獣医学科

第11回 獣医さんが教えてくれる「ネコの慢性腎臓病」

今日は、ネコについてのお話です。最近では、ネコも長寿になって、15歳を超え、ネコによっては20歳を超えるも場合も多くなってきています。この様に年齢が高くなってくると、自然と出てくるのが病気です。ヒトでは老齢医学で扱うような病気、つまり、心臓病、糖尿病、腎臓病、腫瘍性疾患が多くなってきます。特に、老齢のネコでは、腎臓病の発生が多くなってきます。この病気は、慢性腎臓病と言って、いろいろな原因によって起きますが、一度発症してしまうと、その病気の進行の早さは様々ですが、確実に悪化していき最終的には尿毒症といった状態で亡くなります。

?なぜ、ネコには慢性腎臓病が多いのでしょうか?これは、ネコの起源によるところが大きいのです。そもそも、ネコの起源は、紀元前4000年頃にさかのぼります。古代エジプト人が、収穫した穀物を狙うネズミ対策にリビアヤマネコを飼い慣らしたというのがネコと人間の関わり合いのはじまりだという説が有力です。それ以前のネコは、森や草原に住み夜行性の行動様式を取っていたと考えられています。その環境は、過酷なもので食料はおろか、水も常に飲める状況にはなかったようです。そこで、ネコは自分の体内で水を再利用できるような体を作りました。

?ネコは、他の動物に比べ、水分要求量が少ない動物です。腎臓は、体内でできた老廃物を血液から濾過して尿を作り出す部分(糸球体)と体に必要な尿中の栄養成分もしくは水などを再吸収する部分(尿細管)で構成されています。特に、ネコの腎臓では、水分の再利用を活発化するため、尿細管が非常に長く作られています。また、一方、腎臓は老廃物を濃縮する組織です。これは、糸球体で尿の基が作られた後に、尿細管で体に必要な栄養成分と水を再吸収することによって、残ったもの、すなわち、尿が作られることになります。したがって、尿は尿細管で濃縮されていることになります。尿は体で作られた老廃物のみではなく、不用意に体に摂取された薬物?毒物を含む有害物の排泄路にも当たりますから、その有害物が濃縮されている尿細管は、腎臓の中でもとりわけ傷害されやすい場所になるわけです。それで、寿命が延長するに従い、有害物質の尿細管への作用も長くなり、結果的に、尿細管の機能が破綻してしまいます。

?尿細管機能が傷害されてくると、その周囲に炎症性の細胞や炎症性の線維やらが出てきます。そうすると、その炎症は糸球体の方まで波及していき、結果的に腎臓の機能がやられ慢性腎臓病となります。慢性腎臓病を完全に直す方法は、まだ、知られていません。ヒトでも、腎臓病は同じく根治療法はなく、人工腎臓(血液透析法)に頼ったり、腎臓移植をしたりしています。ネコの場合も、人工腎臓もあれば、腎臓移植も可能な時代になってきていますが、やはり、保険制度のない獣医療の場合、血液透析を続けていくお金の問題、または、移植する腎臓の提供先(ドナー)の問題が大きくなり、必ずしも現実的な治療法にはなっていません。やはり、「いくつまでも元気で長生き」を実践するには、慢性腎疾患も早いうちに診断し、病気が進行しないように管理してやるのが肝要だと思います。

?獣医師の扱う病気には、まだまだ、治療法のない病気がたくさんあります。そのような病気の場合こそ、獣医師の見識?倫理観が強く問われます。ネコにとって、または、その飼い主さんにとっても、最もいい方法は何かを考えることのできる広い見識と正しい倫理観をもつことも、獣医師になるための重要な勉強の一つと考えてください。

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新動物病院~闘う獣医師たち~

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