SDGs

Vol.13 生態系の保全と地域の開発?整備を考える

日本の農業の最大の役割は国民食料をいかに安全,安定的に確保するかということです。全ての食料を自給できればよいのですが,農地に適した土地が少ないこと,食生活が変化しご飯中心の食生活から肉,魚,野菜などさまざまな食生活になり,コメが余るようになってきました。たとえば牛肉1kgを生産するのにトウモロコシに換算すると11kgもの飼料が必要とされています。このような飼料を日本国内で生産するより輸入した方が安いので,畜産の飼料の多くが輸入されています。これは食料自給率の低下につながります。また我が国の農村は高齢化が進み,農地面積が減少しています。耕作放棄地は何と滋賀県の面積と同じくらいの農地が耕作放棄されています。

政府は自給率を上げるための政策を打ち出していますが,いうまでもなく農業は「人間」が行う産業です。海外からの安い輸入品に対抗するにはいかに先端的な機械化などを進めながら効率的な農業を行うかが重要な課題となっています。

2015年に国連で採択されたSDGsは,2030年までに持続可能でよりよい世界を目指す国際目標です。わが国ではSDGsアクションプラン2023を定めてSDGsを実現しようとしています。その中に,水田の区画を大きくしたり,水田では畑作物を作れるようにする圃場整備事業や畑作物の生産性を上げるための排水事業などを含む「農業農村整備事業」の推進が挙げられています。このことは,将来トラクタなど農業機械の無人走行や,農地への灌漑を自動化する生産性の向上するうえで不可欠な事業です。

一方,農業の近代化?効率化のため,農薬の使用の他,農業農村整備事業によって水路をコンクリート化したり,何本かの農業水路をまとめたり(農業用水路の再編)しています。このことにより,水田や水路に生息している生物を減少させています。SDGsアクションプラン2023では「生物多様性、森林、海洋等の環境の保全」において,人々の暮らし方の変化も踏まえた、里地里山における生物多様性に配慮した持続可能な活動を支援?普及を行うこと」としています。科学技術の発達が自然にダメージを与えることは残念ながら他産業でも見られます。農業の場合も効率化?近代化は,生物多様性の減少を招いています。このため農業農村整備事業を実施する時は環境に配慮して行うこととされました。

図1 調査を行ったため池

土壌環境学研究室では,農業用水路の再編によって孤立化したため池に生息する生物の個体群が絶滅する恐れがないか絶滅危惧種であるアカハライモリを使って研究しています。

ここで研究手法について述べます。餌を入れた網を水中に沈め,翌朝引き上げました。アカハライモリは個体によってお腹の模様が異なるので個体識別ができます。このことを利用してアカハライモリの個体数,移動生態を調査しました。また「安定同位体比」を用いてアカハライモリが利用している餌資源が水中で作られたものか,陸上で作られたものかを調べました。これは簡単に言えば水中で生成された有機物は陸上で生成されたものに比べて少し重い(生物を構成する炭素に占める炭素13が多い)という性質を利用したものです。

これまでに得られた研究成果は以下の通りです。

  1. このため池に生息するアカハライモリは約300匹であること。今後,この個体数が減少しないか観察する必要があります。
  2. アカハライモリは同じ採捕地点で採捕される個体が多くあまり移動しないこと。しかしなかには活発に移動している個体もいること。このよく移動する個体は遺伝子を運搬する役割を持っているのかもしれません。
  3. アカハライモリの炭素安定同位体比は陸上の動物に近く,これらをよく捕食している可能性があること。つまり恐らく夜間に上陸して陸上の無脊椎動物を食べているのかもしれません。

ため池は,それまで管理してきた農業者の減少により管理が不十分になったこと,それ以上に最近豪雨が頻発する傾向が強まったことから決壊して人的被害が起きてしまうようになってしまいました。このため農業用水源としての役割を終えたため池を潰したり,決壊の恐れがあるため池を改修したりすることが集中的に行われています。これは人間の生命の安全を確保するために必要なことですが,一方で様々な生物が生息するため池の生物多様性保全機能が失われることを意味します。特に③で得られた成果は,改修工事によって水域と陸域のネットワークが断絶されるとアカハライモリの餌資源が失われるかもしれないことを示しています。

図2 アカハライモリの腹の模様の個体差

SDGsは今後の私たちの生活にとって重要な道標であることは間違いありません。が,この研究で明らかになったように,目標の全てを満足させることは難しいことも事実です。このようにある目標を達成しようとするともう一方が成り立たない関係性をトレードオフと言います。本研究室では生物多様性の保全と開発?整備のバランスをとるためにはどうすればよいかを常に考えながら研究を進めています。

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