3. 現代医学的観点から見た漢方医学の未病制御の解明

本研究では、漢方薬や生薬素材、機能性農産物を日常生活に取り入れることが、若年世代からリタイヤ世代までの心身の健康の増進に繋がることを科学的に明らかにし、その実践により健康寿命延伸に留まらず、社会全体が活気付く社会を目指しています。

解決すべき課題

近年、予防医学の重要性が再認識されている中、東洋医学の概念として古くから伝えられている「未病」が注目されています。この未病をうまくコントロールすることができれば、様々な疾病を未然に防ぐことができ、最終的には健康寿命の延伸により、心身ともに豊かな人生の実現が可能になることが期待できます。そのため、漢方薬を含めた伝統薬には未病を制御する力があるものとして現代まで使われ続けてきました。しかし、それは未だ科学的には充分解明されているとは言えません。そこで本研究は、現代医学的な観点から構築した未病を捉えられるモデルマウス(未病モデルマウス)(Ito N. et al., Exp. Gerontol. 142, 111109, 2020)を用いて、下記の課題に取り組みました。

研究の概要

1.漢方薬の未病制御

本研究で構 築した未病モデルマウスは、ある週齢(病態期)に達すると様々な異常(うつや不安、サーカディアンリズム異常、脳内炎症など)が出現する特徴があります(図1)。そこで、このモデルマウスに漢方薬として香蘇散 (KS)、ノビレチン高含有香蘇散 (NKS)、八味地黄丸 (HJG) の熱水抽出エキスをそれぞれ13週間摂取させた時の効果を行動薬理学的な指標により評価しました(図2)。その結果、無気力行動(うつの指標)はすべての投与群で有意な改善が認められ、NKSはHJGより強い効果を示しました(図3)。一方、不安行動や明暗期活動量の差(サーカディアンリズム異常の指標)は、どの投与群においても改善効果は認められませんでした。なお、脳内炎症に対する作用は、現在解析中です。

図1 未病モデルマウス
図2 実験スケジュール
図3 うつ様行動の改善効果

2.未病に対する北海道産シソの有用性

同モデルマウスに対して、北海道産赤シソと青シソの熱水抽出エキスを10週間摂取させた時の効果を行動薬理学的な指標により評価しました。その結果、加齢に伴って生じたサーカディアンリズム異常は赤シソ摂取でのみ改善が認められました(図4)。しかし、うつや不安行動はどちらのシソ摂取においても改善しませんでした。

図1 未病モデルマウス

最後に

以上の成果は、まだ途中段階のものもありますが、未病期からの漢方薬や機能性農産物の摂取が加齢に伴って現れる諸症状に対して有効である可能性を示すものであり、今後の展開に期待します。また、漢方薬の未病研究に関しては、「『漢方薬が未病に効く』を科学的に証明し医療の可能性を広げたい」というテーマでクラウドファンディングにより支援を募り、未病解明に向けさらなる研究が現在進行中です(https://readyfor.jp/projects/mibyo-kitasato)。

 戻 る

pagetop