SDGs

Vol.14 牛が排出するメタンを可視化して排出削減の取り組みに貢献

これまでの家畜生産では、生産性?品質向上を主な目的として様々な技術開発や改良が行われてきました。さらにICTやAIなども導入されるようになり、明らかに生産性は改善されました。しかしながら、近年になってSDGsや環境に対する関心が国内外で高まり、重要な行動規範としてあらゆる産業に浸透しつつあるなか、家畜生産においても環境負荷軽減に取り組み、自然資本の持続的な利活用や環境調和型の生産へシフトすることが強く求められています。つまり、生産性の確保と持続性を両立する家畜生産方式への転換です。

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メタンは反芻動物の第一胃内における飼料の嫌気的分解過程において、主にメタン菌によって生産されます。近年、畜産?酪農現場からのGHG排出や、地球温暖化?気候変動との関連性について世界的に関心が高まってきており、反芻動物からのメタン排出を低減する方法を開発するための多くの研究が進められています。

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簡易メタンガスモニタリングシステム”サーモニメタン

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畜産からのメタン排出削減の取り組みを加速するためには、より生産現場に近い環境で、かつ多くのデータを取得することが必要であり、そのためには普及可能な価格でメタンガス濃度をモニタリングできる技術が不可欠でした。私たちが新たに開発した簡易メタンガスモニタリングシステム“サーモニメタン”は、半導体ガスセンサー(メタン、二酸化炭素)、ケーブルと専用のアプリから成り、パソコンでアプリを起動してメタンガスと二酸化炭素濃度を連続的にモニタリングするものです。半導体ガスセンサーの採用は、家庭用のガス警報器から着想を得ました。

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搾乳ロボットでの測定データ

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従来のガス分析計と比較して大幅なコストダウンを実現したことにより、一部の研究機関や大学でしか行えなかった畜産現場のメタン計測を、より多くの機関で実現できるようになり、様々なアプローチによるメタン排出削減対策の実践にも寄与するものと考えています。さらに、これまでの手法ではできなかった、畜舎内に複数台のセンサーを配置したより精密なモニタリングも可能となるため、畜産からのメタン排出削減の取り組みが加速するものと考えられます。実際に、メタン排出を低減できるかもしれない様々なアイデアの実証用として、多くの機関で導入されています。

 

畜産現場で発生するメタンガスをモニタリング(計測)し、何らかの対策によってメタン排出量をコントロール(制御?抑制)することができれば、それによって得られた畜産物はまさに“エシカル商品”と言え、地球環境と両立する畜産の持続的な発展に寄与するものと考えられます。

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マスク法による測定

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また、牛からのメタン排出削減は、一見、環境対策としてのみ捉えられがちですが、バイオマスエネルギーにもなるメタンの排出は、牛側からすると ”エネルギーの損失“ とも言え、摂取した飼料エネルギーの12%にも及ぶとの報告もあります。呼気からのメタン排出削減は、体内でのエネルギーバランスの改善≒生産効率の改善(乳量、増体)につながるため、生産者側としても、飼料利用効率が改善することによる飼料価格高騰対策になり得ます。

動物飼育管理学研究室では、このシステムを発展させた研究を現在も継続しています。今後の研究成果にご注目ください。


関連動画


搾乳ロボット内でのメタンガス計測(乳用牛)
https://www.youtube.com/watch?v=T4LqrtOmtQY


マスク法によるメタンガス計測(肉用牛)
https://www.youtube.com/watch?v=K957ucsfeKw

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