第467回獣医学科セミナー<ベスト論文2021>「マウス膣粘液細胞の研究」演者:杉山 真言 先生(獣医解剖学研究室)

?
2022-04-13
?
17:00
?
A棟3階 A31講義室

イベントの概要

以下の通り、第467回獣医学科セミナー<ベスト論文2021>を開催します。教職員および学生のご参加をお待ち申し上げます。

?

第467回獣医学科セミナー<ベスト論文2021>

【開催日】 4月13日(水)

【会 場】 A棟3階 A31講義室

【時 間】 17:00~

【演 者】 杉山 真言 先生 (獣医解剖学研究室)

【タイトル】 ?マウス膣粘液細胞の研究

【要 旨】

本論文は、妊娠期にマウスの膣上皮中に出現する粘液細胞を多角的に解析したものです。論文のハイライトは以下3点になります。

1. 妊娠期に出現する粘液細胞の形態学的特徴を明らかにした。

2. 粘液細胞中に消化管分泌分子、Trefoil Factorが発現していることを明らかにした。

3. 妊娠期のマウス膣上皮中のMucin、β-defensinの発現動態を明らかにした。

マウス膣上皮は性ホルモンの影響を受け、細胞分化?退行が短時間かつ劇的に変化します。上皮中に出現する粘液細胞もまた、性ホルモンの影響を受け組織中への出現?消失が繰り返されます。ところで当該の細胞は過去にその存在が報告されていたにも関わらず、科学から見落とされてきました。私たちはこれまでに、この「忘れられた組織」を形態学的に再検証しました(Sugiyama et al. Cell Tissue Res. 2021)。本論文では妊娠期における粘液細胞の組織学的特徴を明らかにした上で、当該の細胞が何をやっているのか解析を行いました。

本論文をベスト論文に選出いただいたき心から嬉しく思っております。これまでの一連の研究は、組織切片の中の粘液細胞を偶然見たところから開始し、多くの学生や諸先生と議論を重ね、アイディアを出しながら少しずつ研究を進めてきました。本セミナーでは、研究の内容よりは、論文の作成経緯、研究技術、共著者や査読者とどのような議論があがったか、作成の背景を中心にご紹介したいと思います。大学院生や若手の先生方に何かご参考になる情報を共有できればと思っております。

?

【選出理由】

2021年1月?12月までの間において獣医学科の教員がFirstまたはCorresponding authorとして発表した論文の中で、セミナー委員会における選考の結果、杉山先生らによる論文を以下の理由によりベスト論文2021に選出いたしました。

?

Vaginal mucus in mice: developmental and gene expression features of epithelial mucous cells during pregnancy

Makoto Sugiyama, Nao Machida, Arata Yasunaga, Nanako Terai, Hanae Fukasawa, Hisaya K Ono, Ryosuke Kobayashi, Keita Nishiyama, Osamu Hashimoto, Shiro Kurusu, Kazuki Yoshioka

?https://academic.oup.com/biolreprod/article/105/5/1272/6355555

?

1. マウスの膣粘液という非常に限定的な研究テーマではあるものの、本研究成果が他の哺乳類生物においても同様なのか、あるいはげっ歯類に特異的なものなのか否かなど、獣医解剖学分野において非常に興味深い発見であり、発展性も期待されます。組織学的な解析とそれらの数値化、そして遺伝子発現解析によって結果が丁寧に裏付けられていました。

2. 古典的な手法による実験であるが、説得力のあるきれいなデータで構成されており、また、とてもわかりやすいストーリーを簡潔な論調で書き上げてあるため。

3. 専門外のため推薦理由を記載するのは大変僭越ですが、綺麗な組織や電顕写真で、Figの構成もわかりやすくまとまっており、ラットの膣粘液分泌を明確に実験データを示している点が素晴らしいと思いました。

4. 妊娠?分娩時の膣上皮粘液細胞系の部分的な特徴を明らかにした論文であり、研究内容及び実験の組み立てに価値があると評価するため。

5. 妊娠?分娩という生命の営みで重要な生物の機能を解剖学的かつ分子生物学的に観測するという基盤となる研究で学術的にもインパクトが高いのではないかと思いました。

?