第471回獣医学科セミナー<Cutting edge>(1)「動物難治性疾病に対する治療と実際、未来」演者:今内 覚 先生 (北海道大学 大学院獣医学研究院 先端創薬分野分野長?准教授)

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2022-05-16
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A棟3階 A31講義室

イベントの概要

以下の通り、第471回獣医学科セミナー<Cutting edge>を開催します。教職員および学生のご参加をお待ち申し上げます。

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第471回獣医学科セミナー<Cutting edge>

【開催日】 5月16日(月)

【会 場】 A棟3階 A31講義室

【時 間】 17:00~

【演 者】 今内 覚 先生 (北海道大学 大学院獣医学研究院 先端創薬分野分野長?准教授)

【タイトル】動物難治性疾病に対する治療と実際、未来

【要 旨】

 感染免疫?腫瘍免疫において病原体や腫瘍を排除する活性化リンパ球は、『免疫チェックポイント』によって制御され過剰な免疫応答が抑えられている。この免疫チェックポイントは、種々の免疫制御(抑制)因子によって制御され、恒常性が保たれている。しかし一方で、慢性感染症を含む難治性疾病では、種々の免疫制御因子の暴走が、病態の進行および維持に関連することが示唆され、感染細胞や腫瘍細胞が排除されない免疫回避機序の一因であることが示されている。このような慢性感染症や腫瘍疾患ではProgrammed death 1 (PD-1) に代表される免疫抑制受容体が、エフェクター細胞上で発現が上昇し、それぞれのリガンドと結合することでエフェクター細胞の免疫疲弊化を誘発し、細胞増殖能、サイトカイン産生能、細胞傷害機能を著しく低下させている。

 免疫異常(不全)を呈する動物の疾患は多いが、機序についてはほとんど明らかでない。我々は北海道大学に寄せられた家畜や伴侶動物(ペット)の臨床検体等を用いて、疾病横断的に難治性疾病の病態発生機序の解析を行ってきた。その結果、難治性疾病の病態進行にはPD-1などの免疫抑制受容体が深く関与すること、また、これらに対する抗体により疲弊化した抗ウイルス免疫、抗細菌免疫、抗リケッチア免疫および抗腫瘍免疫が再活性化され、難治性疾病の制御法として利用できることを明らかにした。現在、生体を用いた臨床応用試験を実施中である。また、我々が樹立した抗体は、他種に交差反応を示すことから動物横断的な解析(水牛、ブタ、ヒツジ、ウマ、イヌ、ネコなど)も行っている。

 本制御法の特徴は、エフェクター細胞を標的とすることから細胞増殖能をはじめ種々のサイトカインの誘導および細胞傷害機能など多機能的な効果により抗病原体効果や抗腫瘍効果を発揮することである。ヒトでは、2014年に日本発の免疫チェックポイント阻害剤(ニボルマブ:商品名オプジーボ)として上市が開始され、PD-1発見者である本庶教授のノーベル賞受賞に至った。今後、獣医療への臨床応用も期待される。

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