相模原市認知症疾患医療センター

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センター長コラム

第10回 認知症のある人への態度について

第2回以降、認知症にまつわる話題で違和感を感じていることを例にあげながら、認知症や認知症のある人への望ましい理解について述べてきました。こうした違和感は筆者が主に診療や研修会等を通じて感じてきた私見に過ぎません。ですから、とても主観的ですし、客観性に乏しいという限界があります。しかし、やはり認知症のある人への理解は十分に広がっておらず、認知症のある人が暮らしづらい社会があるように感じています。
 そうした中で、2019年9月に公開されたAlzheimer’s Disease InternationalによるWorld Alzheimer Reports 2019 Attitudes to Dementia※を目にする機会がありました。このレポートは世界中のおよそ7万人の人々を対象とした調査です。人々の認知症に関する理解、認知症のある人への態度について、これだけ大規模な調査は過去にありません。そこには医療?介護関係者の認知症のある人への態度について、目を背けてはならない現実が生々しく記されています。「私の主治医は私の診断について夫と話すとき、私の存在を無視していた」「彼らは時々、私がそこにいないかのように妻と話すが、私はすぐそばに座っています」「多くの支援職の人たちは私について話し、私について話し、そして私には決して話しません」と、認知症のある人の声が記されています。そして認知症のある人の85%以上が、自分の意見を周囲の人は真剣に受け止めていないと感じていました。これらの声は諸外国の認知症のある人の声として記されています。しかし日本でもこうした思いを抱いている当事者は決して少なくないのではないでしょうか。
 支援する人は相手に認知症があると知ると、伝えても忘れてしまうに違いない、理解できないに違いないとレッテルを貼り、家族とばかり話してしまいがちのように感じることがあります。介護施設では、その人が何をしたいか、何をしたくないのかを尋ねないまま、用意されたプログラムを提供していることが多いように感じることがあります。私たちは認知症のある人が様々なことを忘れやすくなっているけれど、覚えていることがたくさんある人、理解力のある人、判断力のある人と認識し、自分のなかにあるスティグマに気づく必要があります。その気づきが、認知症のある人への態度を適切なものにしてくれるはずです。
 World Alzheimer Reports 2019 Attitudes to Dementiaは、一般市民も医療従事者も認知症を隠蔽する傾向が高いことを指摘しています。そしてアンチスティグマのための活動、権利擁護の重要性を指摘しています。スティグマを解消するために有効性が確認されている方法は見つかっていません。しかし認知症のある人の声を聞くこと、認知症のある人と話す機会が増えることの有効性は指摘されています。認知症があっても安心して暮らすことのできる街づくりのためには、こうした視点がますます重要になると言えるでしょう。

https://www.alz.co.uk/research/world-report-2019(2019年1月13日時点)

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