牛胚の新規ガラス化凍結?融解移植法(KVS-ダイレクトシステム)の研究開発について

近年、世界的に体外受精による牛胚の生産が増加し(移植胚の約80%、2022年国際胚移植学会)、胚移植技術を用いた体外受精胚由来産子の生産が盛んにおこなわれています。日本においては、より優秀な乳牛の系統樹立のために、また、能力が高くないホルスタイン牛に黒毛和種牛の胚を移植することで、牛乳生産と肉用子牛の両方を獲得するという農家経営に寄与する方法も多く取り入れられています。

哺乳動物胚の凍結保存法には大別すると緩慢法とガラス化法があります。牛胚移植用に供給される凍結胚は、緩慢法で凍結保存される場合がほとんどです。緩慢法の利点は、凍結胚を封入したストローを移植現場で温湯に浸漬して融解し、そのまま移植器にセットして受胚雌に移植する、すなわち凍結精液を用いた人工授精と同じ方法で簡便に操作できる点であり、ダイレクト移植法と呼ばれています。

一方、ガラス化法はヒト胚や実験動物胚の凍結保存に広く利用されている方法であり、その最大の利点は、凍結融解後の胚の生存性が100%に近く、緩慢法(60~90%)より優れている点です。このような利点にも拘らず、牛胚移植にガラス化法は普及していません。その主な理由としては、ガラス化胚を作製する際の胚の取り扱いに高度な技術を必要とすることと、ガラス化胚では融解時に胚細胞内に浸透した高濃度の耐凍剤を希釈する操作が必須であり、その操作が複雑なことです。

動物生殖学研究室では、技術的に難しいガラス化操作を簡便かつ安定的に実現できる新規ガラス化保存デバイス(KVSデバイス)を三菱製紙株式会社と共同研究開発し、製品化に成功しています。そこで、KVSデバイスの長所を生かすべく、KVSデバイスを用いてガラス化保存した牛胚の胚移植現場への適用を目指して、動物生殖学研究室と動物飼育管理学研究室および三菱製紙株式会社との共同研究開発を日本中央競馬会特別振興資金助成事業として、2020年度から3年間にわたり行ってきました。

その成果として、牛胚の新規ガラス化凍結?融解移植法として、KVS-ダイレクトシステム(ET-ONE)を開発することに成功しました。今回開発したET-ONEでは、KVSデバイスでのガラス化操作が簡便かつ安定して実現でき、また、移植現場での胚融解?耐凍剤希釈をワンステップで簡便に行うことが可能になります。今後、ET-ONEによる牛ガラス化胚の移植が普及することで高品質和牛の増産が期待されます。現在、ET-ONEの製品化について準備中です。

さらに、2023年度から新たに採択された日本中央競馬会特別振興資金助成事業の中で、ET-ONEシステムを用いた牛ガラス化胚の移植後の受胎成績を集積するとともに、その受胎率を高めるための研究に取り組みます。

なお、牛受精卵の新規ガラス化凍結?融解移植法(KVS-ダイレクトシステム)の研究開発成果の概要については、以下PDFファイルをご覧ください。

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PDFファイル:JRA畜産振興事業成果報告書(2023.3)

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研究成果の概要、新規ガラス化システムの説明動画は、以下よりご覧頂けます。

牛ガラス化胚の新規移植法開発?実用化事業(①概要)
https://youtu.be/z84hQxPQapM

牛ガラス化胚の新規移植法開発?実用化事業(②ガラス化凍結保存方法)
https://youtu.be/w8fd5PTbQhM

牛ガラス化胚の新規移植法開発?実用化事業(③ガラス化胚の融解方法)
https://youtu.be/n5CuzpG2qJI

牛ガラス化胚の新規移植法開発?実用化事業(④移植器への移植用デバイスのセット)
https://youtu.be/fXyNYm8KNLs

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