。

マラリアの流行と文明の崩壊

マラリアがいつから何処で、どのような状況のもとに発生し、人びとを苦しめ、世界の文明に大きな影響を与えたかを知るには、橋本雅一氏の「世界史の中のマラリア」は最適な書物である。そのうえこの書には、マラリアの起原、症状、原因、4種の病型、伝播の仕組み、原虫の生殖、「三度の発見」、疫学的優位性などが手短にまとめられている。

文明が発達する初期の段階は、さまざまな病気が顕在化する過程と一致するところがある。農耕や牧畜、都市の発生、交易、戦争などは、人と人や民俗と民俗が高密度に接触する場である。それも大河の畔に沿って、これらの文明は進展する。いずれも病原体が人間と接触する機会が増大し、その伝播に有利な条件を与えることになる。病気はしばしば流行という形で人間の集団を襲う。その結果、病気は共同体の存続を左右する。ひいては文明の崩壊とも関わってくる。

シュメール人がメソポタミア南部に定住したのは、紀元前3,500年頃とされている。彼らはここに農法、成文法、天文学、土木、政治、経済などあらゆる分野の文明の基を開花させた。とくに大河の畔の水利事業の完成は、この地を豊かな大地に変貌させた。

それに付随して、膨大な労働力の管理統制をはじめ水利権や境界線をめぐる争いなどが生じた。その解決には、強力な統率力が求められる。そのため都市国家が誕生することになる。大河の畔に誕生した都市文明は、疫病の流行を受忍しなければならなかった。灌漑農耕によるメソポタミアの文明は、マラリアの他にも数多くの原虫類、細菌、ウイルスなどに起因する人畜感染症をもたらした。

メソポタミアの昔の人骨にマラリアの証拠を見つけ出すことができる。熱帯熱マラリアは、防御のために獲得された遺伝因子鎌状赤血球との関連において、骨髄の拡大、耳下骨形成過多症を惹き起こし、その病痕は頭蓋骨に著しい変形をもたらすのである。

エジプトでは、古代医術のありようもより明確になる。神殿に奉仕する僧医たちは、初期王朝時代(前3000年頃)から素朴な診断法と有効なあるいは無効な処法をとりまぜて雑多な処方を伝承する習慣を持っていた。「医学パピルス」と総称される文書には、マラリアの三大症状として知られる発熱、貧血、脾腫についての記載が含まれており、マラリアの存在が認められる。

ギリシャ文明の衰退とマラリアとの関係を綿密な考証によって解き明かした「マラリアとギリシャ文明」という書がある。それによると、ギリシャ人の祖先がこの地に定着する以前からマラリアが存在した可能性はある。ペルシャ戦争(前492頃~前479)を経てペロポネソス戦争(前431~前404)のさなかにアッチカに大流行し、紀元前400年頃には、全土に風土病としてはびこるに至った。

乳幼児の大部分はマラリアに罹患。死を回避できても心身の発育が阻害。運良く成人に達しても、再三再四発病をくり返す。慢性疾患につきものの衰弱、無気力、倦怠感に取り憑かれたままの生涯。このため、文明を支える活力は精神と肉体の両面から失われた。かつてペルシャ軍を撃破した時代のギリシャ人の面影は、もはやそこには見出せなかった。こうして紀元前338年、ギリシャはマケドニアの軍旗に従うことになる。

マケドニア?ギリシャ連合軍を従えて東方遠征の途に就いたアレクサンドロス大王は、紀元前334年、北インドからバビロンに凱旋したあとマラリアと思われる熱病で死亡した。マラリアは英雄も一介の兵士も差別しない。そして、文明そのものをも崩壊させる力を持つ。

伝承によればローマの建国は紀元前753年に当たるが、実際には紀元前600年頃ではないかと言われている。それからおよそ300年間は、マラリアの流行はさほど目立たなかった。これは初期のローマ人の水に対する意識の持ち方が功を奏したものと考えられる。彼らは先住民のエトルリア人から人体に及ぼす水の重大さを学び、紀元前6世紀という早期にローマ市街を貫く大排水路を建造し、紀元前4世紀のはじめには最初の上水道を完成させている。これらの施策がマラリアを媒介する蚊の発生源を狭い範囲に閉じこめる働きをしたのである。

しかし、紀元前264年の第1次ポエニ戦争(前264~前241年)の勃発が、ローマにマラリアを蔓延させる走りになるのである。この戦争の結果、ローマは旧来名だたるマラリアの蔓延地シチリアを初の海外領地にするのである。

ところが、この紀元前2世紀に始まるマラリアの急増には別の原因が絡んでいるという説もある。エルスワース?ハンティントンによれば、この時期のローマの疫学事情の悪化には、地球規模の気候の変化が大きく作用しているという。その変化とは、「蚊が勢いよく繁殖することができる地域を非常に増加させるような類の変化であった」。

彼は、この現象が起きた時期を紀元前250年から紀元650年の間と推定し、それがローマの農業を疲弊させると同時に、マラリアという「ローマ人の生物的衰退におけるもう一つの重大な要因」を生み出したと指摘する。すなわち、気候の変化である。乾燥の進行と降雨量の減少は、森林の破壊と地力の消耗を促進させ、マラリアの発生要因を作り出す。彼はその様を次のように推論する。

「紀元前300年間のイタリアで好ましい気候が一般につづいていた時期をつうじて、山やまにはおそらく木ぎが十分に生い茂り、泉が豊かであったろう。流れは大部分、年中たえることがなかったにちがいなく、おそらく渓谷に沿い、それゆえ流れは明瞭に特定しうる水路を流れた。すでに見たように、しだいに乾燥してくると、山やまはだんだん不毛になっていったであろう。その結果、流れには泥や砂利が重く混ざり込んだであろう。これは農地を破壊するばかりでなくマラリアを増加させる重大な要素となるであろう。自然地理学者なら誰でも知っているように、沈泥の重くまざった流れは山から出て平野に注ぎ込むとき、その沈泥の一部を沈殿させる。こうして本来の水路が一杯になると、流れは向きを変えて新しい水路をとり、しだいに多くの支流に広がるのであるが、この支流が広大な地域のここかしこを流れて、しばしば沼沢地を作るのである。このような流れが、乾燥した夏の間に水量を減少させると、たいていの水路はたんなる一続きの淀んだ水溜まりとなり、蚊の棲息に絶好の場所となる。更に夏の乾燥が激しければ激しいほど、それだけますます灌漑が必要となり、これがまた淀んだ水溜まりの原因となるのである。(中略)マラリアによる惨害がふえたのはおそらくこのためであり、このマラリアの惨害が、ローマ人の自制心や活力を破壊するのに一つの役割を果たしたのである。」

温暖化でマラリアは?

「上述したエルスワース?ハンティントンの推論を読めば、当然ながら今の地球の温暖化はマラリアにどのような影響を与えるかという疑問が生じてくる。

「IPCC(気候変動に関する政府間パネル)報告書は、地球温暖化が人間の健康に及ぼす影響についてさまざまな事項を指摘している。ここでは、マラリアに関することを整理する。

「温暖化により、感染性ウイルスを媒介とする蚊などの生息域(北限)が拡大され、感染の影響が大きくなる。マラリアの感染は年間3億人、死者は毎年100万人~300万人に達するといわれている。マラリアを媒介するハマダラ蚊は、15.5℃以上で繁殖するとされており、温暖化によりハマダラ蚊の生息域が拡大され、その被害も拡大すると見られている。

「気候変動によって、マラリアやその他の動物媒介性伝染病が伝播する地理的範囲が拡大する。そのうえ、水系および食品による媒介性疾患が増加する。これらの影響の深刻度は、適応策に関する能力や効率的な展開によって異なる。

「わが国を含む温帯アジアの予測では、幸いなことに世界的に見て比較的影響は少ないと考えられる。しかし、強大な台風が発生し異常気象が頻発し、海面上昇により海浜が失われ、高温による健康への悪影響などが現れる可能性が高いと指摘されている。この中でも、高温の健康への悪影響、とりわけマラリアの蔓延の可能性について注目する必要がある。

「世界保健機構(WHO)によると、途上国では栄養事情が改善され、それにより乳幼児死亡率が低下し、人の寿命が延びている。しかし一方では、マラリア、デング熱、コレラのような動物媒介性の疾病や水系伝染性の疾病は増加している現状がある。

「現在、マラリアの感染者数は全世界で約5億人、発症者は1億人以上で、死亡者は年200万人に及ぶと推定されている。これらの数字は、HIVなどの死亡率の高い疾病に隠れて目立たないが、マラリアは世界最悪の健康問題といっていい。

IPCC報告書の数値モデル研究によると、2100年までに気温が3~5℃上昇すれば、世界のマラリアの潜在感染危険地域は著しく拡大する。50年後には、そこに住む感染人口の約45%から約60%に増加し、年間感染者数は5~8千万人も増加すると予測されている。それまでには、わが国の西日本一帯も潜在感染危険地域に含まれるという。また米国の南部一帯は既に危険地域に含まれつつあり、感染者の増加が報告されている。

このため「気候変動と人間の健康」では、アフリカにおける「マラリア分布モデル」が図式化されている。これはマラリアに対するアフリカの地域別の適合性を推定したものである。このモデルは、寄生虫や媒介生物に対する気候や降雨量による生物学的な制約条件を基に作られている。

「マラリア季節モデル」も作られている。アフリカのマラリア流行期間の分布図である。気候変化によるマラリアの潜在的な流行に関するいくつかの予測では、流行持続期間が延長し、地域によっては蚊よけ用ベッドネットを1シーズンに2回利用することになるところも出る。

アフリカ大陸のマラリア分布と人口分布を組み合わせたモデルを使って、マラリア流行地域の人口も推定している。マラリアは、気候変動のさまざまな予測モデルの種類にかかわりなく拡大すると予測されている。

エルニーニョが発生すると、一部の地域では旱魃や洪水が発生し、その地域の安定した生態系が崩れる。例えば洪水は土手を崩壊させ、蚊の発生分布を変える。また地表水を汚染する。これらはいずれも疾病流行をもたらす要因になる。このことをベネズエラで発生したエルニーニョとマラリア発生の相対的な変化で明らかにしたデータが、「気候変動と人間の健康」に掲載されている。マラリア流行とエルニーニョとの間には相関が認められるのである。

マラリアのリスク評価の試みは続く。マラリアの発生に関与する要因群をまとめ、最初に温度、降雨量や湿度、土地被覆率あるいは地域の対策資源などが変化することによって媒介蚊の生息状況が変化することを明らかにしている。その結果、蚊自体の感染率、密度あるいは人を刺す率などが変化し、また、人の免疫系の変化と相まって、最終的にマラリアの罹患率が変化することがまとめられている。

中でも最も重篤な熱帯熱マラリア(falciparum malaria)の発生リスクを推定するためのグローバルな前提条件を明確にしている。ここではアフリカの研究から得られた温度および降雨量とマラリア罹患率に関する量‐反応関係(MARAモデルと呼ばれている)を基本としている。

おわりに

2006年に66億に達し、今なお増加しつづける人口に食料を提供するため、人類は森林を切り開き、極限の大地にまで農地を拡大してきた。しかし、いまや農地を拡大する大地は残っていない。そのうえ、集約的農業により世界の至るところで今なお土壌侵食が起こっている。土壌侵食に伴って原虫を運ぶ蚊の温床ができあがる。加えて、地球の温暖化がこれらの現象を加速する。これに対して、われわれはどのような行動を取るべきか。手を拱いて傍観することはできまい。

参考資料
  1. 世界史の中のマラリア:橋本雅一、藤原書店(1995)
  2. 陽 捷行:土壌から考える農と環境、イリューム、33号、41-56(2005)
  3. 気候変動と健康影響:情報:農と環境と医療14号、博狗体育在线_狗博体育直播【官方授权网站】@学長室通信、1-6(2006)
  4. 現代社会における食?環境?健康:陽 捷行編著、博狗体育在线_狗博体育直播【官方授权网站】@農医連携学術叢書 第1号、養賢堂(2006)
  5. 土と文明:カーター?デール著、山路 健訳、家の光協会(1975)
  6. 遙かなる楽園:セイモアー著、日本放送出版協会(1988)
  7. http://www.data.kishou.go.jp/climate/cpdinfo/ipcc_tar/spm/spm.htm
  8. Rosentrater, L: Evidence and Implications of Dangerous Climate Change in the Arctic, WWF (2005)
  9. 気候変動と人間の健康‐リスクと対策‐:マクマイケル?キャンベルーレンドラムら編、日本語版監修、(独)国立環境研究所(2006)
  10. Climate Change and Human Health -Risks and Responses SUMMARY, WHO (2003)
資料の紹介 4:ヘルシスト、vol.30, No.5 (2006)
雑誌「ヘルシスト」は、創刊30周年記念に特集号を発刊している。そのなかで、「健康年表:ヘルシスト30年の時の流れ」が組まれているので紹介する。この特集号には、その他「祝辞エッセイ:30年前、そして現在?未来」が組まれ、各界の人びとが、「あすの健康に向かって」の想いを寄稿している。

この雑誌は1976年に創刊された。誌名は、岩波書店の「物理の散歩道」の筆者グループ名の「ロゲルギスト」が、ギリシャ語のロゴス(logos:言葉)、エルゴン(ergon:仕事)の合成語であるロゲルギーク(logergik)に由来するとあるのにヒントを得て、ヘルス(health:健康)とイスト(-ist:行動する人)を合わせて「ヘルシスト」(healthist:健康に向けて行動する人)としたものだそうである。

この健康年表は、1976(昭和51)年から30年間の時の流れを年表にしている。各年ごとに社会全般、健康関連、ヘルシスト関連という項を立て、その時々の特徴を新聞や雑誌などの「今年の10大博狗体育在线_狗博体育直播【官方授权网站】@」を参考にまとめたものである。要を得て簡潔な年表である。ここに「健康関連」の内容を年ごとに紹介する。

1976年: アフリカのザイールで治療法がなく、致死率の非常に高いウイルス感染症エボラ出血熱が発生
1977年: 日本人の平均寿命が男女とも世界一に/和歌山県有田市で集団コレラ発生、感染者約100人
1978年: WHOとユニセフが「アルマ?アタ宣言」でプライマリ?ヘルス?ケアの概念を提唱
1979年: 利根川博士が後にノーベル賞受賞の対象となる遺伝子学説を発表
1980年: WHO全世界天然病根絶宣言
1981年: 米CDC(疾病管理センター)はロサンゼルス地域で奇病が発生していると発表、エイズの発端
1982年: 奇病をAcquird Immune Dificiency Syndrome (AIDS)と命名/米で集団食中毒事件が発生、血清型O:157H7の病原性大腸菌を分離
1983年: 日本のマスコミが「エイズ:後天性免疫不全症候群」を初めて報道/豪研究者ピロリ菌を発見
1984年: 米と仏が同時にエイズの病原ウイルスを発見したと発表/熊本名産のカラシ蓮根食中毒事件
1985年: 国内初のエイズ患者が確認される、年末までに計11人の患者が判明
1986年: WHO「世界のエイズ患者は75カ国20,086人」と発表(1月)、国内のエイズ患者25人
1987年: 日本で初のエイズ患者(女性)が死亡
1988年: WHOが4月7日を第1回世界禁煙デーに/CDC(米疾病対策センター)慢性疲労症候群(CIF)を提案
1989年: 英の生物学者フラーがプロバイオティクス(Probiotics)の概念を提唱
1990年: サハリンで大やけどを負った男児を札幌医大で治療、手術は成功/浦和市の幼稚園でO157による集団食中毒発生
1991年: 特定保健用食品制度スタート/英新聞がA群溶連菌感染症を、懐死のスピードが速いことから"人食いバクテリア感染症"と報道
1992年: 国内のエイズ感染者?患者数3,000人
1993年: 中南米でデング熱が流行
1994年: 日本学術会議が尊厳死を認める
1995年: アフリカでエボラ出血熱再発、大流行/北大で初の遺伝子治療
1996年: O157食中毒各地に広がる/「成人病」を「生活習慣病」に名称変更
1997年: 香港で鳥インフルエンザウイルス(H5N1型)感染者が死亡、WHO厳戒態勢/厚生省SIDS(乳幼児突然死症候群)の全国調査開始
1998年: 100歳以上の高齢者初めて1万人を突破/環境庁調査で環境ホルモンが各地から検出
1999年: 厚生省、性的不能治療薬バイアグラを承認/世界人口60億人を突破
2000年: 新しい国民運動「健康日本21」スタート/雪印乳業の乳製品で集団食中毒/米国とカナダでウエストナイル脳炎流行
2001年: 国内初のBSE(狂牛病)感染牛が千葉県で発見/BSE対策で肉骨粉製造?販売を禁止/全頭検査が始まり北海道、埼玉県でも感染牛が確認
2002年: 中国でSARS(重症急性呼吸器症候群)発生/日向市の温泉施設でレジオネラ菌の感染症で6人が死亡
2003年: 東アジアで高病原性(H5N1)鳥インフルエンザが流行/健康増進法施行
2004年: 国内でも高病原性鳥インフルエンザが流行/メタボリックシンドロームの概念が定着
2005年: 国内初のヤコブ病感染が判明/高病原性鳥インフルエンザが世界に拡大
言葉の散策 10:気 
「情報:農と環境と医療」を書き始め、そのうえ「言葉の散策」を連載し始めてから、人間の体を取りまく農と環境とに、「気」という言葉が多く使われていることに気がついた。それからというもの、この「気」という言葉が気になり始め、いつも気にするようになり、気にかかり続けている。

気になりだすと、心が定かでなく気持ちが悪い。かつて、気が弾み気が向くまま「情報:農と環境と医療 12号」の「言葉の散策 7」に「元気」について書いた。しかし、それだけでは満足な気持ちになれないので、気を能くするためここに再び「気」に登場していただいた。

読者の気を取るつもりはないが、気をそそられる方は気を入れて、気がすすまない方は気を悪くなさらず、気休めに読まれたい。気に入られた方には気が冴えたことだろう。気にくわない方は、気を取り戻して別の項を読んで頂ければ幸いである。気をそそられる項目もあるやも知れない。

ちなみに、上のたった10行の文章に「気」という文字が25回も登場する。これほど使用される「気」とは、一体全体なにものなのだろう。以下「気」について、「字通:平凡社」、「大字源:角川」、「国語大辞典:小学館」、「ことわざ大辞典:小学館」、「言海:明治37年版」および「広辞林:三省堂、大正14年版」を散策してみた。

「気」の文字で中のメがない部分は「きがまえ」という部首で、象形文字で気体の状態に関する意を表す文字でできている。「雲気が空に流れ、その一方が垂れている形」を示したものである。気は形声文字で、旧字は氣である。

「「字通」によれば、次のように解説されている。1)客に送る食糧、食事のおくりもの。2)空気、いき。3)活動の源泉となるもの、元気、ちから、いきおい。4)人の心もち、気だて、うまれつき。5)気としてただようもの、におい、かぐ。6)もののある状態、おもむき、ありさま。7)季節を動かすもの、とき。

「「大字源」はもう少し詳しい。1)水蒸気。もや。かすみ。きり。空中に立ち上がるもの。蒸気。雲気。空気。空間を満たす形のないもの。大気。気圧。むらむらと立ち上がる気象。天地間の自然の現象。天気。気象。気候。2)いき。呼吸。3)におい。かおり。香気。芳気。4)においをかぐ。5)活動力。元気。生気。6)こころもち。きもち。心の動き。精神。心気。7)うまれつき。もちまえ。8)きだて。気質。剛気。覇気。9)おもむき。ようす。ありさま。風気。

「10)いきおい。活気。気力。11)とき。時節。陰暦で360日を24期に分けた一期。15日。5日を候、3候を気という。24気。転じて、時候。季節。12)宇宙の万物を構成する物質。理(万物生成の原理)に対していう。「天地合気、万物自生」

「言海」は古いにもかかわらずかなり詳しい。1)天地ノ間ニテ、寒暑、陰晴、自然ニ運リ現ハルル象ナリ。2)香、畑、湯ナドヨリ立チ上ルモノ。気。3)動物ノ生キテアル力。タマシイ。生活ノ精神。4)心ノ趣ク処。ココロバセ。好ミ。5)ココロ。カンガヘ。オモンバカリ。意思。6)十五日一期ノ称。

「広辞林」は詳しい。15項目の説明がある。これまでの字典にない説明に次の3点がある。1)光?熱などの如き、はたらきありて補足すべからざるもの。2)生命の保存力。3)たましい。せいしん。

「国語大辞典」が最も詳細に書かれている。ここでは「気」を3つの範疇に分けている。「変化、流動する自然現象。または、その自然現象を起こす本体」と「生命、精神、心の動きなどについていう。自然の気と関係があると考えられていた」と「取引所で気配のこと」である。

これまでの字典にない説明に、1)万物を生育する天地の精。天地にみなぎっている元気。2)そのもの特有の味わい、かおり。香気。3)精神の傾向。気だて。気ごころ。4)何事かをしようとする心のはたらき。などがある。

こうしてみてくると、古来「気」が農と環境と人間にきわめて密接に関係していることは明らかなことなのである。天地合気、万物自生は自然環境にも人間にも適応できる言葉なのである。大地(環境)は気を通し、活発に変化?流動しており、人間は気を通し、生命?精神?心の動きを活性化している。「気」は環境にも人間にも欠くことができないものなのである。

環境にかかわる「気」の漢字二文字の言葉を追ってみよう。気圧?気温?気化?気候?気象?気体?温気?雲気?空気?湿気?暑気?蒸気?大気?暖気?寒気?天気?二十四気?夜気?熱気?気団?気泡?気流?陽気など。

人間にかかわる「気」の漢字二文字の言葉はどうか。気意?気鬱?気結?気疾?気性?気絶?気息?気体(精神と肉体、心身)?気風?気分?気脈?気門?気力?活気?脚気?寒気?血気?健気?元気?根気?正気?心気?生気?精気?爽気?胆気?毒気?病気?口気?気官?意気など。

強調文字で示したように、環境と人間の両方に「気体」という漢字二文字の言葉がある。一方はガスの気体で、片方は精神と肉体すなわち心身の気体である。大変興味深い。

諺や言葉の使い方はどうであろうか。「国語大辞典」および「ことわざ大辞典」では、「気」を使う言葉や諺がそれぞれ217および309の項目ある。その中の例をいくつか紹介しよう。われわれの生活の中で、環境と人間に関してこれほどまでの数の「気」が使われているのに驚いた。われわれは、「気」という言葉の海に漂っているという気がする。こう思うのは筆者だけだろうか。
  • 暑い寒いは気の迷い:暑く感じるのも寒く感じるのも、気の持ち方一つだということ。
  • 気が傷む:心配する。気がもめる。気をつかう。気がひける。気づまりになる。
  • 気を吐く:威勢のいい言葉を発する。意気を示す。
  • 気を呑む:じっと息を殺す。かたずをのむ。気持ちの上で相手を威圧する。
  • 気を抜く:びっくりさせる。肝を抜く。疲れた神経をほぐす。いきぬきする。捨てて顧みない。無関心になる。
  • 気を通ず:互いの気持ちを通じあう。意思が通じあうようにする。
  • 気を死なす:気を落とす。がっかりする。気力を喪失する。
  • 気の所為:実際には存在しない現象を見聞きしたり、理由もなくある感情を持ったりする など、原因が自分の心の持ち方にあること。

参考資料

1)字通:平凡社 2)大字源:角川 3)国語大辞典:小学館 4)ことわざ大辞典: 小学館 5)言海:明治37年版 6)広辞林:三省堂、大正14年版
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発行日 2006年11月1日