遺伝子検査?ゲノム医療とは

大腸がんや乳がん、甲状腺がん、胃がん、消化管間質腫瘍などを対象に、検査によって遺伝子の変化を調べ、検査結果を基に治療法や治療薬を選択することを標準治療として行っています。また、遺伝性乳がんや遺伝性大腸がんに対する「遺伝カウンセリング」や、がん組織の遺伝子の変化を一度に多数調べ、合う治療薬が有るかどうか探す「がん遺伝子パネル検査」も行っています。

がんゲノム医療とは

 ヒトの体は細胞の核内に納められている遺伝子とよばれる体の設計図とも言える情報をもとにつくられています。遺伝子は人類共通の部分と、ひとりひとりで違う部分があり、この違いは例えば髪や目の色の違いと関係するものもありますが、病気の発症と関係していることもあります。遺伝子の変化、違いのなかで、がんが発症する原因となるものをがん遺伝子、またはがん抑制遺伝子の病的変異と呼ぶことが有ります。
 当科では大腸がんや乳がん、甲状腺がん、胃がん、消化管間質腫瘍などを対象に、遺伝子検査によって1つまたはいくつかの遺伝子の病的変異を調べ、検査結果を基に治療法や治療薬を選択することを標準治療として行っています。また、がん組織の遺伝子変異を一度に多数調べ、合う治療薬が有るかどうか探す「がん遺伝子パネル検査」も行っています。この遺伝子パネル検査を用いた診断と、その結果に基づく治療は、遺伝子のもつ遺伝情報全体を指す「ゲノム」という言葉を用いて、がんゲノム医療とも言われています。

遺伝性乳がんに対する遺伝カウンセリング

 乳がん患者さんの約5~10%は遺伝的な要因が大きく関わり発症していると考えられています。その中でも最も多いのは、「BRCA1」または「BRCA2」と呼ばれる遺伝子のどちらかに変異があることによって乳がんおよび卵巣がんをはじめとするがんに罹患しやすくなる遺伝性乳がん卵巣がん症候群(HBOC)です。BRCA1遺伝子またはBRCA2遺伝子に病的変異を認める再発乳がんの方にはPARP阻害剤(オラパリブ?)が有効です。この薬剤が使えるかどうかの検査(コンパニオン診断)として、BRCA1またはBRCA2遺伝子に変異がないかの検査を行っています。またHBOCの方は造影MRIを用いた乳がん検診を行うことが推奨され、片側が乳がんになったときに、まだ乳がんになっていない反対側の乳房を予防的に切除したり、卵巣がんになる前に卵巣卵管を予防的に切除したりすることが考慮されます。発症年齢が45才以下の方や、両側や片側の乳房に2つの乳がんができてしまった方、身内に乳がんや卵巣がんになった方が複数名いらっしゃる方など、HBOCの可能性が否定できない場合には、遺伝カウンセリングを受ける事をお勧めしています。遺伝学的検査の結果は、ご本人だけでなく血縁者の方への影響もある事から、カウンセリングにより遺伝子検査の目的や方法、期待される利益や予想される不利益について十分に理解して頂いたうえで検査を受けて頂き、また結果についても遺伝カウンセリングのなかで時間をかけてご説明しています。HBOCについてのご質問は当科外来にご相談頂くか、下記リンク先もご参照ください。
参考:一般社団法人日本遺伝性乳癌卵巣癌総合診療制度機構(JOHBOC)

乳がん、甲状腺がん、消化器がんに対するがん遺伝子パネル検査

 標準治療がない、または標準治療が終了するなどの条件を満たす場合、多数の遺伝子を同時に調べる「がん遺伝子パネル検査」を保険診療で行うことが可能です。検査をすれば必ず治療法が見つかるわけではありませんが、遺伝子に変異が見つかり、その遺伝子変異に対して効果が期待できる薬がある場合には、臨床試験や自費診療などを含めてその薬の使用を検討します。がん遺伝子パネル検査は保険診療で使用できるものの他にも複数あり、研究開発も活発にすすめられています。当院は厚生労働省のがんゲノム医療連携病院に指定されており、がんゲノム医療推進上、重要な役割を担っています。