2.生薬の品質可視化と品質評価技術の開発

研究の背景

博狗体育在线_狗博体育直播【官方授权网站】@東洋医学総合研究所の薬剤部では、日本の漢方理論に基づく煎じ薬を中心とした調剤を行っています。漢方は経験的?伝承的要素の強い医療であり、長い年月をかけて中国産生薬に類似する日本野生の近縁生薬が活用され、かつては国産生薬の生産が活発で海外に輸出されていた生薬もあります。また日本人によって積み上げられた治験例の中には国産生薬によって構成されていた漢方薬によるものも多々含まれています。しかし、生薬の生産には手間暇がかかり、安価な中国産生薬にとって代わられ、日本自生の薬用植物も減少が進んできました。近年、中国における人件費の上昇や中国での原料生薬への需要の高まりによって中国産の生薬の価格が上昇し、生薬国産化推進の重要性が社会的に広く認識されつつあります。このような状況下、特に重要なのが品質管理です。生薬は自然から生まれる天産物であるため、生薬の品質や形態は、産地や天候、発育、栽培方法、修治(加工方法)などに依存して変化し、殊に新しい産地での品質鑑別は容易ではありません。天産物である生薬は含有される成分が多く、一つの成分だけを分析するのでは、生薬の薬効に関わる部分を分析できません。そのため含有される化学成分の網羅的解析が必要です。近年では化学分析技術の発達に伴い、簡便に網羅的化学分析する技術が開発されています。
我々は、網羅的化学分析する技術の一つとして主成分分析(principal component analysis; PCA)を採用しました。主成分分析は、多くの要素(データ)が含まれるサンプル間の比較を容易にする可視化ツールです。主成分分析は、1サンプルに多くの要素を含むサンプルを統計的に処理し、類似したパターンを示すサンプルを近傍にマッピングし、各サンプル間の類似性、相違性を明確に反映したマップを表示することができます。これを私たちは生薬一つ一つについて「生薬品質評価マップ」の作成にとりかかりました。なお、この際に利用する化学的分析手法として、再現性が高く簡便に測定が可能な?H-NMRを用いて実験を行いることとしました。

図1

高品質で安全性の高い生薬の臨床使用を支援するための品質保証体制確立

これまでの研究成果【全体】

研究の概要

本研究は、生薬の品質評価に関する経験知を客観化?数値化して、比較的短時間に簡便な方法で再現性の高い生薬の品質保証体制を確立することを目標にしています。
現在、繁用33処方配合生薬46品目を対象に、国立医薬品食品衛生研究所生薬部、国立研究開発法人医薬基盤?健康?栄養研究所薬用植物資源研究センター筑波研究部、公益社団法人東京生薬協会など多くの機関や企業のご支援の下で推進しています。
この46品目の生薬について、図2のように生薬品質評価マップを作成することができました。

図2

これまでの研究成果【全体】

研究成果の一例

このような生薬の化学的品質評価の一環として、福井県高浜町に自生するゴシュユの分析を実施しております。ゴシュユは晩夏から初秋に少し赤く色づいた果実を収穫し乾燥して使用します。江戸時代にはゴシュユは国内で栽培されていましたが、現在では、ほとんどを中国からの輸入に依存しており、国内での栽培ノウハウが失われていました。特に収穫時期を誤ると飲みにくさに起因する苦み成分やえぐみ成分が多く含まれることになります。ゴシュユ の産地形成を目指す高浜町の依頼に応じ、二週間おきに収穫したゴシュユを網羅的に化学分析し、有効成分が多く一番苦み成分やえぐみ成分の含有率が少ない時期を決定し、ゴシュユ製品化のための基礎的なデータを提供しました

図3

これまでの研究成果の一例

最後に

生薬は先人の智恵に基づいて栽培や修治(しゅうち?薬用に加工すること)の条件が決定され、品質が管理されてきましたが、そのノウハウは見える形では存在しませんでした。しかし、私たちは以上のように現代の化学分析機器を用いて、生薬の品質鑑別を形式知化(見える化)することができました。 このような研究成果が、薬用作物の優良株の選抜、栽培方法の評価、品質特性に応じた活用、少量多ロット生産された生薬の品質管理も容易になり、国産生薬の安定生産を支援することにも繋がると期待しています。

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